初めての修行
そして、一週間が経った朝──
「さて、では始めるとしよう」
村から少し離れた森の中──傷の癒えた俺は、兎の亜人であるサキと修行を始める事になった。
「よろしく頼む」
俺が言い終わると同時にサキが肉迫してくる。
「くっ…!」
「どうした? そんなものか?」
驚異的な速さで打ち込まれるサキの足技をなんとか躱すが──
「んっ……ぐぅっ……」
「そんな事では誰にも勝てないし、誰も救えないぞ?」
躱し切れなかった回し蹴りが鳩尾にめり込み、俺は片膝をついてしまう。
「強くなりたいなら立て」
そして、再びサキは高速蹴りを連続で繰り出してくる。
「くっ……!」
右足による中段蹴りを左手で受けつつ、右拳を突き出すが──
「手を使わないと言った覚えは無いが?」
「ぐっ……ぅぁ……」
突き出した拳を掴まれ、サキの膝が脇腹にめり込む。
「隙を狙ったのはいいが、足技しか無いと思い込んだのが間違いだ」
「全くその通りだ……」
「そんな事ではスキルを使いこなせるのはいつになるやら」
膝をつき、脇腹を押さえながら見上げる。
「使いこなしてみせるさっ……」
「そうか……取り敢えず、今日はここまで……だっ!」
言い終えると同時に俺を蹴り上げ、再び回し蹴りを喰らった俺は後方の大木に打ち付けられる。
「かひゅっ……!」
背中を打った事で、肺の中の空気が全て出てしまった俺は変な声を漏らす。
「明日は別の者が相手をする──せいぜい死なぬ事だな」
その言葉聞いたのを最後に、俺は意識を手放した。
◇
そして翌朝──
「そ、それじゃあ始めるよ?」
サキが言っていた別の者──狼の亜人が修行開始の合図を唱える。
やや細身の体躯──上半身は何も着ておらず、革製のハーフパンツを履いており、裸足だ。
「野生化! このガル様が付き合ってやるんだから感謝しろよ?」
スキルを発動したガルの肉体は肥大化し、鋭利な爪で俺を引き裂こうと迫ってくる。
「避けてちゃ強くなれねぇぞ!」
性格も好戦的に変化したガルは更に攻撃の手を早める。
「俺達狼の武器は! 爪と牙と! この肉体だ!」
ガルの猛攻に対して、俺はなんとか避けるのが精一杯だ。
「ちっ……テメェスキル使えや」
攻撃の手を休め、そんな提案を持ち掛けられる。
「生憎と、まだ使いこなせそうにないんだが」
「俺様が止めてやる……だから、安心しろや」
「しかし……」
「このスキルは俺達の野生を呼び覚ますスキルだ」
戸惑う俺をよそに更に続ける。
「人間も亜人も関係ねぇ! 男ならテメェの野生くらい飼い慣らしてみろや!」
ガルの言葉に思わず震えた俺はスキルを発動する事を決める。
「野生化!」
身体中の血が熱くなるのを感じる──
「グルァァァァァ!!」
意識が薄れて行くのを感じる──やはり駄目だった様だ……
「この様子じゃ無理そうだな」
意識が朦朧としながらも必死に抑えようとするが、体はガルに向かって行く。
「とりあえず、寝てろや」
殴り飛ばされた俺は、そのまま意識を手放した。
「今日はここまでだが、次からは覚悟しとけよ?」
ガルの言葉は既に俺には届かなかった──
◇
「い、いい感じだね。 そ、ろそろスキルの修行にうう移ろうか」
修行開始から一週間が経ち、ガルがそんな提案を持ち掛ける。
確かに野生化が当てに出来ない以上、他のスキルアップは急務だろう。
「わかった。 なら先ずは【血流操作】だな」
俺は集中してゆっくりスキルを発動させる。
「むむむむむむ無理はしししししししないで!」
「集中させてくれ!」
先ずは右手の人差し指から、血液を細く伸ばしてみる。
「い、いかか……か感じ」
それを空中に留まらせようと試みるが、指から離れた血はそのまま地面に落ちる。
「先ずは、ててて……手に巻いてかか固めてみたら?」
言われた通り、右手の人差し指から出した血を右手に巻き、固めようとする。
「ちちち血の量をふふ、増やして更に固めたりすれば篭手の代わりになるるると思う」
こうして、新技赤き篭手が完成した。
「後は、血を固めて剣を作ったり、短剣に纏わせたり、いいい、色々試してみよう!」
試して分かった事は、血の作用なども操作出来る事が分かった。
例えば、血中の鉄分と凝固作用を操ればかなりの硬度を得る事が出来た。
体術の修行と並行して、血液操作の修行を始める。
「たた、短剣とかも修行にいい、入れようか」
そう言われ、腰に差していた短剣を抜く──父からもらったオカリナイフだ。
体術と短剣術、そしてナイフに血を纏わせ血の剣を作り、剣術の修行も視野に入れる
「まぁ、短剣とかは他の奴に頼めや」
スキルを発動したガルと体術の修行に移る
「行くぜ?」
飛びかかってくるガルを躱し、回し蹴りを決めようとするが──
「まだまだだな!」
止められた挙句、吹き飛ばされてしまう
◇
ガルとの修行を終えた翌日
「おし! 始めんぞ!」
短剣術の修行をつけてくれるのはレッサーパンダの亜人──レッパーだ。
「よ、よろしく頼む」
「テメェ今俺の事ナメたろ? あぁん?」
「いや、そんな事はないぞ?」
「行くぞゴラァ!」
◇
決して油断していたわけでは無かった。
「おっせぇな!」
早すぎて見えなかったのだ。
「ちっ……仕方ねぇから一から教えてやる」
「あ、あぁ…よろしく頼む」
◇
「それじゃあ、剣の使い方を教えるんダナ」
レッパーによる修行の翌日──剣術の指導をしてくれるのは、鰐の亜人であるワーニーだ。
「先ず、剣には色んな形があるんダナ! 君は血で色んな剣を作るといいんダナ!」
ショーテルの様な歪曲した剣やソードの様な真っ直ぐな剣を勧められ、多種多様な剣の修行を行う。
◇
体術やスキルなどの修行を開始して、更に一週間が経った。
「いい感じじゃねか!」
「ボクもそう思うんダナ!」
レッサーとワーニーの二人に褒められた事で、強くなった実感が湧く。
「今日はここまでなんダナ!」
「しっかり休めよ!」
二人に礼をして宛てがわれた部屋に戻ると、食事が用意されていた。
「頂きます」
手を合わせ、用意された食事を摂った俺は眠りにつこうとしたのだが──
「敵襲!」
そんな声と同時に鐘の音が響く。
「なんだ!」
慌てて部屋を飛び出した俺は状況の確認を急ぐ。
この警鐘が俺の人生で最も長い夜を知らせる物になるとは、まだ気づいていなかった──