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転生!我らは勇者なり!  作者:
哭く兎と吼える狼と嗤う道化師
17/18

初めての休息


「グォォォォォォッ!!」


俺の視界は赤く染まり、何も分からないでいた。


「グルルルゥ…」


叫び、暴れては喉を鳴らしてまた暴れる。


「グォォォォォォッ!!」


ただそれを繰り返している。


魔族の事も仲間の事もどうなったのか知る事が出来ず、暴れ回る自分を抑えようとするが、徐々に意識は薄れて行く。


「森が騒がしいと思えば……君は何者だい? と、言うか言葉通じるかな?」


甘い匂いと共に、俺の耳に届く声はどこか懐かしさを覚えるような、優しい声色だった。


「グォォォォォォッ!!」


自制の効かない俺は、声の主へと駆ける。


「やれやれだね」


その声を最後に、俺の真っ赤に染まった視界は黒く塗り潰され、意識もまたその黒に飲み込まれて行った──



「……っ?! 俺は…っう!」


意識を取り戻した俺は、勢いよく起き上がろうとして、身体中に痛みが走り、思わず声が漏れる。


見れば見知らぬ部屋──木を蔦で縛り上げることで作られた家だった。


「起きたか…なら、これを着ろ。食事はここに置いておく。」


兎の亜人は近くのテーブルにそれを置き、部屋を出る。


自分が裸だった事に今更気付き、慌てて服を着る。


ほぼ普通のシャツと短パンだが、元の世界でのものと比べれば、当然質素な服だ。


俺は、服と共に置かれたパンとサラダを食し部屋を出る。


「着いてこい」


部屋を出ると森の中に、同じ様な家が建ち並んでいる。


「こっちだ」


兎の亜人に案内され歩いていると、様々な亜人がこちらを怪訝な表情で見ている。


「族長! 彼を連れてきました!」


「うむ、では下がっていなさい。」


俺を案内してくれた兎の亜人は、一礼して部屋を後にする。


「さて、君の事を教えてくれますかな?」


熊の亜人──それもかなりの高齢である族長と呼ばれた男に簡単な自己紹介と、ここに至るまでの経緯を説明した。


「それはそれは、さぞ大変だったでしょう。良ければしばらく泊まっていきなされ」


「自分で言うのもなんだが、そんな簡単に信用して大丈夫なのですか?」


「我ら亜人は鼻が利きまする。貴方が嘘をつこうが、良からぬ事を企もうが我らには通じませぬよ。」


ガラムと名乗るこの村の族長らしい男は、そう言って笑っている。


「では、お言葉に甘えて、ここで傷を癒させてもらいます。」


「ふむ……」


正座をして、深く頭を下げる俺を見ながら、顎髭(あごひげ)を触りながら、なにやら考え込む族長。


「君は、年齢の割にはしっかりしているのですな。」


冷や汗が背中を伝うが、今更だと思い、取り繕わず返す。


「まぁいいでしょう。それと、君のスキルの制御について我らは力になれると思います。」


「それは本当ですか!?」


「えぇ、本当ですとも。我ら亜人は皆『野生化』のスキルを持っておりますゆえ」


確かに、桐生がそんな事を言っていた事を思い出し、俺は自分が強くなれる可能性に胸を震わせる。


「ですが、先ずは傷を癒しなされ」


「一つだけお聞きしても?」


「私に分かる範囲でならお聞きしましょう」


「私は人間なのにも拘らず、クラスは緋狼(ブラッドウルフ)……そして野生化のスキルを使えます。何故でしょうか?」


「我ら亜人が何故生まれたかはご存知ですかな?」


「はい」


「恐らく、貴方の先祖が亜人なのでしょう。そして、先祖返りとして産まれた事でスキルが発現したのでしょう。」


先祖返り──天恵も言っていた事を思い出す。


「ともあれ、今は休養を優先するべきでしょう。サキよ、この方に付き添ってあげなさい」


「心得ました──こっちだ」


俺は会釈をして、最初に出会った兎の亜人の後をついて行く。


「何故我らが人間など……」


「族長は何を考えておられるのだ」


他の亜人達は、俺を見ながら口々にそう言っていた。


どうやら思っている以上に溝は深いらしい。


「自己紹介がまだだったな? 私はサキだ。」


「俺はヴァルクス──ヴァルでいい」」


「わかった──とりあえず、今は体を休めろ。」


目覚めた家に案内され、ベッドに横になる。


「食事の準備が出来たら起こしに来る」


そう言い残し、サキは部屋を後にする。


「アイツらは無事だろうか……」


思わず、そんな言葉が飛び出す。


俺にはそれを知る術がない。


「今は、寝るしかないな」


無事を祈り、俺はそっと目を閉じた。


疲れもあったせいか、そのまま眠りにつく__



「食事の用意が出来た。」


サキに起こされた俺は、言われるがまま部屋を出る。


辺りはすっかり夜になり、村の中央ではキャンプファイヤーの周りを見踊る亜人達がいる。


「おう!良く眠れたかい?」


「無理すんなよ?」


今朝とは明らかに態度の違う亜人達に対し、呆然としている俺にサキが声をかけて来た。


「あちらで族長がお待ちだ」


会釈をして、サキと共に族長のもとに向かう。


「気分は如何ですかな?」


「少し楽になりました」


「それはなによりですな。 さっ、遠慮せずどうぞ」


族長の横に座り、目の前の食事に手を伸ばす。


野菜と何かの肉を一緒に炒めた何かを、恐る恐る口に運ぶ。


「お口に合いますかな?」


「えぇ、とても美味しいです。」


「それは良かった」


「私も混ぜてもらえるかい?」


振り向けば、ドラゴンの様な亜人がこちらに笑みを向けていた。


「おぉ、久しぶりですな。 長旅はどうでしたかな?」


「えぇ、楽しかったですよ」


二人のやり取りをただ眺めている俺に、族長が簡単な紹介をしてくれる。


「この方はラグ殿です。 こちらはヴァルクス殿です」


「初めましてヴァルクスです」


「ラグです」


微笑みながらラグと名乗った亜人は、蜥蜴(とかげ)の亜人だそうで、妙な凄みを感じる。


それに、どこかで聞き覚えのある声だった。


「ささ、自己紹介も済んだ事ですし、食事の続きを」


族長に勧められ、食事を再開する。



あてがわれた部屋に戻り、横になろうとした時だった。


「少しいいかい?」


訪ねて来たのはラグだった。


「どうしました?」


俺の問に対し、意外な反応が返ってきた。


「君はここで旅を止めるべきだ」


「誰かに言われて止める位なら、最初から止めている!」


「まぁ、そうだよね。 けど、それでも引けない理由があるんだよ」


「理由?」


「あぁ……今から話す事をどうか、落ち着いて聞いて欲しい」


神妙な面持ちで語り始めたラグ。


この時初めて知った──父達の深い悲しみを……そして、覚悟の重さを──


「これから話す事は真実──心の準備はいいね?」


そう前置きをして、ラグは語り始めた。



二時間程だろうか──話を聞いた俺は言葉を失う。


「このままでは君達は同じ末路を辿るだろう──それでも旅を続けるのかい?」


ラグから聞いた魔王の秘密と、父達の下した決断……俺は答える事が出来ないでいた。


「だから封印したのか?」


「シャルロッテ──君の母が咄嗟(とっさ)の判断で作った封印具でね」


「なら、確実に倒す方法を見つけ無ければな」


「不可能に近いが……決意は変わらないのかい?」


ラグの問いに無言で頷くと、ラグはため息を吐く。


「そうか……ならば僕達も可能な限り協力しよう」


「それは心強いが……いいのか? 」


やれやれといった様子で、ラグは協力を約束してくれた。


「それはそうと、君の両親を殺した魔族について聞かせてくれないか?」


「六災騎士ハイド。 魔王達と戦ったのなら知っているんじゃ無いのか?」


「いや、そんな奴は知らないし──僕達の時は四天王がいたんだよ……そして、そいつらも倒してしまったからね」



「どういう事だ?」


「分からない……要注意だね。」


新たな謎──封印された魔王と六災騎士が誕生した経緯。


「まぁ、僕の方でも調べておくから怪我が癒えるまで休むと良い」


ラグが部屋を出た後、俺はそのまま眠りに着いた。


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