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03 謝罪と賠償を要求する

三姉妹末っ子登場。

 土下座。どげざと読む。日本国における最大級の謝罪を示す姿勢である。地面に直に正座した上で額を地面に叩きつけ、手は揃えて地面につける。安易に繰り返してはいけない程の姿勢である一方、相手にそこまでさせたなら許さなければならないという一種の脅迫手段にもなり得る。何故こんな説明をしているかと言えば。


 媛佳が土下座をしているからである。一糸乱れぬ完全なる土下座。もはや美しささえ感じるゴッドな土下座。オネガイシマス。


 噴水広場の往来である。行き交う人達が足を止めては目を丸くしている。中にはスクリーンショットを撮っている者もいる。やめてあげて下さい。


 その前に佇む一人の少女。褐色の肌に金髪碧眼。チューブトップに帯際まで透けたボトムス。腕や首にいくつもの金環が眩しい踊り子衣装。媛佳の妹、木花知流佳このはなちるかのアバターである。リアルでも瞳の色以外は大して変わらない。割と露出の激しい衣装とシルバーアクセを好む金髪日焼け少女である。

 なお、木花家の三姉妹は上から順に小中大。背丈の話である。


「それでヒメちゃん。自分が何したかわかってるの?」


 知流佳は、本来なら快活な太陽の似合う笑顔を振りまく少女なのだが、今ばかりは酷寒の夜空のように冷たい表情で媛佳を睨んでいる。


「はい、本当に悪いことをしたと思っています」


 間延びした語尾すら許されない媛佳。地面につけられた頭部に知流佳の足が乗せられる。ビクリと震える頭。踏まれて喜ぶ趣味はないのだ。謝罪と屈辱の合間でブルブルえる。屈辱を感じて出してしまっている時点で反省の色は薄い。足に力が加わる。


「百歩譲ってボクに黙ってサクをゲームに連れてきたのは、まあいいよ。撃士を使ってサクの夢を叶えるなんて、ボクにはできなかったから、でもね」


 目を閉じる知流佳。険しい眉根は抜け駆けに怒っているのではなく、自分が朔夜を喜ばすことができなかったからだ。すぐそばに手段はあったにも関わらず、朔夜があまりゲームをしないのと、撃士系列を選んだプレイヤーの阿鼻叫喚を知っていたから思いつかなかったのである。

 朔夜なら大丈夫、という媛佳の一本勝ちは認めなければならない。だがしかし。カッと見開かれる瞳。


「スーパープレミアムプラチナパックをお父さんにねだるとは何事か!」


 仲間になってもらうため、そもそも朔夜が何故この世界にいるかまで説明する過程で、家にあるのに百万の新型買ってもらったのが知流佳にバレたのである。あまつさえ極上のベッドで朔夜の隣に寝ているのである。許せたものではない。踏み込まれるゴリィッ


「ぐっ! どうせならさくちゃんに最高の環境でやって欲しかったんです!」


 あくまでも自分のためではありませんと言い張る媛佳が、ちゃっかり自分のものにしたベッド。知流佳とて欲しかったが小遣いでは買えないので諦めていたのである。このアマどうしてくれようと更に力を込めようとして、朔夜からストップが入った。


「チルちゃん、待って」

「さくちゃん……」


 朔夜の声に顔を上げ、助けてくれるんだね? と思わず目も潤む媛佳。


「お仕置きは後にして仲間になる話を進めよう」

「ぐはっ!」


 救いはなかった。


「うう、『死のカウントダウン』をくらった気分だよー……」


 中盤現れる敵が使う時間差で即死を付与する状態異常である。解除する方法は殺られる前に殺るか、高価なアイテムが必要だ。今の状況ではどちらも無理である。

 しばらく落ち込んでいた媛佳だが、勢い良く立ち上がり膝を払う。後でお仕置きされる以上、土下座スタイルはもう解除である。


「お仕置きが後なら反省も後回しだよ!」

「お姉ちゃん本当に良い性格してるよね……」


 反省しても後悔しない。そして懲りもしない。それが木花媛佳である。


「はあ、ま、良いか。余ってるベッド、後でお父さんに言って分けてもらうからね。で、仲間の件だけどもちろん構わないよ。サクと一緒に前衛をやれば良いんだよね?」

「うん、よろしくね、チルちゃん」

「ソロでやっていたから今は前衛よりのスキル構成だし、ちょうど良かったよ」


 ダンサーは、『踊り』によるバフデバフ。片手剣を装備するなら前衛を。投擲具での遠隔攻撃で後衛も可能。『連撃』、『追撃』スキルでソロにもパーティーにも対応できる万能職の一つだ。装備とアクティブスキルから何を選んで修得するかで、全くスタイルが変わるため、あれもこれもと取ると器用貧乏になりやすいのと、重鎧と盾を装備できない防御力の低さが欠点である。


「三人で組めば『戦場ヶ原』の奥の方も行けるし、西の『小人の森』に行っても良いしね」

「あそこスーパーロリコンタイムの人達でいっぱいだから混み混みだよー」


 攻略そっちのけで愛でている連中の憩いの場だ。攻略組にも定期的にここに帰ってロリ分を補充する者がいるため、二ヶ月立ってもあまり進んでいない原因の一つである。


「『戦場ヶ原』の奥に何かあるの? チルちゃん?」

「『ベータラ砦跡』があるんだ。ボスもいるよ」


 ボスと聞いて、瞳を輝かせる朔夜。戦えるだけでも嬉しいのだが、より強い者なら手加減をしないで良いのである。


「じゃ、私のレベル上げを兼ねて『戦場ヶ原』でさくちゃんの手加減練習しながら、砦跡に向かって進む。ちるちゃんはさくちゃんが戦っていない敵をサクサク狩ってもらうよー」

「「おー!」」


 媛佳がまとめて再び『戦場ヶ原』へ。


 さて、手加減であるが。


「まず、岩永流の技を使わずにただ殴るだけにしてみるね」


 赤い染みが量産されました。


「まだだめか」

「平手打ちはどうかなー」


 赤い染みが量産されました。


「まだダメだね」

「しっぺしてみよう」


 赤い染みが量産されました。


「むむむむむ」

「サクの怪力がこれ程とは思わなかったね……」

「指一本で軽く突くだけにしてみたらどうかなー」


 そしてコドモオオトカゲイヌモドキ通算二百匹目。


「シッ!」


 飛びかかってきた口に突き刺さる人差し指。ライフル弾でも食らったのかのように突き刺さった反対側が弾け飛ぶ。『クリティカル!』『ワンアタックキル!』『オーバーキル!』が表示され……『アイテムブレイク!』が……表示されなかった! その場に残る首無し死体。


「やったー!」

「長かったねさくちゃん!」

「おめでとうサク!」


 朔夜による初素材ゲット。感無量である。既に朔夜と媛佳は5レベルになっていた。知流佳は11レベルだ。

 媛佳が剥ぎ取りナイフ――ゴーレムだろうがドラゴンだろうが切り分けて分解できるため、『最強武器』のあだ名がある――を獲物に突き刺す度に皮、骨、肉が取れて……光になって消えた。


「アイテム袋に入れて……良し、ドンドン集めよー」


 一人につき百個までどんなものでも入る仕様の、プレイヤー全員が持つ魔法の袋だ。ダンジョンに入る場合は持ち帰る素材の数と、収納数との戦いでもある。アイテム士は所持するアイテムが多いため尚更だ。敬遠される理由の一つだ。だが最も大きな理由は別にある。それは……。


「あ、ヒメちゃんその前に回復してくれない? さっき不意打ち食らった時に避けきれなかった」


 見れば知流佳の腕に痛々しい歯形が付いている。ダンサーは職業特性『体術』により回避しやすいが、後ろから攻撃されたため噛み付かれてしまったのだ。


「おっけー。早速覚えた新スキルを披露するよー。『アイテム投げ』!」

「あいたー!?」


 ゴッ。ガシャン。バシャッ。順にポーションが知流佳に命中した音。ポーションが砕けた音。ポーションがぶちまけられてびしょ濡れになった音である。


「……ヒメちゃん? 説明してくれる?」


 ポーションの雫を垂らしながら、ブルブルと怒りを堪えて震える知流佳。額に青筋が浮きあがるのもやむを得ない。なにせポーションが当たった時にダメージも入っているのだ。


「そういう仕様なんだよー」


 アイテム士が誇るスキル『アイテム投げ』。相手の回避を全て無効化し、必ず命中するスキルである。スキルさえ使えば、後ろに投げようが落っことそうが相手に当たった状態に転移するため通称『亜空間投げ』と呼ばれる。問題はポーションなどの瓶物は当たった時に微量だがダメージを喰らうその仕様。確かに投げつけられて当たれば普通ダメージが入ってもおかしくはないが……。

 運営の謎のこだわりである。

 言い訳のようにアイテム士が最後に覚えるスキルは『投器術』。消費アイテムのみならず、装備アイテムなどを投げつける脅威の技術である。ダメージはアイテムの性能準拠。アイテム士の持つ職業特性『アイテム効果倍増』と合わさってゲーム内でも高い性能を持つ攻撃スキルである。


「そんな一言で……! あれ、もう乾いた」


 痛みも既にない。ポーションの吸収とともに回復したからである。ちなみにHPがほとんどなかった場合はどうなるか? あるプレイヤーの名台詞「やめよう、回復死」が、アイテム士の不人気職になるきっかけであった。


「離れていても回復できる良いスキルなんだよー? 『メディカル』じゃこうはいかないね!」

「はあ……『ヒップホップ』覚えようかな……」


 『メディカル』は回復魔法のエキスパート職である。回復魔法は相手に触れる必要があるのだ。回復量は術者のIntに左右され、高レベルのメディカルが唱える回復魔法は、瀕死からでも一瞬で最大まで回復する。

 『ヒップホップ』はダンサーのスキルで時間HP回復小を付加するバフスキル。一気には回復しないが長期戦で真価を発揮する。

 職業毎に差別化が計られている一つの例である。


「それにしてもここら辺はトカゲモドキばっかりだねえ」

「コドモオオトカゲイヌモドキだよー」

「もう少し奥に行くと、草食で非アクティブの『ミニヤリケラトブス』。肉食で五匹くらいの群れで襲ってくる『ラプトルーパー』。飛行型で毒を持つ紫色の『紫蘇鳥』が出てくるよ」

「……トカゲ王国なの?」

「当たり。ボスの名前は『トカゲの王』。体色を変えて各属性耐性を変えるカメレオンだよ」

「もう少し狩ったら、お金を作って毒消し買いに行かないとねー」

「サクはともかくヒメちゃんの装備も買わないとね」

「何で俺はともかくなのさ……」


 媛佳と知流佳が顔を見合わせる。


「買う必要がないよー」

「買う必要が無いね」

「さくちゃんの武器は拳で、しかも敵を一撃で倒しますー」

「サクの肉体が再現されてるなら、トカゲの歯ぐらいじゃ傷なんかつかないでしょ」

「武器も防具もいらないよー」

「いらないね」


 何も言い返せない朔夜であった。

現在時点のステータス。


朔夜

人間

拳撃士

L V 5

H P 2890

M P ―

STR 3700

VIT 2060

AGI 372

INT 10

DEX 13

LUC 5

職業特性 『非実体への攻撃可能』液体、気体、霊体の敵にダメージを与えることができる。

スキル

AS ―

PS 『気功』状態異常耐性に10%ボーナス

装備可能武器 全て

装備可能防具 全て

装備

『拳士の服』防御力+5

攻撃力 4070

防御力 2065

備考 『撃士』系列のため、MP及びSP、ASは存在しません


媛佳

羊人 耳尻尾型

アイテム士

L V 5

H P 65(-2%)

M P 86

STR 7(-2)

VIT 8(-1)

AGI 12

INT 18(+3)

DEX 17(+2)

LUC 10

職業特性 『アイテム使用効果倍増』あらゆるアイテム効果もしくは使用可能回数が倍増する。

スキル

残SP 4

AS 『アイテム投げ』アイテムを遠距離の対象に使用できる。

PS 『採取上手』あらゆるアイテムの取得判定が10%アップ。成長可能。

装備可能武器 短剣、弩、銃

装備可能防具 服、軽鎧、重鎧、帽子、兜、小手、腕鎧、アクセサリー

装備

『ナイフ』攻撃力+3

『青頭巾』防御力+1

『アイテム士の服』防御力+2

攻撃力 10

防御力 11

備考 ()内は種族修正値


知流佳

人間

ダンサー

L V 11

H P 110

M P 130

STR 22

VIT 17

AGI 24

INT 19

DEX 22

LUC 25

職業特性 『体術』回避率30%アップ

スキル

残SP 0

AS 『ベリーダンス』味方の攻撃力を上げる。踊りを続けることで重複可能。『ワルツ』敵の素早さを落とす。踊りを続けることで重複可能。『連撃』通常攻撃が二回攻撃になる。成長可能。


PS 『軟体』身体が柔らかくなる。あらゆる肉体動作の判定が10%アップ。成長可能。

装備可能武器 短剣、片手剣、片手刀、投擲具

装備可能防具 服、軽鎧、帽子、小手、アクセサリー

装備

『シミター』攻撃力+10

『金環』防御力+5

『踊り子の服』防御力+4

控え装備

『チャクラム』攻撃力+7

攻撃力 32or29

防御力 26

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