初めての幽霊屋敷
「とりあえず、自己紹介しとこか、ワシはラトラ・トラータや♪ ほんで、このちっこいのが──」
「ヴァルクスです! よろしくお願いします!」
「アタシはエルミア・ディネルース…エルでいいぜ」
町を出て数分──不意に桐生が自己紹介を始める。
ここでようやく少女の名前を聞く事が出来た。と、言うのもステータスを見せる事を拒んだからである。
若干気まずい空気が流れた為に、このタイミングでの自己紹介なのである。
「ところで、どんなクエストなんだ?」
「まだ内緒や」
「チっ・・・討伐系なら良いんだがな」
桐生はヘラヘラと笑いながら返し、その態度にイラついたのか、小さく舌を鳴らしながら要望を漏らすエル。
だが、桐生の反応を見る限り違う様だ。
「まぁ、モラウ大森林に着いたら教えたるわ」
◇
「ところでいいのか?」
「ん? なにがやねん」
自己紹介も済み、更に数分歩いた所で俺はある疑問をぶつける──当然、エルには聞こえない様に声量を落としながら。
「俺達は転生者だ。なら、なるべく他の奴との接触は避けるべきじゃないのか?」
俺の懸念はそれである。
バレた所で信じられない話ではあるが、それでも面倒は避けるべきだ。
「まぁ、大丈夫やろ。バレても大した事になれへんて」
「だといいがな……」
「さて、ここからは気を引き締めよか」
悩む俺をよそに、能天気な声でそんな事を漏らす桐生。
見ればモラウ大森林の入口に立っていた。
◇
「おいトラ、今の内に休憩をしようぜ」
「ん~まぁ、えぇで。ほな昼飯にしよか」
森に入り数分後、見覚えのある場所に出る──ハゲ達とキャンプをした場所だ。
そこで休憩を提案するエルと、昼食の段取りをする桐生。
「にしても、意外とすんなり着いたな」
エルの言う通り、前回来た時よりも断然早く着いた。
恐らく桐生だろう。
ザック達四人を一人で倒した桐生はハゲよりも強く、当然それはガルフよりも強いと言う事だ。
まぁ、数によっては桐生は負けるだろうが、それでも警戒はされている事だろう。
それらの理由から、俺達は一切戦闘をしないままここまで辿り着く事が出来た。
「ほんならガルフの肉で焼き肉でもしよか!」
そう言って桐生は、手際よくバーベキューの準備をして、マジックポーチから取り出した野菜とガルフの肉を焼き始める。
「ほら、野菜焼けたから食べな」
「ありがとおねぇちゃん!」
正直な話、二日連続の焼き肉は堪えるが、エルが野菜を差し出してくれた事で、俺は肉を回避する。
「所で、エルちゃんは何歳?」
あまりに脈絡のない質問に、俺とエルは思わず怪訝な表情を浮かべる。
「普通、女にいきなり年を聞くか?」
「いやぁ、見た目より大人っぽい思うてな」
確かに、見た目は小学生にしか見えないのだが、こんな世界なのだ──見た目より大人びた子供や子供みたいな大人がいても不思議はない。
「アタシは二十歳だよ」
『は?』
俺と桐生は顔を見合わせ、そんな間抜けな声を同時に出してしまった。
「ワシよりも年上なん!? いやいや、ありえへんて!」
「アタシがウソをついてるってのか?」
「いやいや、そんな事は言うてへんで? なぁ?」
エルに気押されたのか、桐生は俺に同意を求めて来るが……俺は無視をして食事を摂る。
◇
「よっしゃ! そろそろ行くで!」
昼食を済ました俺達は、森の更に奥へと進む。
「なぁ?そろそろクエストの内容教えろよ」
エルにそう問われた桐生は、ヘラヘラ笑いながら答える。
「ふっふーん♪ 幽霊屋敷の調査やで~♪」
基本的に非科学的な物を信じない俺は当然幽霊も信じていないのだが、この世界なら有り得るかも知れない──そんな事を考えていたら怯える者が一人。
「ふ、ふーん! 幽霊なんざワンパンで余裕綽々だな!」
小刻みに震え、声が上擦っているエル──そして、それを見逃さなかった桐生はここぞとばかりに挑発をしてみせる。
「どないしたん? まさか、怖いん? いやいや! そんな事あらへんて! なぁ?」
「ふんっ!」
そんな桐生の鳩尾に強烈な一撃をお見舞いするエル。
「大丈夫だよ! ボクが守るからね!」
コクコクと頷きながらも、俺の腕を放さないエル。
イマイチ信用出来ない虎男と頼りにならない少女に不安を覚えながらも、俺達は幽霊屋敷へと進み始めた。




