初めての亜人
誰かの足跡が聞こえる──その音と共に聞こえる四人の声。
徐々に目が覚め始めるが、いまいち意識がはっきりしない。
そして、妙な気だるさがある原因を記憶の中から探り始め、昨夜のコーヒーを思い出す。
「ん゛──!!?」
気づけば頭から厚めの麻袋の様な物を被らされ、両手足をロープで縛られている。
「お目覚めか? 悪いな…これからお前は奴隷商人に売り飛ばされる」
俺の声に反応を示すのはお馴染みザックだ。
奴隷商人と言う聞きなれていなくても、最悪の想像しか浮かばない単語を聞いたことで、この状況を打破する方法を必死に考えるが、どうも頭が回らない──焦りと眠らされた薬の所為なのだろう。
「止まれ! 誰かいるぞ」
そんな声を誰かが上げると、ザック達は足を止める。いよいよ死を覚悟したのだが──。
「そこのハゲ共! そのでっかい荷物を置いて行ってもらおうか」
「「「「誰がハゲだ!!」」」」
初めて聞く声の罵倒にザック達は同時に否定の声を上げる。
顔を覆われているために状況が把握出来ないが、ザック達の声を聞く限り待ち人ではないようだ。
「お前…奴隷商人じゃねぇな? それに、亜人だな? 何モンだ?」
「何でそないな事言わなあかんねん? えぇから早よそのガキ置いて失せろや!」
「誰がてめぇなんかに渡すかよ!」
「せやったらしゃあないね」
元いた世界では馴染みこそないものの、メディアなどで度々耳にする関西弁で応対する男。
そして、亜人と言う謎の単語に首を傾げる。
「舐めやがって! 野郎共! やっちまえ!」
「「「おう!」」」
「しゃあないの~」
ザックは俺を雑に地面に転がし、関西弁の男と戦闘に入った様だが、一瞬音がしただけで静寂が訪れる。
次に聞えたのは、ザックの怨嗟混じりの声──。
「畜…生っ……!」
「大丈夫か?」
顔を覆っていた物が外され目を開けると、身長170程だろうか──虎と人間が融合したような男が立っていた。
琥珀色の双眸の男は、フード付きの黒いロングコートに、黒のレザーのパンツに黒のブーツを履いている。
そして、鋭利な爪で俺を縛っていたロープを拘束を切ってくれた。
「あの、助けてくれてありがとうございました! それでは失礼します」
「待たんかいワレェ!」
俺は礼を言い、踵を返して帰ろうとするが──首を掴まれ、引き止められる。
「なんですか? 離して下さい」
「キミ…ヴァルクス君やろ?」
振りほどこうとする俺に男は問いかける。何故か俺の名前を知っていることで更に警戒心が強まるが、それも杞憂だったようだ。
「ワシはギルドに頼まれてキミを迎えに来ただけや。心配することあらへんよ」
「そうですか。ではお疲れ様です」
「せやから待てや! 何ですぐ帰ろうとするん?!」
すぐにでも帰りたいが、虎男がそれを許してはくれない。
「僕になにか用ですか?」
「せやから、ギルドに頼まれて迎えに来たんや」
恐らく、ギルドの受付嬢──リルの差し金だろう。
しかし、誘拐されそうになった直後だと言う事もあり、すぐには信じる事は出来ない。
「これ見せたらちょっとは信じるか?」
そう言いながら、虎男は一枚のカードを差し出す──それはステータスプレートだ。
「ワシのステータス見てみぃ」
言われるままに、ステータスを確認すると──。
名前:ラトラ・トラータ
才能・双剣士
年齢・15
性別・男
階級・C
固有技能・【瞬速】【野性化】
才能技能・【二刀流】
武器技能・【剣術】【体術】
──と、表示されていた。
「これで、少しは信用出来たやろ?」
そう言いながらニヤリと、笑っている虎男──もとい、ラトラ。
「ラトラさんですね。分かりました──では。」
「やからすぐ帰んなや!」
「あの……ホントに勘弁して下さい」
「なにがやねん!」
プレートをラトラに返し、帰ろうとするが邪魔されてしまう。
そろそろ本気で面倒くさくなってきた。
「しゃあないのぉ」
そう言いながら、左腕の袖を捲り、そこに刻まれた字を見た俺は目を見開く。
「桐生 刃夜──それがワシのホンマの名前や」
驚愕の表情を浮かべる俺を見て、満足そうに笑いながら、さらに続けるラトラ。
「今度こそ信用出来たやろ? 武クン? 」
これが俺以外の転生者との初めての出会いだった──。