初めての女神
平凡な家庭に生まれ、武田の姓に武と言う平凡な名を与えられた俺は、まずまずの大学に入り、そこそこの会社に就職し、気立てのいい女性と結婚した所まではよかったが、三十歳の誕生日に、ビルの火災に巻き込まれた俺は焼死した──我ながら悲惨な人生だ。
「なぁ? あんたもそうは思わないか?」
「え…えっと……そう言われても…」
気がつけばそこは、何もない空間だった──ただただ白い世界が広がっている。
そんな場所に戸惑いながらも、目の前で微笑を浮かべる女性に目を合わせて質問を投げかける。
「あんたは女神で、ここは死後の世界──つまり、俺は死んだと言う事で間違いないな?」
「は、はい! そうですね。ただ、死後の世界と言うには語弊があります?」
「何故疑問形なんだ? ここが死後の世界でないならどこだと言うのだ?」
「えーと…ここはその手前の世界で、あなた様の今後を決める場所ですね」
「今後を決める? つまりなんだ?」
「武様には転生して頂きます。その際に記憶の有無を決定する場所なのです!」
どうやらここは三途の川に似たような場所らしい事が分かった。いまいち頼りにならないくせに、ドヤ顔する自称女神に苛立ちを覚えながらも、記憶を消すかを考える。
普通に考えれば消すのが得策なのだろう――だが、それは本当の意味での死だと思った俺は──。
「記憶は引き継いでくれ」
俺は記憶を引き継ぐ事に決め、他の細かい要求を伝える。
「十歳になるまで、引継ぎを遅らせて欲しい。それと、平凡な家庭が俺の希望だ」
「承りました。では」
女神が手を翳し、俺の体は光に包まれ意識が遠のいて行く。
次こそは幸せな老後を迎えよう!