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転生!我らは勇者なり!  作者:
第一章『初めての転生』
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初めての異世界


 「朝ですよー早く起きて下さーい」


 まるで子供を起こすかのような、聞きなれない女性の声が俺の鼓膜を揺らす。


その優しい声に思わず再び意識を手放しそうになるが、自分が死んだ事を思い出して勢いよく起き上がる。


 「急に起き上がったらびっくりするじゃない。ほら、早く下にいらっしゃい」


 そう言い残し女性は、部屋を後にする──どうやら母親らしい女性は、ブロンドの長い髪を後ろに束ねている清楚な感じの女性だ。


そして、ヴァルクス・ファラデリック──これが新しい名前のようだ。


悪くはないが、てっきり日本だと思っていた俺は、少し妙な気持ちになる──不安と期待が混ざったような感情だ。


 「ヴァル? 早く起きて朝食を食べなさい。パパはもう起きてるわよ?」


 そんな事を考えていた俺に、再び母が声をかける。


意識を切り替え、声のする方へと足を向ける。


途中、洗面所に向った俺は鏡で自分の姿を確認を行う。


 髪は母親と同じ美しいブロンドで、長さは耳にかかる位のちょうど良い長さだ。


身長は140前後といった所──平均レベルだ。そして、鮮やかな赤い瞳をしていた。


 「おはようヴァル! よく眠れたか?」


 リビングに向うと、にこやかに手を振る男と対面する。


 木造のテーブルの周りには4つの椅子が並べられ、その一つに腰を掛けている赤髪で短髪の男がどうやら父親のようだ。


 「ヴァル? パパに朝の挨拶は?」


 「パパーおはようございます!」


 「うむ! おはよう! 元気いっぱいだな!」


 そう言いながら、ガッハッハと笑う父──ヴァロスとクスクスと笑う母──シャルロッテだ。


 そして、母は父の向かいに腰を掛け、俺は母の隣に腰を掛ける。


 「いただきます!」


 三人で手を合わし、朝食を食べ始めた。





 「それじゃあ、行ってくる」


 「はい、気をつけてね。それから今日はヴァルの──」


 「息子の誕生日位分かっているさ。それじゃあ」


 「はい、行ってらっしゃい」


 「パパいってらっしゃい!」


 「おう! ヴァルも良い子でな!」


 俺の頭を撫で、仕事に向かう父──それを見送った母は食器類を洗い始める。


俺も手伝おうとしたのだが断られてしまい、外に出ようにも許可が下りず、一言で言えば暇なのだ。


だが、幸いにも書斎に入る許しはもらったのだ。


しかし、ここで一つの疑問が上がる──果して読めるのかだ。


英語ならともかく、フランス語やドイツ語ならお手上げだ。


しかし、この身体で言えば十歳──つまり、武としての記憶を引き継ぐ前の自分なら、ある程度は文字の読み書き位出来ていても不思議ではない。


だが、記憶を引き継いだ時にそれを忘れている可能性もわずかだが浮上してしまう。


そんな一抹の不安を抱えながら、書斎へと向う。


ずらりと並べられた本──その中から一冊を手に取り、中を見る。


 「なんだこれは?」


 結果だけを言えば、読める文字と読めない文字が綴られていた。


日本と違い漢字などはないが、そんな事よりも重要な問題が飛び込んでくる。


初めて目にする文字の羅列──殆どの国はアルファベットを使用している筈、ならばとインドやアラビア文字も考えたが、それも違うようだ。


読めないはずが何故か読める、そんな気味の悪い違和感を感じながらページをめくってゆく。


 「ふふっ…性質(たち)の悪い冗談だな」


 思わず溜息混じりの笑みが零れてしまう。


見たことの無い文字なのは当たり前だった。


そこに書かれていたのは、知らない歴史、国、文化だった。


理解の及ばない状況にとうとう考える事を放棄し、そのまま意識も放棄した。




 「ヴァル起きて? パパが帰って来たわよ?」


 再び母の声で目を覚ます。


気づけば、書斎で眠ってしまったはずなのにベッドで眠っていた。


母が運んでくれたのだろうと思い、俺は母に礼を言い、玄関へ向かう。


 「お? 出迎えかヴァル? 偉いな!」


 そう言って父は仕事で使うのだろうか、荷物の入った麻袋をその場に置き、俺の頭を撫でる。


 「どうしたんだ? 不思議そうな顔をして」


 「この子ったらお昼寝してたのに、アナタが帰って来たって聞いたら飛び起きたのよ」


 「今日は仕事が早く片付いたから、いつもより早く帰って来たんだ! お土産もあるぞぉ~」


 時計が無いので正確では無いが、昼の十二時らしい。


 「それじゃあ、昼食にしましょうね」


 テーブルにはいつの間にか食事が並べられている。


 朝と同じ席についた俺達は昼食を取る事にした。


朝はパンとスープだったが、昼は肉とパンだ──どうやら、こちらではパンが主食らしい。


 文化の違い──そこで朝に読んだ本を思い出す。


だが、気にしてもどうする事も出来ない。


分からない事は後で分かればいい、知らない事は後で知ればいい──何せ時間はたっぷりとある。


問題を先送りにすることにした俺は、目の前の食事に手を伸ばす。



 「さて、ヴァル今日はパパといっぱい遊ぼうな!」


 唐突に父がそんなことを言った──だが、その言葉は少し罪悪感を感じさせる。


もし、記憶を消していれば、本当のヴァルクスは両親の多大なる愛を受けて育っただろう。


そして、両親に対しても、俺は自分を偽り騙している事になる。


俺はヴァルクスの人生を奪ったのではないか──両親の愛を俺が受けていいのだろうか? そんな自問自答を繰り返しながら、俺は父との時間をかみ締めながら夜まで過ごした。



 太陽は沈み、夜が訪れる。


そして、俺の10歳になった誕生会が開かれた。


テーブルには母が作った豪華な食事が所狭しと並べられ、中央には真っ白なバースデーケーキが置かれていた。


 「それじゃあ、火を消して」


 母に促され、俺はケーキに立てられた十本のローソクの火を吹き消した。


 「よし! それじゃあ、プレゼントだな! 俺からはこれだ!」


 父から渡されたのはナイフだった。刃渡り20センチ程の柄も刃も漆黒のナイフ──腹の部分には五つの空気穴らしきものがあった。


怪訝な表情を浮かべナイフを見つめていると──。


 「吹いてみろ」


 父に言われるまま、俺はその部分に口を当て息を吹き込むと、綺麗な音色を奏でる。


 「すごいだろ?!」


 「じゃあ、私からはこれをあげるわね。」


 母からもらったのは純銀製の指輪だった。


 左手の人差し指に指輪をはめ、それを眺める。


 「パパもママもありがと! 大切にするね」


 「それじゃあ、いただきましょうか」



手を合わせ、俺達が食事に手を伸ばそうとした時──コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「こんな夜に誰だ? 全く…せっかくの誕生日なんだぞ」


 億劫そうに言いながらも、玄関に向かう父。


 ドアの向こうにいたのはフードで顔を隠していた為分かり難いが、体格から推測するに男の様だった。


 「なんのご用で?」


 父の問いかけに男は答えなかった。次に聞こえて来たのは父の必死の叫び声。


 「シャルロッテ! ヴァルを連れて今すぐ逃げろ!」


 俺は訳も分からず母に連れられ、裏口から家を飛び出した。


 家の周りには何も無く、ただ草原が広がるばかりの暗闇を、月明かりを頼りにただ走った。


 少し走ると、細い街道のような道に出る。そこで母はこう言った。


 「いい? この道を真っ直ぐに行けば小さな町があるわ。大丈夫、ママとパパも直ぐに行くからね? ヴァル……必ず生きてね」


 母は俺を思い切り抱きしめ、来た道を引き返して行く。


俺はその背中を見る事しか出来なかったが、幸いにも近くに馬小屋があったのでそこに隠れる事にした。





 一睡も出来なかった俺は、日の出と共に家に向かった。


父と母がまだそこにいるという淡い期待を胸に家に向かったが、見事に俺の期待は裏切られた。


家が燃やされていたのだ。


遺体も確認したが、燃やされていたためにどちらが父なのか母なのかも判別は出来なかった。


「……女神よ! これがあなたの用意した俺の人生なのか!? 彼らは何故殺されなければならなかった!? まだ……二十歳そこそこだというのに……俺よりも若いんだぞ……なんとか言ってみろ!!」


 涙が止まらなかった。

 たったの十年の付き合い──しかも、武としては1日にも満たない。


それでも、胸をえぐられる程の痛みを感じた。


 「いいだろう……これが女神きさまの用意した人生なら……生き抜いて見せよう。だが、いつか貴様にはそのツケを払って貰おう──当然、両親を殺した奴にもだ。」



 聞こえているとも分からないが空に叫び、俺は両親の亡骸を埋葬した。

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