初めての女子
──何故俺の名前を知っているのかを問ただそうと思ったが、よく見れば服がはだけてしまい、字が丸見えだった。
「さて、次はキミが見せてくれるか?」
「悪いが、それは出来ない」
桐生と名乗る男は今度は俺にもステータスプレートを見せる様に言って来るが、当然答えはノーだ。
だが、その答えに不満そうな桐生は一度街に戻る事を提案する。
「リルちゃんに証明してもろうたら流石に信じるやろ?」
「まぁ、それならいいだろう」
◇
名前がバレた俺は、不本意ながらも桐生とサンミーの町へと戻って来た。
それと、ザック達は桐生の持っていた大型のマジックポーチに詰めたことで、難なく運ぶことが出来た。
桐生がポーチに入れるのを見て、俺も自分のポーチにザックの仲間を入れようとしたが──。
流石にそれには入らんで…と桐生にツっこまれるまで気づかなかったのは内緒の話だ。
◇
「ご協力ありがとうございます!」
「毎度おおきに♪」
桐生が本当に信用出来るのか……そして、亜人とはなんなのか…そんなことを考えている内にギルドについていたようだ。
桐生はリルにザック達を引き渡し、本題に入る。
話を聞けば、ザック達が度々奴隷商人と会っている噂を耳にしたリルは、至急桐生に捕獲を頼んだらしい。
「聞いてやリルちゃん! この子ワシの事、全然信用してくれへんのよ」
「確かに怪しいかもですけど、大丈夫ですよ」
桐生の少し大げさな説明を聞いたリルは、膝を折り、俺に目線を合わせて笑顔で言う。
「ギルドには信頼されているようだな」
「これで少しはワシを信用する気になった?」
その程度で信用出来るわけがないが──しかし、嘘を言っている様にも見えない。
これからの事を考え、桐生と行動を共にするかを悩んでいると、リルが一枚の紙をこちらに見せてくる。
「そういえばラトラさん? このクエスト受けてみませんか?」
「どれどれ?」
紙とはクエストの依頼書だった。
依頼書に目を通した桐生はニヤリと、嫌な笑みを浮かべてこちらを見る。
「それではまた明日」
手を振り、宿屋に向おうとするが──やはり、桐生に止められてしまう。
懇願するようにリルを見やるが──。
「ラトラさんと一緒なら安心ですね」
うおおぉぉい!と、思わず叫んでしまいそうになる程裏切られた気分だ。
せめて、あと一人欲しい所だが──。
ふと、視線を感じそちらを見ると、栗毛色の髪をマッシュルームの様な形に切りそろえ、白いローブを着た女性がこちらを見ていた。
「なんや用か?」
桐生も気づいたらしく、その女性に声を掛ける。130cm程の小柄な女性だ。
「アタシも付いて行っていいか?」
その突然の提案に、俺達三人は目を丸くする。
常識的に考えれば、初対面の人間に命を預けると言っても過言ではないその行動に──。
「どないする?」
「うーん…冒険者なのは間違いないと思いますが…」
小声で相談する桐生とリル──少女は金色の双眸を、こちらに向けたまま動かない。
「まぁ、悩んでもしゃあないし…いこか」
どうやら桐生は同行を許可したらしい──それにリルも同意の様だ。
少女も満足げな笑顔を見せる──まぁ、宿に戻る俺には関係ないことなのだが──
「どこ行くねーん」
どうやらそれも叶わない様だ。
こうして俺は新たな仲間と、二度目になるクエストへと向うこととなった。