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05 初めてのPVP(真)

今回こそPVPのお話。

 金の分配も終わったところで、しげしげと媛佳達を見つめる卍。


「なーにー、団長? なにか私の顔についてるー?」

「いや、せっかく新アバターを作ったのであるなら、ロボットにしてくれればと、な。新しく始めたという朔夜少年や、わずかしか経っていない知流佳嬢も、ロボットを選んでいてくれれば『機人兵団』で歓迎したのだが」

「残念であります」


 『機人兵団』は種族『ロボット』のみで構成されているロボスキー集団だ。生身の人間より鉄の塊にハァハァする人達でもある。


「今回はさくちゃんがやりたいことがあったからねー。それより団長、回復しないで良いの? HP1でしょー?」

「おお忘れていたであるな。『修復装置』オ……」


 オンする前に、いつの間にか近づいていたコドモオオトカゲイヌモドキが卍に飛びかかった! アンブッシュ!


「しまっ……!」


 UltimateKeyOnlineでは、どんなに防御力が高くてもダメージはゼロにならない。最低でも1は食らってしまう。つまり、この世界最弱のコドモオオトカゲイヌモドキでも、今ならばレベル50超えの卍を殺せるのである。口が大きく開き、自らを喰もうとするのを見ることしかできない卍。


「ハァッ!」


 もっとも、そばに朔夜がいたので死ぬのはコドモオオトカゲイヌモドキの方であったが。拳一発即死グシャアッである。急いで殴りかかったので手加減を忘れてしまい、形も残さずに爆散させてしまう。


「ああ、また『アイテムブレイク!』しちゃった……」

「助かったである朔夜少年。危うく死に戻りするところ……」

「いいから団長は早く回復するであります! また来たらどうするでありますか!」

「うむ! 『修復装置』オン!」


 卍のHPがみるみる回復していく。ロボットは機械なので、通常の回復魔法やポーション類は効かないのだ。『修復装置』の類いか、『ロボテック』のスキル『修復』で回復するのみである。……バフデバフなどはかかるのだが。理屈と浪漫の間で運営が揺れた結果である。


「恥ずかしいところを見られたであるな」

「油断大敵であります!」

「うむ。1103号も置いて死に戻るところであった。スマンな」

「フレンド登録もしましたし、もう先を急ぐでありますよ」

「ひとみちゃん、卍さん、またね」

「団長とひとみん、またねー」

「あ、サクに助太刀ありがとうございました」

「ふむ、今の一撃で貸し借り無しといこう知流佳嬢。では、さらばだ」

「見事な一撃でありました! 自分は全く見えなかったであります!」


 元々通りすがっただけの卍達は、ベータラの町を経由してギルド本拠があるガンマニスの町まで向かうのだった。

 手を振る朔夜達と別れたあとで、車上の人となった卍が1103号に話しかけた。


「1103号、朔夜少年の拳が見えなかったと言ったな」

「はい、素晴らしい一撃でありました!」

「小生も見えなかった」

「団長がでありますか!?」


 『内蔵装置』、『高性能カメラアイ』の入っている卍の目である。コドモオオトカゲイヌモドキの不意打ちも見えてはいたのだ。『修復装置』の作動をしていたために食らうところだったが。

 朔夜の一撃はコドモオオトカゲイヌモドキが弾け飛んでから初めて認識できた。


「にも関わらず、朔夜少年はこのゲームを始めたばかりだという」

「フレンド登録された情報もレベル5でありますが……職業は『拳撃士』でありますかー」


 フレンド登録すると、職業とレベルが照会できるようになるのだ。スキルまではわからない。


「『拳撃士』だと!」

「何かおかしいのでありますか?」

「……『撃士』系列の話を知らんのか?」

「自分ロボットになれると聞いたら、それ以外調べることもなく始めてしまったであります」

「そうか……」


 卍は知っている。『撃士』系列を選んだプレイヤーの悲喜劇を。普通なら『拳撃士』は戦力外だ。ゲームの世界に生身の人間が、ただ来たところで高が知れている。

 だがやはり卍は知っているのだ。それに当てはまらない超人達がいることも。

 実に楽しそうにニヤリう卍。朔夜は言っていた。「また、『アイテムブレイク!』しちゃった」と……彼もまた……。


「助太刀はいらなかったようだが、知己を結べたのは幸運だったようである」


 共に戦うにしろ、敵対するにしろ、強力であるに越したことはないと笑った。ゲームを楽しむには強いプレイヤーは不可欠だと卍は考える。

 『拳撃士』朔夜の実力の一端を初めて知ったのは『機人兵団』団長、卍であった。


 一方残された朔夜達は、降って湧いた大金を早速使うべくアルブァンに戻っていた。


「いやーもうけもうけだよー。すとーかー様々だね!」

「今まで付きまとわれた迷惑料と思えば、まあ、いっか」

「せっかく戦えると思ったのになあ……」

「大丈夫! あーいう人達はまた来るに決まっているよー!」

「いや、来ないで欲しいんだけど」


 小腹が空いたので寄ったのは喫茶店『ダスビダーニャ』。ロシア語で、さよならとかまたねとかの意味である。ワンコノヴィッチといい、ロシア好きがアルブァンには多いのだろうか。


「いらっしゃいませ。メニューをどうぞ」


 茶色の革に包まれたメニューを差し出すNPCのウェイトレス。フリフリである。


「ロシアンティーを一杯。ジャムではなくマーマレードでもなくメープルシロップでー」

「そこは蜂蜜ではなくて?」


 くすくすうウェイトレス。やけに人間臭いNPCだと朔夜が思っていると、顔に出ていたかそのものズバリ言われてしまう。


「あなた、このゲームを始めたばかりでしょう? 私がAIだと思っているのね」

「ええ!?」

「このゲームのNPCのうち、町にいるのには皆『中の人』がいるのよ」

「ASOBI社の社会福祉の一環だよー」

「そういえばそんなことも公式HPにも載っていたね」

「まともに動いたりできない障害を負ったものに働く場所を与えてくれたのよ。私も事故で目しか動かせなくなった。でもここなら、歩き回れてご飯も食べれる。好きな人を抱きしめることもできるわ! それにここで暮らすだけで自分の治療費を稼げるの。ずっと家族に負担をかけていたのが心苦しかったけど、ここなら自分で生きていけるのが本当に嬉しい」


 家族もここに遊びに来てくれるのよ、と笑うウェイトレスに注文を伝える。にこやかに厨房に戻る彼女は本当にここでの人生を謳歌しているようだった。


「驚いたなあ」

「わりと有名な話だったからさくちゃんに話すのを忘れていたよー」

「このゲームのサービスが終了しても他のゲームに移してもらえるんだってね」


 流石は世界を跨ぐ『ASOBI社』なのである。『ASOBI』の手がける多くのゲームにおいて、NPCとはプレイヤーでないだけで人間が雇われているのだった。感心しているうちに、できた注文が届いた。

 朔夜はロシアの揚げパンことピロシキと、ロシア水餃子ペリメニ。ともに熱々が華である。ロシアンティーはブルーベリージャム。なお、本場のロシアンティーは、ジャムを舐めながら紅茶を飲むのだが、ここは紅茶に溶かしてあるタイプだ。濃い紅茶とジャムの甘さが実に合う。

 媛佳はメープルシロップのロシアンティーと、リンゴとカスタードがたっぷり入ったシャルロートカ。

 知流佳はベリーの駄々甘ジュース、モルスとレアチーズケーキの原型とも言われるパスハである。


 ピロシキとペリメニをガツガツと詰め込む朔夜に媛佳と知流佳がほんわかしている。よく食べる犬を愛でるような感覚である。


「普段は和食一択だから、洋食食べたかったんだよねえ」


 ほっくほくのピロシキともちもちしたペリメニ。形は違えど肉と小麦の旨味を噛み締める。VRなので身にならないのが残念でならない。それでも完璧に再現された味覚と嗅覚には感謝の念が耐えない朔夜であった。


「じゃあボクと本物も食べに行こうよ、サク。連れて行ってあげるから。美味しい店を知ってるんだ」

「ちりちゃん、わたしも連れて行ってくれるんだよね?」

「えーどうしようかなー」

「ぐぬぬぬぬ」


 居心地が良かったせいか、思ったよりも喫茶店で時間を過ごしてしまった三人が店を後にする。遅くなったし、装備を買ったらログアウトしようかと話していると、バッタリと走る末期達と出くわした。


「見つけましたよ!」


 慌てて急停止して振り向く末期。どうやら死に戻りしたあと、『ヒップホップ』で回復して朔夜達を追いかけるところだったようだ。


「あと少し店にいれば……」


 知流佳も実に運がない。媛佳がフラグを立てたせいかもしれぬ。


「先程はあの男の騙し討ちにまんまとしてやられましたが、私と貴方の勝負ではなかった! 改めてPVPを申し込みます」

「まあ流石にあれじゃ、おさまらないよねー」


 あっはっはーと笑う媛佳。朔夜に振り向いて。


「で、どうするのさくちゃん?」


 聞くまでもない。


「もちろん受けて立つよ」

「だよねーうふふふー」


 朔夜はここに戦いに来たのだ。それを逃してログアウトなどできはしない。そんな朔夜を愛しげに見つめる媛佳。


「サク」

「なに? チルちゃん?」

「どうせなら思いっきりやっちゃって!」

「うん!」


 知流佳もようやく肝が座ったらしい。


「では、先程約束した通り、我等と貴方5対1で本当に構いませんね?」

「さっきの卍さんの分、先手も譲るよ」

「……どこまでも。ならばその油断、あとで悔いなさい!」


 再び行われるPVPの申請に了承すると、町中故か50メートルほどの白いリングが地面に刻まれる。この中で戦え、ということらしい。


「行きますよ!」


 開始と同時に末期達、ダンス・マカブラーが一斉に襲ってくる。踊りながらにも関わらず、その速度は全力疾走と変わらない。ダンサーのスキル『剣舞』は踊りながらのあらゆる行動を可能にする。最初に踊る時間を必要とするというダンサーの弱点を覆す強スキルだ。

 迫る剣刃には全て『連撃』、『追撃』のスキルが乗っている。自分達は攻撃力と防御力と速度を上げ、敵は攻撃力と防御力を下げた上で行なうダンス・マカブラー怒涛の連続攻撃だ。

 スキルの効果により一瞬で行われる攻撃。一人につき『連撃』による二回攻撃と、残りの四人の『追撃』が入るのが五人でその数なんと30連続攻撃。同じ職業を束ねたことにより特化された能力は、並みのパーティーを遥かに凌駕する。だが……。


「くっなんて固さですか! ほとんど刃が通りません!」


 『ベリーダンス』で攻撃力を上げ、『バーレスク』で防御力を下げながらも、朔夜の肌を薄く削ることしかできない末期達。以前倒したゴーレムでもここまで固くはなかった。ともすれば、肌に弾かれそうになる刃を速さで斬り込ませる。それなのに皮一枚しか切れはしない。


「どう見ても初期装備でありながら、この固さは一体……!」


 勝てるのか、と迷う末期。一瞬弱気になった自分を振り払うように攻撃し続ける。勝てるのか、ではない。勝って知流佳とともに踊るのだ! と。末期の情熱は本物である。


「ならばっ!」


 奥の手を出す。取ったばかりのサブ職業『忍者』のスキル。『分身』を!

 末期の姿がブレるようにして二人に別れる。その二人共が実態を持つ末期本人である。単純に行動を倍する以外にも全く別のことをさせたりもでき、恩恵は計り知れない。欠点は『分身』を出している間、最大HPが半分になってしまうことだが、元よりダンサーは回避が身上。当たらなければ問題ない。

 一人増えたことにより、一度の攻撃が42連撃と化す。焦りを更なるスピードに変えいっそうに切り刻む。ダンサーの『踊り』も踊れば踊るほどに効果を増していく。ここで削り切るとばかりに、剣が雨となって降り注ぐ。その中で。


 朔夜は笑っていた。


 痛い。身体を冷たい鉄の刃が通り抜ける。血が抜けると最初は熱く、そして寒くなるのだと朔夜は知る。痛い。それが嬉しい。痛い。それは、相手がいるということ。痛い。それは、一方的に殴るのとは違うということ。痛い。それは、傷つき、傷つけるということ。それは、それは。


「これが『戦い』!」


 求めていたもの。望んで得られなかったもの。朔夜は存分に味わった。ならば今度は同じだけのものを返そう。そう、剣には剣を。


 フッという軽い音は果たして末期達の耳に届いただろうか? 極限まで速さを追求した手刀は、空気を動かすことなく音すら断ち落とすのだ。超硬度の手刀を超高速で振るうだけの技とも言えぬ技。だが、その前に断てぬもの無し。岩永流剛体術『十束振るい』。神を殺す剣神の再現である。

 朔夜を囲んでいた5人のダンサーが、一息に剣も鎧も肉体も諸共に腹から上を切り離される。吹き上がる血柱。立ち込める臓物と糞便と血の匂い。システムウインドウにもはやお馴染みとなって表示される『クリティカル!』、『ワンヒットキル!』、『オーバーキル!』、『アイテムブレイク!』の文字が流れる頃には、それも幻のように光となって消え去った。

 残るは末期と朔夜のみ。いや、その末期も。


「くっ……」


 僅かに手刀の爪先が届いていたのだ。『分身』によって半減してしまっていた末期のHPを削り切るには、それで十分だったのである。内臓にまで切り開かれた腹を押さえているが、もう保たない。


「そんな、初期装備で、どんなチートを……」

「チート?」


 朔夜には聞き慣れぬ言葉であった。


「運営に、報告……を……」


 押さえた腹から腸がはみ出し、膝をつく末期が光になって消えた。

 ちなみにやたら気分を出して倒れたが、ゲームなので単に死に戻っただけである。

 血しぶきや断面、匂いなども朔夜が『リアリティ』設定をマックスにしてあるだけで、お子様には銀や虹色の液体に見えたり、黒いシャドウで塗り潰されたり、花の香りがしたりする。最後のは本当にそれで良かったのか疑問も残るが、子供に悪影響を及ばさぬよう苦心が見られる。

もちろん、朔夜や駿河城の殿様みたいな『このようなもの』がご覧になりたい方は、同じように設定をマックスにすれば良い。

 運営は常に何事も本気である。


「何か運営にどうとか言っていたけど大丈夫かなあ?」

「大丈夫だよーさくちゃんは別にチートじゃないもん」

「サクがサクであるってのをあの人達は知らなかったってだけだから心配いらないよ」

「ふーん、それならいいのかな」


 後で死に戻りから復活した末期達はGMコールをするも、朔夜が一切のチート行為をしていないどころか『拳撃士』であることを知り戦慄するのであった。

人型機動兵器ならぬ機動兵器型人。それが朔夜くんであった。

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