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女王と狼  作者: 秋人司
出会い
6/26

北の崖へ

「ひい!た、助け・・・。」

「全く、馬鹿なことを考えたものですね。」

 尻もちをつき、それでも怯えて後ずさる男を前にして、リィは冷然と言葉を発した。


 そこは人気のない路地の一画。


 周囲には五人もの男たちが意識を失い倒れ伏し、一方のアルフはフードを取り去り、顔を晒して立っている。

 そして、数歩離れたところでやり取りしているのがリィと、唯一気絶させられなかった一人の男だ。


「よくもまあ、これだけの人数で彼を―ヴォルフを捕えようと考えましたね?

 腕も並みですし、私にさえ敵わないんではお話にならないじゃないですか。」

 リィの呆れを表した声音は、静かな路地で淡々と響く。


 結論から言えば、リィたちをつけてきていた者たちはアルフを捕え、あわよくば一山当てよう、と考えていたのだった。


 しかし結果は大失敗。


 街中で先回りして軽く取り囲み、目立つ前に路地に連れ込んだまでは良かったのだが、男たちが全員その場に揃ったと見るや、リィが先制し、それにアルフも続いて、あっという間に一人を残して気絶させられてしまったのだ。


 彼らの誤算は、リィが戦力として充分すぎるほどの力を持っていたことだろう。


 普段は笑顔であることが多く、傍目から見れば明らかに“育ちの良いお嬢さん”にしか見えないリィは、しかし一度戦闘に入れば鋭い視線を伴い敵に向かっていったのだ。

 その動きも的確で無駄がなく、男たちは油断していたことも合わさり、彼女を認識すらできずに倒されていた。


 因みに得物は抜かず、鞘に収まったまま急所を突く、というものだ。


 リィが二人、アルフが三人を昏倒させ、そして残る一人からも訊きだせるだけの事を訊きだせば、容赦なくこちらも落とし、二人は素早くその場を離脱する。

 

 男たちは奴隷市場の周辺でリィたちを直接見ており、その時はアルフの装備を整える前で顔も晒していたため、覚えられたようだった。

 そしてその後、偶然人混みの中に二人を見つけたことで狙うことに決め、結果として見事返り討ちとなったのだ。


「下手に奴隷商人と繋がってなくて幸いでしたが、・・・本当に無駄な運動をさせられました。」

 顔をしかめながらリィは独り言ちる。


 思いの他彼女が侮られていたために、男たちは決行を決めたような雰囲気があったため、リィは現在、軽く不機嫌になっているのだった。強制的に聞かされた卑猥な言葉も原因の一つだ。


「ある意味自業自得だろう。」

 歩くリィの後ろに付き従いながら、フードを被りなおしたアルフが静かに返す。


 その含意は、彼女が侮られていたことへのものだ。実際リィは意図的に剣の腕を隠そうとしており、まさに正しく“自業自得”であると言えた。


「・・・・・・。アルフさんも充分軽く見られてましたよね。」


「そうだな。だが、万全の用意で狙われるよりましだ。」


 嫌に実感がこもった声でアルフは返す。

 恐らく奴隷として捕らえられた時のことでも指しているのだろう。また以前にも、何度となくこのようなことで煩わされているのだと思われた。













 

 二人は間もなく人通りのある通りへと戻り、一路街の北を目指す。大分日も傾き、夕闇が迫ってくるのも時間の問題と言ったところだ。


「・・・やはり無駄な手間を取らされましたね。」

「ああ。・・・今度は高い確率で商人の手の者だ。」

 再び、唐突にリィが振り返りもせずに呟き、アルフもまた何気ない口調で言葉を返す。


 しかしその内容は、ルイス・アクロイドが放った者に見つかったことを意味していた。

 なおかつ、気配が感じられるぐらいには近くにおり、下手をすればこのまま包囲・拘束に動いてくるかもしれない雰囲気だ。


「しょうがありません。撒きます。」

「・・・できるか?」


 こちらが気づいていることを気取られないよう、なるべく自然なやり取りを心掛ける。


 問われたリィは平然と答えた。

「既に経路の目星はつけました。ここ数日街を歩き回っていたのが役に立ちます。

 ・・・上手くいくかは五分五分ですが、最悪そのまま崖を登りましょう。」


 間もなく、二人はリィを先頭に路地の一つに入っていく。


 当然、追手側の数人がそれに続こうとする。だが、脇道に入った途端に走り出していた二人に一瞬距離を開けられた。


 次いで追手たちは鋭い声で指示を飛ばしあいながらも、それに追走しようと試みる。

 しかし、まず前提としてリィもアルフもかなりの足の速さを持っていた。そのため中々距離が縮まらない。


 しかもリィが選んだ区画は歴史が古く、入り組んでいて更に追うのが困難になっていた。だが追う側も街の人間であるため、ある程度は道を知っている。


 撒けそうで撒けず、囲い込めそうで囲い込めず・・・。


 しかしリィとアルフが目指している方向は明白だった。既に三区画先には断崖絶壁が迫る位置にまで近づいてきている。


 それに気づき始めた追手たちは半信半疑ながらも、先回りをしようとし始めた。その一方で、直後に標的の二人を見失う。


 追手たちの指揮を執っていた男は鋭い舌打ちを一つした後、北の崖へと向かうよう周囲に指示を出した。

 勿論最低人数には周囲を探らせ、更にはルイスの元へも報告の人間を一人向かわせる。


 万が一にも崖を登る途中で落下され、死なれてしまっては元も子もない。そういう意味でも彼らは標的を逃すわけにはいかなかった。




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