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ダークブレイカー・ゼロ  作者: 増岡時麿
9/12

八話 確定

「なるほどね」



 創幻はギリギリまで短くなったタバコを、駐車場のタイヤ止めに押し潰して火を消し、そのままポイ捨てした。

 奴の周囲には吸い殻が散らばっている。人の話を聞きながら何本吸ったんだ。



「あーあ、もっと面白い話が聞けると思ったのに……拍子抜けだな。大体、不幸体質って言っても大したことないね。それじゃあ、世界で二人に一人程度の不運だよ。キミ以上に苦労している人間なんて腐るほどありふれている。まだサコンの方が酷い境遇で育ってきたんじゃないかな?」



 ボクの隣にいるサコンは、『キイロちゃん』と書いてある紙が貼り付けられたシャーレーを、カシャカシャと振って遊んでいる。

 彼女の膝では、能面カカシが寝ている。こっち見んなよ。つーか、これ本当に死体か……?

 今にも動き出して襲ってきそうだぞ、このゾンビ。そう言ったそばから急に首を起こして吠えやがった。



「ぅわああああ!?」



「……彼はサングって呼ばないと怒るのよ」



 お前が操ってるんだから、お前がキレてんじゃないのかよ。

 ちなみに、昨日ボクを追いかけてきたこのカカシは、ボクを追いかけていたのではなく、この地下駐車場に帰ろうとしていただけらしい。……マヌケ話にもほどがあるだろ。

 あの後、ローズ大尉ばりのへっぴり腰でよちよち歩いて帰ったボクはなんだったんだ。



「でも、名前の由来には笑ったな。ボクもそう呼んでいいかい、ねぇ、正義の道と書いてヨシミチくぅん?」



 創幻が馬鹿にするように言って、ヲタズキとボツコイがまた爆笑し出した。昔のことを色々思い出して感傷的になっているのに、そういうとこから突っ込むのやめろよ。心にくるから。



「まあまあ、あんまり自分をヒカすんなよ。俺が許してやる。お前はクズじゃねぇ、クズじゃねぇ。でもお前が一番やりそうで、やっちゃいけないことなんだか解るかー? 犯罪を犯すことだよ! おけけけけ!」



 ヒカ? 卑下じゃなくて?

 なんか知らないけど、いつの間にか横に座っていたヲタズキに励まされているボク。

 ボツコイが、ゴミ箱!と、ボクの頭にガムを吐いた。慌てて取ろうとしたが、髪に絡まってベタ付いている。……最悪だ、コイツ。



「ま、これでハッキリした。キミは正真正銘、間違いなく第四世代のゼロだ」



 失敗作が『ゼロ』って意味なのか。ロストナンバーズ的な?

 でも、ゼロってなんか厨二病っぽくてカッコイイ響きだよな。ナンバーズでゼロって、ロックマンだったら最強だろ。



「現実味のある不思議な夢を見ると言ったね。そこは僕たちの世界を俯瞰して見ている者たちの住まう所。上位世界、高次元、別になんでもいいけど、とにかくキミは断片的に夢としてそこを垣間見て、無意識下に干渉しているんだ。知っているはずのない漫画やゲームのネタを口走るのは、そこから情報を仕入れているからじゃないかな? 不幸体質はそれの副産物。七番目と同じような能力がキミにも少しだけあって、上手くコントロールできていない証拠。だから、キミは被害妄想癖があるイタい奴じゃなくて、本当に不幸で気の毒な少年ってことさ。よかったね」



 マジで。『愚かなる運命達フーリッシュ・デスティニーズ』は実在したのか。

 よーし、じゃあボクがぬるぽって言ったらガッと言えよ。ぬるぽ!



「キミの存在とその特性は組織でも危惧していた。いまの話を聞くと、周りに被害を及ぼすことはあまりなかったようだけど、偵氏くんだけは違ったね。英雄の力は新能力者のオーラを浄化することができる。キミはオーラによって造られた化け物だから、触れられただけで身体ごと消し飛んでもおかしくないはずなんだが、どういうわけか偵氏くんまで不幸体質になってしまっている。キミから発せられるオーラが彼の力よりも上なのか……いや、サコンや四番目の能力を打ち消したところから鑑みるに、それはないか。まだまだ調査が必要だね。英雄の力を所有する能力者なんてごく少数だから、貴重だし、解っていないことも多いんだ」



 暑苦しいと感じることは多々あるけど、手を握ったらジュッと火傷したりはしないな。



「新能力者は英雄の力を持つ者に惹かれる。これはすでに実証済みだ。でも、キミの体験談の方が例としては解りやすいから採用してやっても構わないかな。いいかい、ヨシミチくん。キミが偵氏くんに対して抱いている憧れは、能力によるものだ」



 最後の言葉でまたカチンときた。一応、まだ信じてないからな。

 ボクの態度が変わったのを見て、創幻はニヤニヤし出した。



「ブレた姿勢の奴が嫌いだって言ってたけど、その時々の感情によって大きく心が左右されるキミは、能力を制御できないまさにゼロのそれなんだよ。偵氏くんが側にいると落ち着くだろ? 彼のおかげで今のキミはギリギリ自分を保っていられるようなものさ」



 ……まあ、それはそうかもしれない。ボクはあのままだったら何をしでかしていたか判らないもんな。

 ブレブレで性格ひん曲がってたのは、他の誰よりボクだったかもしれない。それでも、偵氏のおかげで道を見出せたんだ。

 あの頃の自分はもういない。いないんでやんす!



「考えてもみなよ、いままで他人を恨んで生きてきた奴がそうそう簡単に心変わりできると思っているのかい? 出来損ないのくせに自尊心だけは一人前で、人を見下し、頭が悪いのに自分が一番正しいと思い込んでいる。己の思想が優れていると勘違いしている奴ほど、人の話も聞く耳を持たないで、そうやって右から左へ流そうとする。困っている人を助けたい気持ちなんて、ホントは欠片もないだろ? いいか、キミは偵氏くんのことが好きなんじゃない」



 下を向きながらも、冷静になって無表情を装う。

 創幻が喋り続けると共に、心臓の拍動がどんどん大きくなっていった。



「偵氏くんを尊敬している自分のことが好きなんだろ?」



 その一言に口を結ぶ。心のどこかで自覚していて、誤魔化しながら隠していた思いが剥き出しにされた。

 ……言葉ってホントに刺さるんだな。目の前にハンドガンが投げられる。



「ゼロは排除しなくてはならない。第四世代となれば尚更だ。僕がこの場で殺してやってもいいけど、せっかくだから自分でやりなよ。言っておくけど、どこへ逃げても無駄だよ。組織と教団のネットワークは全世界に拡がっているんだ」



 硬直したまま銃は取らない。顔を上げて、創幻の目を見た。



「最期に、偵氏くんと会いたいかい?」



 また俯いて、目を閉じて頷く。……ああ、会いたいよ。でも、会ってどうすればいいんだ。



「好きにしなよ。キミが死んだことに勘付かれて、友達想いの心優しい彼がこっちに敵意を向けたら殺しかねない。さっきも言ったとおり、英雄の力は貴重なんだ。彼の側を去る言い訳を必死になって考えろ。偵氏くんを疫病神のキミから切り離してあげたいだろ? 罪悪感のある人間なんて見たことないけど、悪を心の底から憎むキミなら解るはずだ。キミみたいなゴミは今すぐにでも死ぬべきだってね。さあ、出て行け。本当に人のため行動できるチャンスだよ」



 駐車場を追い出され、地下街から大通りへ上がる。

 ……ふう、やっと終わったか。あのチンピラ科学者め、言いたい放題言ってくれちゃって、まぁ。

 今度こそマジで殺されるかと思ったけど、ケレン味たっぷりの演技が上手くいったぜ。

 運がよかったな。



「玉ねぎっ!」



 大声で名前を呼ばれて、飛び上がる。次は誰だよ。人気者か、ボクは。

 声の主は旭だった。冴木も一緒にいる。



「探したのよ。偵氏は?」



「……あ、あぁー、ちょっと用があるんだって」



「そ。ちょうどいいわね! 私たちもあんたに用があるのよ!」



 同い年のお嬢さん方二人に逢い引きされ、再びレストランへ誘われるモテモテなボク。

 店員の視線が痛い。客の顔なんて忘れろや。並んで座る二人と向き合った。こうしてコイツらに会うと、現実に引き戻された気がするな。

 あのサコンやゾンビたちも、創幻の話も、すべて幻だったかのように感じられる。そうだ、あれは全部夢だったんだ。いつも見る変な夢さ。



「じゃあ、さっそく本題に行くわよ」



「どーぞ」



「私たち、偵氏に告白しようと思うの!」



 あっそ。そんなことだろうと思ったよ。

 お前らが学園に行こうかどうかまだ決めかねているのも、それが理由だろ?



「うん。わたしか、テルちゃんのどっちか一人だけが行こうって、二人で決めたの」



「正々堂々、女の勝負よ! 一緒に告白して、オーケーされた方が偵氏に付いて行く」



「大好きな人と、大好きな友達が恋人同士になれたら素敵だと思う。だからね、断られても悔いはないの」



「振った方と振られた方が二人も側にいたら、あいつも気まずいだろうしね。……離ればなれになるのは寂しいけど、友達であることは変わらないわ。だから玉ねぎもさ、どっちが来ても仲良くしてやってよね。話っていうのは、それだけっ!」



「うん。わたしたち、ずっと友達だよ」



 うん、ズッ友だょ。

 入学した日は、「冴木ウトです。最キュートって呼んでねっ☆ てへっ!」って自己紹介したらウケると思うぞ。ちょっとやってみ?

 それに理解が足りないな。お前らだって、あいつの性格は知っているはずだろ。そんなことを言われたら、あいつは何がなんでもお前ら二人共連れて行くよ。

 今のうちに嬉し涙を流す準備でもしておくんだな。甘ったるいメロンソーダをストローでゆっくり啜る。

 ……この二人は、偵氏のためにちゃんと考えている。ボクは……。



「あ、偵氏? 忙しいところごめんね、今からちょっと会えない?」



 さっそく偵氏を呼びだそうとする二人。教団の電話ボックスでかけるのはどうなんだ?

 一応、教団には秘密の学園って設定だろ。



「うん、うん! わかったわ、また後でね。……玉ねぎ? いるわよ、代わる?」



 旭から受話器を奪い取って、耳に当てる。

 ふん、アンタたちみたいなじゃじゃ馬なんかに偵氏くんは渡さないわ! 彼はこのワタシと添い遂げるんですからねっ!

 悪ふざけをしている場合ではない。……そうだ、ボクも、偵氏に訊かなきゃいけないことがあるんだよ……。



「よお、偵氏」



『おお、ヨシミチ。大丈夫か? あいつらに何もされてないよな?』



「心配するなって言ったろ。そっちは、どうだ」



『俺? いや、別に何も起こってないけど』



「そっか。……ところでさ、お前が不幸になったのって、何時からだ……?」



『不幸? うーん。子供の頃からケンカを止めようとしてケガしたことは何度かあったけど、変なことが起こるようになったのは、この街に引っ越してきてからだな。それがどうかしたのか? お前だって心配しすぎだぞ。学園の見学に行った時は嫌なことなんてなかったんだし……。それよりさ、』




 ──思考が停止した。




「……旭、これ」



「え? ……ちょ、ちょっと! どこ行くの!? 玉ねぎ!」



 ……



 …………



 ──……………──………──……



「やあ、また会えたね。あ、落ち込んでる?」



「酷いこと言うよね、創幻くんって。昔はあんなじゃなかったのになぁ」



「僕はキミのことを出来損ないだなんて思ってないよ。むしろ、ずっと期待していたんだ。キミこそが僕の最高傑作だってね」



「ほら、これをあげるよ。飲み込むだけでいい。キミは最強の力を手にすることができるんだ。そうさ、この世界を支配することだってできる。キミの思うがままに創造して、思うがままに行使すればいい。理想を現実に変える力だ。キミが全てを覆してくれると、そう信じているよ」



「それじゃ、またすぐに。偵氏くんにもよろしくね」




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