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EX01 終末……週末の過ごし方。

15000PVに達したら投稿しようとしていた番外編。

予想外の早さでしたよ……。

 これは朔夜達がUltimateKeyOnlineを買うより前のお話。


 とある冬の日曜日のこと。

 朔夜達は、それぞれに趣味に没頭し貴重な休日を消化していた。この四人、当然と言うべきか、それとも意外と言うべきか。趣味はバラバラであった。朔夜はひたすらに岩永流剛体術の稽古。知流佳はダンスの練習。媛佳はゲーム。阿多佳は読書である。

 この中で媛佳はボードゲームから最新のVRゲームまで幅広く、阿多佳もまた小説に漫画に哲学書に技術書にと乱読家であった。一見共通するものが無さそうであるが、しかし一つだけ二人ともが手を出した趣味があった。

 それはゲームであって本。小説でありながらサイコロの神に全てをかけるもの。


 ゲームブックである。


 阿多佳の部屋には、婆様から借り出した本が数多く積まれて足の踏み場も無い。それでもよせて上げて整えて押し込んで、谷間の作成に成功する。阿多佳はなだらかな平原のように、媛佳は小さな丘のようであった。座る場所の話である。

 ともかくもそうやって作り上げたスペースで二人が何をやっているかと言うと、ページをペラリく。サイコロをコロコロる。シャーペンで紙に記入カキカキ。ひたすらにこの繰り返しである。やがて阿多佳が叫びだした。


「また死んだーっ!」


 シャーペンをぶんポーイげて阿多佳が暴れる。本日10回目のバッドエンドであった。


「もーお姉ちゃん落ち着いてー」

「これが落ち着いていられるかー! テレポートで逃げ出したのに壁の中とか意味わかんねー。バッドエンド多すぎだろこのシリーズ!」

「えーそれが良いんじゃない」


 このゲームブックであるが遊び方は簡単。サイコロとシャーペンと紙を(もしくはキャラクターシートのコピーを)用意して、後は読み進めながら作中の選択肢に従いページを行ったり来たりしながら、増減する数値やアイテムを記入しエンディングを目指すのみである。

 選択肢で何を選ぶかや、時には戦闘などでサイコロの出目に従い何々番へ行け、と文章の頭についている番号に進むと話が展開していく。

 コンピュータゲームのソフトの代わりを本が、ハードの代わりを人がするという意味ではテーブルトークRPGなどと一緒だが、ゲームブックはお一人様専用である。暗いとか言うなかれ。やってみればこれで結構熱いのである。君はやってもいいし、やらなくてもよい。


「うう次こそは……」

「えーとここは『三十六計』を使うかなー。それとも『魔防道風』の方が良いかなー?」


 さて、遊び方は説明した。では特徴はと言えば。


「ああーっ!?」

「どうした媛佳」

「クサヤの汁で大ダメージ食らって死んじゃったよー」

「何だその死因……」


 死ぬのである。それはもうあっさりとポコポコと。最後の番号であるエンディングに選択肢で辿り着くその性質状仕方無いのだが、正解ルート以外、つまり間違い選択肢はだいたい死亡一直線なのだ。少ないものでも一冊につき数箇所は必ずあり、多いものでは百を数える。


「何でだよ! ミフネなら千人切り可能だろー!」

「いや、千対一で勝てると思うお姉ちゃんがおかしいと思うよー?」


 そして、その多くのバッドエンド、つまり死に方は読者を楽しませるために細かく描写されるか、一つのネタとしてわざとあっさり描写され、死因も様々である。例を上げれば戦闘による普通の敗北からはじまり、日数制限で世界が滅んだり、阿多佳のように『石の中にいる!』や、詩的な魔神様の入浴シーンに遭遇したばっかりに目からビームで焼き殺されたり、果ては媛佳のように宝箱を開けたら中身がクサヤの汁で臭さのあまり悶絶死したりする。マンボウ男は死の危険なのである。うーっ!

 そうすると逆の楽しみ方が生まれる。どんなバッドエンドか見たいがためにわざと間違った選択肢を選んで死に方をコンプリートするのである。昨今のノベルゲームなどでもやたらとバッドエンドの多いものが見られるが、流れの源流の一つがここにある。虎とブルマに根性を叩き直されるが良い。


「ぬあーっ!」

「あれー?」


 コンピューターゲームの隆盛とともに消えていった古き良き文化。散々に騒ぎ、主人公の死に様に一喜一憂しながら、二人のシャーペンとサイコロは止まらないのであった。


 媛佳達がゲームブックに熱中しているころ、知流佳はダンスの練習を終えて自宅の風呂で身体を伸ばしていた。


「あー……溶けるー……」


 疲れた身体に湯の熱が染み渡り、湯と一体になったような心地良さ。知流佳お気に入りのライムの入浴剤が、爽やかな香りで知流佳を包む。

ちなみに媛佳の好きなのは花の香り系、今はハイビスカスだったか。阿多佳は各種日本の温泉の元を気分で使う。


 透明な緑色の湯に透ける褐色の肌。この作品はKENZENなのでこれ以上の描写はしないが、背の高さに比して少々大きめのものが湯に浮かんでいた。アヒルのおもちゃのことである。


「うーん。やっぱり勇気を出してサクの背中を流して上げれば良かったかな……」


 今頃朔夜も岩永家で風呂に浸かっているはずである。岩永家の地下修練場は防音が完璧なので、知流佳も良くお邪魔する。練習の時にかけるミュージックプレーヤーも遠慮無しに大音量である。朔夜は慣れっこなので気にしない。聴こえていないわけではないが。

 お互いに練習を終えれば汗水漬くである。当然ながら疲れと汗を流すため風呂に浸かる。そこで一緒に入ればもうちょっとくらい意識してくれるかな、と思ったのである。朔夜とて、木石のような筋肉の塊だが、木石そのものではない。二人を出し抜いて仲を進展させるチャンスであったが、流石に気恥ずかしくて知流佳は断念し、一人湯に浸かっているのであった。


「もしも一緒に入ってたら……はっ、裸は恥ずかしいから行儀悪いけどボクはタオルを巻いて。で、でも背中を流すのにくっついたりしたら剥がれちゃうかも……そしたら、そしたら……」


 妄想を加速させみるみる赤く染まる知流佳。妄想する思春期のパラベラム。みんな大好きなエロスなのであった。水着で入るという発想は思い浮かばなかったらしい。あるいは最初から除外されているか。


「ボク……ボクは……」


 口が湯に沈んで泡をブクブクてているのにも気づかない。のぼせるのも時間の問題である。木花知流佳、三姉妹一番の乙女であった。


 さて、今夜は冷えるので牡蠣鍋である。土鍋に盛られた味噌の壁を少しずつ溶かして味わう土手鍋であった。こうすると熱に弱い味噌の揮発成分が長持ちするため煮込み続けても香り高くいただける上に、好みの味の濃さにできる寸法なのだ。今日の締めはうどんなので先に飯と共に食う。朔夜と知流佳が膨らんだ牡蠣の身を噛み締めれば、味噌に負けない濃厚な海の香りが口いっぱいに溢れた。

 掘り炬燵の一辺で肌を寄せ合い身も心も暖まる。


「あったかいね」

「うん」

「美味しいね」

「うん」


 他に言葉はいらないのである。媛佳と阿多佳がいまだゲームブックに夢中のため、知流佳は降って湧いた幸運、と二人きりの食事を満喫していた。もりもりと食べる朔夜に甲斐がいしく牡蠣を飯をと器によそう。


「はい、どうぞ。サク」

「ありがとうチルちゃん。チルちゃんもちゃんと食べてる?」

「ボクもちゃんと食べてるよ。サクほどは食べれないよ」

「そっかあ」

「そうそう」


 多月さんはちゃんと媛佳達の分も用意しているので遠慮無しにたっぷりといただく。二人静かに週末の夜は更けていった。


(ま、焦らないでもいっか)


 知流佳は食事とともに幸せを噛み締めた。


 後に、朝から寝食を忘れてゲームブックに熱中していた媛佳と阿多佳が飢えて目を回して倒れているのを、お手伝いの天野あまのさんが発見したのは次の日の朝だったという。空腹なので14へ行け。

たまには知流佳にも幸あれ。

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