初めての一人旅
父と母の亡骸を埋葬し、木で作った十字架を立てた俺は手を合わせて黙祷する。
「あなた達の仇は必ず取る…だから、ゆっくり眠ってくれ」
そして、犯人に繋がる手掛かりを探し始める。
燃えカスとなってしまった木材をどうにかどかして行くとそれはあった。
正方形の鋼鉄製の扉だ──そっとそれに触れてみる。
「…ッ!?」
母がくれた大事な指輪──今となっては形見になってしまったそれが淡い光を放つ。
すると鋼鉄製の扉が重々しい音を立てながら開いてゆく。
中を覗き込むと、地下へと続く階段──下りて行くと直ぐに石造りの部屋があった。
天井には部屋を照らす程の石が埋め込まれている。
部屋の奥には木で作られた、質素な机と椅子が置かれているだけだったが、よく見ると机の上には手紙とポーチのような物が置かれている。
『──愛しの息子へ──
この手紙を読んでいると言うことは私は死んでしまったのかしら?
では、要点だけ書いておくわね。先ず、あなたにあげた指輪だけどそれは施錠と解錠の力を持った魔法具。
大抵の鍵を開け閉め出来るの。すごいでしょ?そしてこの世界についてだけど、それはあなた自身の目で見てね。
それから、箱の中に色んな物を出し入れする事が出来るマジックポーチもあるから大事に使ってね?
お金も少しなら入ってるから無駄遣いしてはだめよ?
それじゃあ、ママからの手紙はここまでです。頑張って生きてね?
あなたの成長を見られない事が残念です。
──母より──』
手紙には母からのメッセージとポーチと指輪の説明が書かれていた。
マジックアイテムと言う聞きなれない単語もそうだが、問題は最初の一文だ。
「母は自分の死を予見していた?」
そう、俺が気になったのはそこである。
どんな世界においても──それが異世界であっても自分の死を予見する事など出来るだろうか?
例えば病気を患っていたなら納得も出来るが、母は健康そのものだった。
なら、なにかトラブルに巻き込まれていた? 可能性としては微妙だろう。
今考えても答えは出ないだろうと思い、俺はポーチに視線を移す。
ポーチの中に手を入れると、何かが手に当たる感触──俺はそれを掴み外に出す。
それはこのあたり周辺の地図だった。
他にも何か無いかと再びポーチに手を入れる。
そこで後方からカサッと音が聞こえる。
一瞬身構えるが、そこには一枚の手紙が落ちていた──そこに書かれていたのはあの女神からのメッセージだった。
「申し訳ありません。まさか、あなた様の転生先がそのような事になるとは……本当にすみません。
そして、あなた様にひとつだけ冒険のヒントを与えます。他の転生者を探して下さい。
身体のどこかにあなた様と同じようにあなた様の国の文字が刻まれています。
あなた様と他の六人の転生者がこの世界を救ってくれる事を切に願います。」
「今更謝って許すわけがないだろう。しかも、世界を救えだと? ばかばかしい!」
ふざけた内容の手紙に俺は、思わずその手紙を地面に叩きつける。
俺の願った平和を叶えず、あまつさえ世界を救えと言う始末。
両親に直接手を下したわけではないし、女神にも不測の事態だったのだろうが──それでも憤りを感じずにはいられなかった。
少ししていくらか冷静になった俺は不本意だが、女神の手紙をポーチに入れて地図に目を通す。
ここから一番近い町を次の目的地に決め、部屋を後にする。地下部屋の扉に鍵をかけ、土を被せた俺は再び両親の墓に祈りを捧げる。
そこでふと、女神の手紙の内容を思い返す。
「文字が刻まれていると言っていたが」
自分の身体を探してみると、左の丁度鎖骨の辺りにそれはあった──武と。
「まさか自分の名前が彫られていたとは…な。」
彫られてしまってはどうしようもないと諦め、他の内容に意識を傾ける──確かに他の転生者と書かれていた。
ならば、当面の目的は仇の情報を集めながら、転生者を探すことである。
自分の復讐に利用するため──仲間がいれば成功の確率は飛躍的に上昇するだろう。
誰かを自分の復讐につき合わせてしまうことに罪悪感を覚えながらも、目的の為には手段は選んでいられないと、半ば強引に自分の気持ちに蓋をする。
そして、次の町を目指して歩き始めた。