初めての両親の話
俺は情報を整理する為、一階にある食堂に来ていた。
「さて、まずはお前の話を聞こうか」
シアン色のショートヘアーに、明らかに人のそれとは異なる、レンズの様な双眸を持つロボットは、俺の対面に座っている。
「了解…どのような話を聞かれますか?」
「まず、貴様は何者だ?」
「私は、冴島博士によって造られた自律思考型アンドロイド──冴島 命です」
何故か、メイド服を着ている冴島は機械的な声で返す。
「…なら聞くが、機械である貴様がどうやってこの世界に転生したんだ?」
「解析不能な空間にて──女神と名乗る者が、頭部しかなかった私を、身体がある状態でこの世界に転生させたようです」
「つまり、その身体は女神が創ったのか?」
「はい」
「女神に機械の知識などないだろう?」
「それは、博士の脳内のイメージを具現化したと言っていました」
俺は矢継ぎ早に質問を繰り返し、得た情報を脳内で整理する。
「では、最後に聞くが…貴様の目的は何だ?」
「私は、人間の感情を理解し、サポートするために造られました。なので、これからは貴方達と行動を共にします」
取り敢えず、敵意はなさそうなので、俺は他の勇者に話を聞く事にする。
「よし、次はエルの話を聞かせてもらおうか」
俺は、隣に座っているエルに向き直り、話を聞こうとするが──…。
「いや、まずは自分から話せよ」
「せやな!ワシもまだなんも知らんしなぁ」
エルにそう返され、桐生や他のみんなも賛成のようだ。
「仕方ないな」
そして、俺はこの世界で体験したことを全て話した。
◇
「いまいち腑に落ちんのぉ…」
「確かに、女神の手紙も違和感があるな」
最初に桐生が口を開き、それに続きエルが手紙についての話をする。
「そういえば、こっちでのキミの名前をまだ聞いとらんかったね」
「そうだったか?」
そういえば、面倒を避ける為に隠しているのを思い出した俺は、ヴァルクスとしか名乗っていない事を思い出し、名乗り直す。
「ファラデリックだと?!」
「マジかい…」
俺の名を聞いた桐生とエルは、目を見開き驚いていた。
色白はキョトンとした表情を浮かべ、冴島はそれとは対照的に無表情でこちらを見つめるばかりだ。
「どうかしたのか?」
「私のデータに、同一の名を持つ冒険者が二名だけ存在します──詳しい情報をお聞きになりますか?」
「……あぁ、頼む」
二人の反応が気になった俺は、冴島の話に耳を傾ける。
「ヴァロス・ファラデリックは世界で初めて拳聖と呼ばれるクラスを発現させ、体内の血液を操作することで、身体能力を上げる固有技能を持つ冒険者です。 そして、シャルロッテ・ヴァルクスは錬金術師と呼ばれるクラスを初めて発現させ、付加術と呼ばれる固有技能を持つ冒険者です」
「分かった、ありがとう。では、話を戻すとしようか」
俺は冴島に礼を言い、新たに浮かんだ疑問について話を始める。
「さて、それだけの能力を持つ冒険者二人が容易く殺された事についてだが……何故だと思う?」
「まぁ、恐らく魔王の配下だろうな」
「せやろな。並の人間には無理やろ」
「やはりその可能性が濃厚だろうな」
結果、犯人は魔王の配下と言う事で話は纏まりかけたが──。
「一度現場に戻ることを提案します」
ふと、そんな事を冴島が零す。
「確かに、それはえぇ案やね!」
詳しい事は町に戻って話す事に決まり、俺は再びエルの話へと話題を戻す。
「寝てしまった色白は後で聞くとして、俺は話したんだ。次はお前の番だ」
話に飽きたのか、空中に漂いながら寝る色白を後回しにし、エルの素性を探ろうとする。
「まぁ待て…どうやら客みたいだぜ?」
「正体不明の熱源感知──恐らく敵です」
ほぼ同時に立ち上がる冴島とエル──更に、少し遅れて激しい破壊音が玄関から聞こえる。
「おもろなって来たの〜♪」
ヘラヘラしながら玄関へ向かう桐生を、俺達も追いかける。
玄関には粉々に砕かれた扉の破片が散乱しており、そこには巨大な鎧が立っていた。
「まさか、あれが敵なのか?」
「ワシも初めて見るわ」
「名称は魔導人形──魔法で動くゴーレムの1種です」
「おい待て……魔法はエルフにしか使えないんじゃないのか? そして、そのエルフは絶滅したんじゃなかったのか?」
確かにそう聞いたのだ。
だから、魔法で動くなど有り得ないと思った俺はエルに尋ねる。
「確かにそうだな。だが、考えても仕方ねぇ。まずは瞬殺してやるから」
「不可能。魔導人形は物理無効のスキルを持つ為、魔法のみでしか倒す事は出来ません」
「あんな事言うてはりますけど?」
「だから、その魔法で倒すんだよ」
そう言いながらニヤリと笑うエルは指を鳴らすと、身長は170程で、銀髪のロングヘアーを三つ編みに束ねている女に変身した。
「これがあたしの本当の姿だ」
「いやいや……耳とんがってるやん……まさかとは思うけど……」
「あぁ、あたしはエルフだ。だから、コイツはあたしに任せとけ」
そう言って、臨戦態勢に入るエル。
俺達は邪魔にならないよう後ろに下がり、ある事に気付いた。
勇者の中で人間は俺だけだったようだ──…。