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転生!我らは勇者なり!  作者:
第一章『初めての転生』
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初めてのモンスター


──サンミーの街を出て北に向かう。


町を出て一時間程──だだっ広い草原を歩けば、そこにモラウ大森林と呼ばれる森がある──で、魔物を退治するのが今回のクエストらしい。


そこで、討伐対象についての質問をする。


「どんなモンスターなの?」


「一言でいやぁ獣だな。ガルフっつー奴なんだが、最近数が増えて生態系が狂うってんで討伐対象になったんだ。」


聞けば、狼のような魔物らしい。


群れで行動するらしく、冒険者も手を焼いているらしい事までは分かったが、肝心の戦い方に関してはまだ聞いていない。


「早速お出ましだな!」


町を出て数分──整備されたとまでは言わないが、草が刈られた道を歩いていると、そこには例の魔物がいた。


白の部分が無い双眸はドス黒く、黒い体毛に覆われた魔物は狼そのものだった。


数は五匹──俺達の前方で横一列に並び、鋭い牙を剥き出しにしてこちらを威嚇している。


 「ボウズはさがってな。いくぞヤロウ共!」


ザックの声に他の三人も雄たけびを上げ、それと同時にガルフも一斉にこちらに飛び掛って来る。


 「オラァ!」


 けたたましい怒声と共にザックはガルフの一体を乱暴に殴りつける。


側頭部を殴られ、空中だったこともあってか、数メートル程飛んでゆく。そのまま動かなくなり、絶命したのだと感じる。


他の者達もザックに続き、ロックは頭蓋を踏み砕く。


ダンは首に腕を回し、そのまま絞め殺す。


ギドは手刀で腹を貫く。


命が無くなる瞬間を目の当りにした俺は思わず目を伏せるが──。


 「あぶねぇ!」


 ザックの声に驚き前を見ると、俺をターゲットに選んだらしきガルフの一体がこちらに迫って来る──その距離は一メートルも無い、他の者達も間に合いそうに無い、ザックに言われた通りに離れた場所にいたからだ。


咄嗟に俺はナイフを抜き、前に突き出す──手に嫌な感触が伝わり、耳にはナイフが目に刺さる音とガルフが苦しむ声が届く。


 「まだだ! 止めを差せ!」


 再びザックの声にハッとし、抜いたナイフを腹に指す。


それを、横に薙いで腹を裂く。


夥しい量の血が噴出し、ガルフは悶え苦しみながら程無くして動かなくなる。


初めての殺すと言う感覚は俺に様々なものをもたらした。


真っ赤に染まった自分の手を見つめ、嫌な血の臭いと生暖かさを感じ、動かなくなったガルフを見つめ罪悪感を感じ、そして、この世界に生まれて何度目になるか分からないが改めて実感する──ここは異世界なのだと。



 一時間程歩き、俺達はモラウ大森林に到着した。


あの後運が良かったのか、特に魔物に遭遇する事無く目的地に足を踏み入れる。


木が多い茂り、日の光は届かない。更に、もう直ぐ夜が来る事もあって緊張が走る──それは、ザック達も同様のようだ。


 「よし、狩りまくるぞ!」


 「「「おぉー!!」」」


ザックの声に三人はハゲシンクロ率100パーの応答をするが──ガルフ達も警戒しているのか、中々姿を現さない。更に森の奥へ進むと少し開けた場所に出る。


 「よし、今日はこの辺で夜営の準備をしよう!」


 まだ明るいが、暗くなるまえに準備をした方がいいらしいと夜営の準備を始める四人。


よくしているのだろう──なれた手つきでテントを張り、食事の準備をする。因みに、さっき倒したガルフの肉がメインだそうだ。


その辺で手ごろな薪を拾い、木を擦り火をつける。原始的ではあったが、その速さに少し感動を覚える。


 ◇


 「うんめぇ!」


 「やっぱり焼き肉だな! ボウズも遠慮しねぇでじゃんじゃん食えよ?」


 鉄製の串に刺したガルフの肉を焚き火で焼き、丁寧に切り分けた肉を頬張るザック達。


俺もそれを恐る恐る口にするが、意外にも味はよかった事に少し驚く。


味付けは塩のみだが、こんな世界なのだ──塩があっただけでも上々である。


 ◇


 「ほらよ」


 「ありがとう」


 食事をすませた後、ザックが木製のコップを差し出してくる。


礼を言いながらそれを受け取り、懐かしい匂いが鼻を優しく撫でる。


 「これは?」


思わずそう聞いたが、これは紛れも無くコーヒーだ。


まさかこの世界でコーヒーが飲めると思っていなかった俺は、疑う事無くそれを口にする。


元いた世界で飲んでいた物と比べれば天と地程の差──とまでは言わないが、それでも味は落ちる。


けれど、懐かしい飲み物に思わず笑みが零れる。


 「あれ? なんで…?」


 ほんの三口ほど口にした所で、急激な眠気に襲われる。そこでようやく一服盛られた事を理解する。


 「今日は疲れただろ? ゆっくり寝てな」


 辺りにはザックの下卑た嗤いだけが響いていた。


怪しいのは百も承知だったが、それでもどこかで油断していたのだ。

自分の甘さと死への恐怖も、微睡み(まどろ)に塗り替えられ、俺の意識は昏い闇に沈んでいった。

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