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女王と狼  作者: 秋人司
出会い
5/26

買い物

「お嬢ちゃん、その腰のは護身用かい?

 下手に扱えないのを持ってると痛い目みるよ?」


「あはは、女将さん、ありがとうございます。でも一応は使えるんですよ?」


 そんな返しをしながらも、リィの目は店の品を吟味している。数日間の野宿等で使用するものを見繕っているのだ。

 やがてその中からいくつかを手に取り、代金を支払う。


 場所は人でにぎわう表通りの出店であった。


 品を褒めていれば、店主である女も気をよくしておまけなどしてくれる。


 そんな一連のやり取りを終えて通りを歩き出せば、

「“一応”なんてものじゃないだろう。」

 リィの背後から、それまでずっと沈黙していたアルフがぼそりと言葉を発する。


 彼が指しているのは先程のやり取り。

 ちなみに女店主が指摘したのはリィの腰に下げられた一振りの剣のことだ。


 細身だがしっかりとした造りであり、実用的な物だと窺える。奴隷市場では持っていなかったが、宿を出るときにはさりげなくそこに提げられていた。


 アルフは黒い外套を纏い、顔を隠した状態ながら問うような視線でリィを見下ろしている。


「さあ、どうでしょうね。とりあえず、小父様―私の剣の師には、ぎりぎり戦場で死なない程度、と評されましたが。・・・まあ、ある程度は、といったところでしょうか?

 ・・・どこから私の剣の腕を測りました?」


 人混みの中であるため後ろのアルフへは向きなおらず、しかしリィは視線を僅かに投げる。彼女としてはぼやかしておきたいところなのだろう。対外的には初動で侮ってもらった方がやりやすい。


「立ち居振る舞いからは分かりにくいが、・・・馴染みすぎてる。少なくともそうなるまでの努力はしている、ということだろ。」

 何の淀みもなく静かにアルフは答えた。


 確かに、“刀剣を持つ”という行為自体にリィは馴染みすぎていた。

 恐らく彼女の口調からすると、剣を扱う者特有の癖などは出ないよう誤魔化しているようではあったが、それでも振りとはいえ、まるっきりの初心者を演じるわけにはいかない。


 なぜなら、その手に持つのは殺人も犯せる武器であり、人混みの中での人の避け方一つをとっても、その腰に凶器があることを無意識に考慮し、適切な体運びを見せている。しかもそのさり気無さがとてものことここ一、二年で身につくものではなかった。


「・・・なるほど。さすがにそれは無くせるものではありませんね・・・。」

 リィも納得したように言葉を返し、視線を前方に戻す。






「・・・ところで、今振り返ったことで確信しましたが。後ろに何かついてきていますよね?」

 不意にリィが問いかけた。


「ああ、そうだな。だが、あの奴隷商人の手下じゃない。・・・更に低能な奴だ。」


 互いに既に認識していたため、まるで世間話かのように背後をつけてくる者たちの存在が話題に上る。


 彼らの歩調に変化は無い。

 しかもリィは呆れを見せ、アルフに至っては明らかに見下している。


「必要な物はこれで揃いましたが、ついてこられては面倒ですね。・・・何が目的でしょう。」

「それが知りたいなら直接確かめるしかないだろう。・・・撒くのも面倒だ。目立つ可能性がある。」


「それもそうですね。因みに人数は分かります?」

「多くて五、六人。先程からどこに追い込むかの相談を始めたようだ。・・・気配があからさますぎる。」

「・・・ああ、確かに。今あちらで追い越していったのがそうですか?」

 アルフは沈黙をもって肯定する。


「・・・では、その誘導に乗りましょうか。なるべく人気のないところに案内していただいて、そこで色々お尋ねしましょう。

 相手が仮に想定より多かった場合はその場の判断、ということで。」

アルフに異論はない。


「どこまでやる?」

 代わりに淡々と問うた。


「可能ならば一人を残して気絶させたいですね。一応目的を訊きだします。

 場合によっては仕方ありませんが、死体を作ってはそれこそ後が面倒です。あとは相手の出方次第。会話は私がしましょう。」


 下手に逃がして更に厄介ごとを引き込みたくはない。つけてくる目的が何であれ、気絶させ時間を稼ぎ、その間に崖を超えてしまうのが、一番無難だろうと思われる。




 現在の時刻は遅い昼下がり。もうしばらくすれば天気のいい本日の空は茜色に染まり始めるのだろう。リィとしては長引かせず解決し、さっさと北の崖へと挑みたいところだった。


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