初めての回復屋
今回は三人称です( ゜д゜)クワッ読みにくかったらすみません(•́ε•̀(;ก)
武は危険だと言われていたスキルを発動。
武の体はみるみる巨大化し、真っ赤な体毛に覆われ、狼そのものに変貌し始める。
「グオォォォォォ!!」
耳を劈く様な叫びを上げ、ハイドに向かってゆく。
「こりゃすごい。けど、残念」
「武!?」
「悪いけどこの世界の何処かに飛ばしたよ」
ハイドの能力によって、何処かへと転移した武──残された天恵と桐生は奥歯を噛み締め、ハイドを睨む。
「何度目の台詞か忘れたけど、今度こそ本当に死んでもらうよ」
見下ろしながら嗤うハイドと、半ば諦めた様子の二人。
「か〜いふく〜回復はいらんかね〜」
場違いな雰囲気の声で、そんな台詞が三人の耳に届く。
「何者だい?」
白いローブ纏った男は、フードを目深に被り天恵と桐生に近づく。
「また会ったね。今度こそ回復が必要みたいだね? 一人につき、銀貨一枚だよ」
「テメェ…なんでここにいやがる?」
ハイドを無視して、商売を持ちかける男を更に無視して疑問を投げ掛ける。
「いい度胸だね」
男の態度が気に食わなかったのか、ハイドは男の頭上に転移し、右足を振り下ろす。
「せっかちだなー」
ハイドの攻撃は届く事無く、何かに遮られている。
「くっ…何だあれは?」
「まだ大丈夫だね? 先ずはあの魔族をどうにかしようか」
後ろに飛び、距離を取ったハイドは再び攻撃の構えをとる。
「いい加減名乗ったらどうだい?」
先程無視された事を根に持っているのか、ハイドは男に尋ねる。
「僕は、ハニャラッペ・ブンスコ。通りすがりの回復屋だよ」
男が大きく手を広げ、名乗り──静寂に包まれる。
それを破ったのはハイドの笑い声。
「アハハハハ! 何だその間抜けな名前は! そんな奴が私をどうにか出来るのかい?!」
「わざとマヌケな偽名を名乗ったんだよ。そんな簡単に人間の言葉を信じるなよ。もしかして、魔族って純粋なのかい? 」
「余程死にたいらしいね」
青筋を立て、先程までの余裕が感じられなくなり始めたハイドは、回復屋を名乗る男の背後に転移し、攻撃を仕掛けるがやはり届かない。
「それが君のスキルと言うわけか…」
自分の攻撃が届かない──自分と男の間にある不可視の壁をそう結論付ける。
「違う違う」
男はローブの懐に手を伸ばし、取り出したロザリオをハイドに見せる。
「これは偶然手に入れた魔法神具でね? 効果は攻撃を無力化出来るんだ」
「馬鹿な!? なぜそんな物を持っている!?」
「アーティファクト?」
「知らねぇのか? 平たく言えば魔法具より強力なもんだ」
桐生の疑問に天恵が答える。
補足するなら、かつてドワーフが作った魔法具の上位互換的な存在だったが──エルフとの戦争でその多くは失われた筈だった。
故にハイドは声を荒らげている。
「どうする? 君に勝ち目はないよ?」
「簡単な事だ!」
完全に余裕が無くなったハイドは男の死角に転移し、それを奪ってみせる。
攻撃を無力化すると言う事は、攻撃で無ければ触れると言う事になる。
そう考えたハイドは魔法神具を奪い、男の力を無力化した──筈だった。
「これで君は終わっ……」
言い終える前に、それは爆ぜてしまう。
「なん…だ……何をしたっ…?!」
魔法神具を持っていたハイドの右腕は肩から吹き飛び、右半身は火傷を負っている。
その場の全ての者が理解出来なかった──ただ一人を除いては──。
「ホントにピュアなんだね? 本物はこっちだよ」
そう言い、同じロザリオをハイドに向かって放り投げる。
「どういうつもりだ?」
「そんな物無くても余裕だからね」
「後悔するぞ」
言い終わり、足元に落ちていたそれを拾い上げるが──。
「あはははは! 言ったろ? 簡単に信じるなよ」
左腕が肩から吹き飛び、両腕を無くしたハイドは奥歯を噛み締め、回復屋を名乗る男を睨みつける。
「銀貨一枚で回復しようか?」
そんな皮肉がハイドを更に苛立たせる。
「舐めるな!」
火傷で爛れたハイドの両腕肩から、新たな腕が生え始める。
「へぇー流石魔族だねー」
抑揚のない声色に、ハイドは苛立ちを覚えながらも、武と同じように男を彼方へと飛ばそうとするが──
「……は?」
短い沈黙の後、そんな間抜けな声がハイドの口から漏れる。
「さて問題です! 僕は嘘をつきました。それは何でしょう?」
先程までハイドが立っていた筈の場所で、男は指を鳴らしながらそう尋ねる。
「クソ! 何だこれは!」
「無視とはつれないね……まぁいいや」
わざとらしく落胆したように見せ、話を続ける。
「君はもうそこから動けない訳だが、どうする? 命乞いでもしてみるかい?」
「ふざけるな!」
「もしかして、状況わかってない?」
男はハイドを小馬鹿にしながら、足下に目線を遣る。
「ぅ……ぁ…」
声にならない程のか細い声が、微かに聞こえる。
武達を圧倒していた時の余裕は微塵も感じられない──もはや別人と言っていいだろう。
「僕が魔力を流す事で起爆する特別製──威力はもう知っているだろう? それが三十個! いやー頑張って作った甲斐があったよ!」
先程まで、男の立っていた場所にはハイドが立っており、その足下には三十個のロザリオが転がっていた。
「一体何がどうなっているんだ?」
やれやれと、億劫そうに解説を始める。
「まぁ、君は僕を何処かに飛ばそうとしたね? それを利用して、君と僕の場所を入れ替えたのさ」
説明が終わり、男はロザリオを起爆しようとする。
「待ってくれ! 説明になっていないだろ! 何故ここから動けない!?」
「それは僕の最後の良心だ。それ以上は自分で考えなよ」
声を荒らげ、詳しい説明を求めるハイドに対して、ひどく冷静に淡々と言葉を発した男は、手を翳す。
「ま、待て! 私達の仲間にならないか!? 君なら直ぐに幹部になれるぞ?」
「え? マジで? じゃあ、魔族になろうかな!」
台詞とは裏腹に、容赦なくロザリオが爆発した。
ハイドの周りの空間だけが爆発に包まれる。
「さて、と…母なる海の抱擁」
男がそう呟くと、天恵達の傷が一瞬で消える。
「なっ?! 回復魔法だと?!」
「こいつ何者やねん」
「損傷率…0%? 」
「こんな屈辱は初めてだ……貴様だけは殺す!」
「まだいたのかい? これ以上醜態を晒したくないなら、早く消えなよ」
天恵達が回復魔法に驚く中で、ハイドは立ち上がって見せる。
回復屋を名乗る男に殺意を剥き出しにするが──普通の人間ならば、絶命は免れないほど肉体を損傷したハイド。
「いつか必ず殺す! 首を洗って待っていろ!」
捨て台詞を吐き、その場から消えるハイド──
「なんで逃がした!?」
みすみす逃がした事に腹を立てる天恵は、男の胸ぐらを掴み問い掛ける。
「君達には関係ないだろう? 負けた奴は何も言う資格なんてない」
「止めとき…コイツが正しいわ…けどな」
天恵を諭し、その手を下ろそうと促した桐生は、そのまま男を殴り飛ばす。
「ワシらはあのドアホに大事な仲間飛ばされとんねん!! 助けてくれた事は感謝しとるわ…けど、あんま調子に乗んなや?」
殴られ、尻もちをついた男は、怒声を浴びながら立ち上がり、手を伸ばす。
「なんやねん?」
「回復の代金を払ってくれるかい?」
天恵は渋々、懐から取り出した銀貨三枚を男に投げつける。
「毎度あり♪ それじゃあね」
手を振り、男はサンミーとは逆方向──南に向い歩き出す。
「まぁいい……問題は武だ」
「取り敢えず、チーム分けよか?」
回復屋の男の事は後回しにする事に決めた天恵は今後の方針を決めようとする。
桐生が言うように、チームを分ければ効率は上がるが、当然リスクも上がる。
「先ずは、サンミーに戻る事を提案します」
「だな」
武の事やこれからの事を考えるには、あまりにも心が摩耗し過ぎている。
サンミーに向かわせた仲間の事もある。
三人はこれかの事を考えるべく、サンミーへと向い始めた──