結界術を敷く
表立ってのイースタル領でのウエストランデの動きは無いが
色々とやっているのは耳に入ってくる。
脱出組みに追っ手をかけているのもそのひとつ。
守護エリアをすべて買ってしまうというのは最終手段として
何らかの手立ては打たないといけないよな~。
思案する。
宗教的結界を張る事が可能な事は
多分、宗教関係者なら気が付いていると思う。
寄り代がほぼ無い事が難点な分けだが
作り出せない事は無い
大工は宮大工の代わりになるし
彫刻師は仏師になりえる。
エルダーテイルが宗教色を極力排した世界であろうとも
地形モチーフは「地球」なわけで
理論上はその地に宿る神々の力を借りることが出来るはず。
シルクロードやチベットを擁する中国サーバー、インドサーバーでは
地域色という要望の名のもとにそれなりの遺構はある。
それは、この世界の理の片鱗として考える事は出来る。
しかし、広域に結界を張るというとなるとちょっと面倒ではある。
小さな結界を多数作る方が得策なのではないかと思案。
今のキャラクターでそれが可能なのかは不明だ。
だが、やってみる価値はある。
魂は現実世界の精神と記憶を繋いでいる。
ならば、今までの人生で得た知識と
エルダーテイルの知識の融合は可能と推測できる。
器としての冒険者の性能・職業に
引き寄せを食らう可能性はあるが
体は意識と精神力でコントロールが可能なことは
現実世界で証明されている。
元の脳はエルダーテイル知識自体が、
40体近いキャラクターのスキルが、詰まっているからだ。
2箇所でそれらしい術の気配を感じた。
追認する必要は無いので誰にも問い合わせはしない。
連絡する事での新たな情報漏洩が怖いのだ。
そして別種の着眼点に似た魔法の気配も。
これが実現可能な「魔法」として機能する着眼点になる事も。
「ちょっと山に上がってきます。
夜には戻ってきます。
火急で判断に困る事があれば、連絡を
これを渡しておきます。」
と言って家令に通信用の珠のついた耳飾を渡す。
商務的な案件はまだ自律システムにはなっていない。
新たな人材育成が必要なのだろう。
フジの姫から力を借りれるのが
一番強固ではあるんだがちょっと厳しいよな~。
スワに眠る龍を起こすほどではないし
あれは、そもそもこんな小事では起きてくれない。
ボクスルトは遺構も残ってないって話だから
呼ぶのには適してないだろうし。
となると大山か丹沢山系だよな、
この世界で遺構が無いとしても神域はそのままある。
人の手が入っていながらも
現代でも神域が残っている場所といえば、
まずは大山に行くか、一番近い事だし。
と一人ブツブツと口に出し、候補を洗い出す。
参道は山道として残っており、ここから徒歩で上る。
グリフォンで山頂付近に乗り付けるのは不謹慎というものだ。
さして時間も掛からずに頂上に到着。
特注した和装に着替える。
メニューで着替えるものは現状の職業では無理、
ならば手作業で作ってもらうほかあるまい。
「さて、昔の手習いの舞で5柱全て呼び出せるか
1柱でも招来してくれれば御の字だな。
水垢離の滝は残っていたし、
神代七代より前の神々と交渉した方が本当は早いのかもな~」
阿夫利神社の本社のあった辺りで舞い始める
ここにおわす神々は
オオヤマツミのカミ、オオイカツチのカミ、タカオカミのカミ、
伯耆坊に不動明王。
さきの3柱は神代七代以降の神々、
伯耆坊は天狗とその眷属、
不動明王は大乗仏教の浸透とともに祭られていた。
神宮寺としての由来もある。
明治には一度、廃仏されているが
現代には復活し、再度二大童子を共に祭られている事も知っている。
ちなみに箱根神社には
本社にはニニギのミコト、妻であるコノハナサクヤヒメ、
息子であるホオリのミコト
奥宮には別天津神のうちの3柱、
神代七代以前の造化三神。
アメノミナカヌシのカミ、タカミムスヒのカミ、カミムスヒのカミ
が祭られている、本来ならこの3柱のお力を借りたいところ。
しかし、エルダーテイルのボクスルトには魂呼びに適した場所がない。
魂呼びの祈祷舞の時間が続く。
流石に難しいかと思いきや
空が漆黒から黎明を指す蒼い色に染まりだすころ
気配が変わる。
奉納舞の時のように。
我が意を得、理論と実際を照らしあわす。
「ありがとうございます、
天啓を得た事、肝に銘じ
与えられたその職務
この地より去りし時までまっとう致します。」
と虚空に言葉を返す。
こうして結界を敷くための素地を得た。
本職ならなお良かったのではあろうが、
人を招くにはちょっと問題がありすぎる。
まだ、口伝は3種類からしか派生しないという認識しか生まれていない。
4つ目のプレイヤーの地球での知識と経験からの発現などは
試そうという着眼点が無いのかもしれない。
知識と経験から高性能な体を使う事には貧欲で、
そこからの口伝開眼はされている。
先の2つの術は多分、本職に関わる者が行ったもの。
寄り代も本物に近しいものか本物。
不動明王含め五大明王の力を借りる事にする。
密教真言を軸にした術式符を書き表し、結界の基礎を作る。
種子をしっかり覚えているからだ。
問題は装備アイテムで上昇させた筆写師のスキルで作ったものが
理を超えて効果を発するかだ。
とりあえず、可能性があるというのが分かっただけでもひとつ。
行きと同じように徒歩で下る。
グリフォンで屋敷に戻り、執務室にこもる。
複製しては意味が無いので必要な枚数を手書きで書いていく。
ただ書いただけでは術式符にはならない。
山間部への薬草の配達はまだ続いている。
こればかりは自分でこなす他は無い。
合間に領主として街の仕事をこなしていく。
ゲーム時代に自律システムを組んでいるため
商務以外は簡単なトラブルは持ち込まれない。
この辺りのゴブリン、オーガ、サファギンは
レイドランク1以上でなければ今の騎士団員であれば、問題なく倒せる。
夜には山に登り、護摩を炊き火界呪を唱える、
邪気を払う金色の火炎が種子をなぞり、発光する。
失敗すれば、全てが燃え地に帰る。
効果が発現し燃え残ったものだけ持ち帰る。
既にこの時点で結界術の半分は成功したもの、
術式符として生成されたからだ。
スキル習得のメッセージが出る、この辺はゲーム的なままだ。
日参する事、一週間、
必要な枚数を揃える。
当然逆薙ぎ用の物を含めて。
そうそう破られる事はないと思うのだが
破られて、術が返ってくるのは避けたい。
故事に倣って「寄り代」の人形も作る。
そしてやはり夜間に実行に移す、
なるべく「人」に悟られないために。
呪でもあるため
人目は避けたほうが良いだろうという考えもあった。
ここを治めているというのはゲーム時代に知られているわけで。
ステータスの偽装をしながら動く。
今は神祇官/祈祷師LV50というステータス表示。
元々ゲーム時代からある結界都市の洋風石造とは違い
村落都市生成システムで作られた村落には
日本古来の村のモチーフに西洋風の木造建築が並ぶ。
出入り口に道祖神や六地蔵らしいモニュメントがある。
これはヤマトサーバーにしか見られないもの。
これを利用して結界を張る。
発現した紙をモニュメントの下に埋める。
反対側にも埋める。
そして火界呪を唱える。
うっすらとした光が村境を覆うように走る、基本は成功。
後は効力の確認をしたいところだがそれは追ってわかるだろう。
敵意・害意のある「人」だけをはじく特殊結界。
効力が発揮すれば、
正門からしか入れず、
街を通過したように見せかけ、
入った場所に逆戻りさせる。
この結界を守護領地の村々に張る。
いずれは全ての村々と街に張る予定だが
漁村には漁村の理がある。
しかるべき神を勧請か魂呼びしなければならない。
幸い、漁村の背には半農半林の村落がある、急ぎのものではない。
しかし外法の力を使うのにはMPを激しく消耗する。
これを一人でやるのはちょっと厳しいものがあるが
情報流出のほうが怖い。
この地を護る最後の防波堤は自分しか居ないのだ。
勿論、身を粉にして働いてくれる部下達は沢山居る。
今も夜間警邏で起きているものも居る。
その部下達を含め、害意ある「人」からこの地に住まう大地人を護る。
それが冒険者である「強者の役目」。
「ノブレス・オブ・リージ」などと気取ったものでは無いのだが
根底に流れるのはそんなところ。
一方で
大地人たちにこれ以上の大きな影響を与えず、
貴族たちに野心を起こさせず、利用されず、
無理な願いを言わせないと言う貴族政治ならではの立ち回り。
そのために秘匿すべき条項は秘匿する。
それはこの地に住まうと決めた自分へのルール。
帰るその日がくるまで、もしくは往来する日がくるまで。
術の書き込みをどうするか迷いました。
あんまり書き込み過ぎても違うものになってしまうし。
巫をログ・ホライズンの神祇官に訂正しました。
管理コードが抜けていたので追加しました。