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ダークブレイカー・ゼロ  作者: 増岡時麿
7/12

六話 出会い

 十一歳、もうすぐ冬が終わって春を迎えようとしていた頃。

 いつも通り、地下街へ向かおうとしていた時だ。──イカ夫が小さな川で溺れているのを発見した。

 自転車で古い柵に突っ込み、落ちてしまったようだ。無様に泣き喚いてる姿に、思わず吹き出したが、このまま見過ごせば万が一助かった後で、玉ねぎのせいだ玉ねぎのせいだと言いふらし兼ねない。

 なによりここで死なれては困るからな。お前はボクが苦しめて虐殺してやるんだから。

 コートを脱ぎ、フェンスを乗り越え、その辺で拾った棒きれを伸ばす。ギリギリ届かない。残念。

 おいおい、頑張れよ。自力で泳いで上がって来れない奴は、意気地無しなんだろ。メンドくせぇなぁ。

 やっぱりここで死んどくか、イカ夫ちゃんよ?



「大丈夫か!? いま行くからな!」



 後ろから、急にしゃしゃり出てきた誰かさんが川へ飛び込んだ。なんだ、コイツ。せっかく人が楽しんでるってのに。

 そいつはイカ夫を抱えて棒きれに掴まった。うおっ、二人分の重さを引っ張り上げられるほど力ないっつーに。

 なんとか川から上がる二人。運がよかったな、イカ夫。どっかのお節介さんのおかげで命拾いだ。



「ありがとな、お前がいなかったら危なかった」



 突然、そいつが笑顔で手を握ってきた。キッタねぇな。泥付いた手で触んじゃねぇよ。

 遠くに居る両親らしき人たちに名前を呼ばれ、ボクが手を振り払う前に駆け出して行った。



「ごめん。俺、行かなきゃ。本当に助かった。じゃあな!」



 手を振る代わりに、しかめっ面で睨んでやった。

 じゃあな。もう二度と会わないように願ってるよ、自己満足のヒーローさん。




 ……本人はもう覚えていないかもしれない。

 でも、これがボクと偵氏の、初めての出会いだったんだ──




 たしか小学六年に上がって、数週間は経った頃だろうか。児童施設に新しい子供がやってきた。

 イカ夫を助けたあいつだ。二ヶ月前に街へ引っ越してきて、この近所に住んでいたらしい。



「偵氏くんは最近、両親を亡くしたそうです。辛いだろうけど、頑張ってね。私たちみんなで支えるから」



「はい! よろしくお願いします!」



 おー、それは気のポイズン。お前が死ねばよかったのにな、クソババア。

 大体、何を頑張れっていうんだ。これからお前らに受けるであろう仕打ちに耐えるのにか?

 余所モンは徹底して迫害するんだろ。前にカツ丼が、おれたちは全員首都の街で生まれたんだ、お前だけ田舎者なんだろうな。とか、よく分からない自慢してたぞ。気を付けろ、新入りくん。

 偵氏・J・アレックスと名乗り、集まった施設の人間と順番に握手をしていく。



「これからよろしくな!」



「キミ……好きな映画は?」



「へ? えっと、ごめんな。俺、映画とか観たことないんだ」



「ふ~ん。俺はジョージャンクの海にとか好きだな。あとはソンピとか九人の騎士とか、たくさん観てるから何が一番か決められないんだよね。あ、音楽は洋楽以外認めないから」



 ほら、ナル川くんがまたしょうもないこと言ってら。

 ちなみに、そいつは映画も音楽もまともに知らないぞ。観たことも聴いたこともないくせに、拾ってきた雑誌とか、人から聞いた評判をそのまま引用して言ってるだけ。通ぶりたいだけのあんぽんたんだ。

 バカの話をバカ正直に聞いて、偵氏は、隅にいるボクにも握手を求めてきた。



「よろしくな!」



「……よろしく」



「名前なんていうんだ? キミだけまだ聞いてないよな」



「はい! 偵氏くんもお腹空いたでしょ、そろそろご飯にしましょう!」



 ボクに名前を聞いた偵氏の言葉を遮り、ブタが料理をテーブルに用意してきた。

 例の通り、並べられた皿が一つ足りない。わざとだろう。ボクは一日一食までと決まっている。錠剤と炭水化物の塊だけだ。

 気付かれないように施設を出て、外へ出かける。地下街で一人、狂ったように散々喚き散らした。



「ぁぁぁぁああああああ!! ブタがよおおおおおおおおお!! ナル川くんがよおおおおおおおおおお!! ええええええええ!? 調子に、乗り、やがって、殺すぞ殺すぞこおっすぞゴミがよおぉおおぉおおおぉぉぉぉぉぉ!! ……ぁっあっあっ! バギュジュベボボジャナゲェ!! コロスゴミクズブタシネクソ……ブニニニニニ……フハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

 奴らに模した人形を殴りながら罵倒する。こうでもして鬱憤を少しでも晴らさないと気が済まなくなった。

 胃が熱くなってキリキリする。ゴミゴミゴミゴミゴミ。どいつもこいつもゴミぃ。

 カツ丼は昔、建物の上から植木鉢を落として下に居たボクを泣かせたことを、いまだに学校で自慢げに話している。ナル川とイカ夫は最近になって、こけおどしをチンピラから学んだようで、迫力の無い真っ赤な顔で、鼻息を荒くしてボクの胸ぐらを掴んで脅してくる。ゴリラはボクがいやらしい目で見てくると言う。

 いますぐにでも殴り殺してやりたいが、やり返すとコイツらは必ず寮母たちに言い付けるだろう。自分らは大人が見ていないところで人を虐げるゴミのくせにな。それで何もできず、逆らえない現状に腹が立つ。

 日課の憂さ晴らしが終わって、持参したライトを付け、置きっ放しの教材で勉強を始めた。



 ブラック教団が世界を統治してから、特に子供の教育に力を入れているようだ。講堂や教会に行けば、無償で誰でも基礎的な教材は手に入る。

 なんでもっと早く気付かなかったんだ。自分のバカさ加減にも腹が立つ。教育機関も今は受験が無料のところが多い。

 来年からボクは中学生だ。じゃあ、寮付きの適当な学校を手当たり次第に受けて児童施設から出て行けばいいじゃないか。

 過去問の文章問題に四苦八苦する。外国語の論述は、また時事ネタなのかな。こんなとこで間違うなよ。計算できないイコール馬鹿だろうがッ。あー……わかんねぇー……。詰まると余計なことを思い出してイライラしてくる。

 ペンを捨てて寝転がった。大体、ボクは集中力がないんだよな。地頭が良くないのも自覚している。いまさら勉強をして間に合うのか?

 そもそも落ちたらどうする。また高校に上がるまであいつらと共同生活か?

 万が一受かったところで、そこには幸せが待っているのか?

 この不幸体質のおかげか、人に出会う度、殺したい奴が増えている気がするぞ。

 ……ああ、ネガティブに考えても仕方がない。前向きに行こう。頭のいい学校へ行けば、頭の悪いあいつらみたいなタイプのゴミとは遠い位置に立てると信じるしかない。

 将来は金持ちになるんだ。そのためには学歴だって必要だ。あと一年の辛抱さ。

 それだけ考えて努力しろよ。環境が悪いから勉強できないだなんて、ただの言い訳だ。

 自分にそう言い聞かせ、再びペンを取った。



 帰る前にいつものルートで遠回りする。路地裏から襲ってきた発情期のネコの尻尾を掴み、思いっきり地面に叩き付けた。

 女に絡んでいる不良の頭に石を投げ付け、キレさせる。追ってきたところで逃げ、角を曲がり、マンホールを外して中に隠れ、気配が消えたのを見計らって出る。

 身体中にゴキブリが引っ付いていた。服の中に潜り込んだヤツもふるい落とし、一匹だけ踏み潰す。

 これで三回か。虫は別に苦手じゃないから不幸の数には入らないかな。あと二回ほど何かあれば、少しは安心できる。

 ──腹部に衝撃と痛みが走った。振り返ると覆面をした男。



「はぁはぁ……金だ、食いモンもあったら寄越せ……」



 刺したナイフを抜き、倒れたボクの身体を弄ると、目当ての品は何も持っていないのを確認し、奇声を上げて走り去った。

 くそ、服が汚れた。もう施設の近くだが、血を洗い流さないとダメだな。何故かこれくらいの軽い傷ならボクはすぐに治る。だから医者に掛かる必要は無い。

 公園の水道で服と身体を洗い、施設に戻った。これだけ痛い目に遭ったら十二分か。

 まったく、運がよかったな。



「お、帰ってきた」



 ゴミ共と鬼ごっこをしていたらしき偵氏がこっちに向かってきた。さっそく洗礼を受けているようだ。

 ていうか、その歳で鬼ごっこかよ。ねちっこいのも大概だけど、考え方も低レベルな連中だ。コイツも付き合ってやるなよな。



「どう? キミも一緒に遊ぼうぜ」


 

 やるわけねぇだろ、ボケがッ。

 大体、何時だと思っているんだ。アホ同士で勝手にやってろ。

 遊具の上で様子を見ることにした。運動神経はいいようだな。完全な一人狙いだが、すぐに偵氏は誰かを捕まえて鬼の入れ替わりが激しい。普通に鬼ごっことして成立している。

 先に他の連中がクタクタになって根を上げ、終了した。安い激励、ご苦労さん。

 風呂に入って、今日寝床になる部屋へ忍び込もうとすると、骨に呼び止められた。



「玉ねぎ、あんたは今日から偵氏くんと一緒の部屋よ」



 ……ああ?



「いやあ、いいのかな。俺たちだけ二人って」



 この施設ではいつも、三つある部屋でボクをたらい回しにしている。

 今はゴリラが色気付いたから、一つは占領され、二つの部屋を行ったり来たり。

 現在の状況はゴリラが一人、カツ丼とイカ夫にナル川くんが三人、ボクと偵氏の二人になったらしい。



「お前、寮母に何か言ったのか?」



「いや、別に。ただ、キミと仲良くなりたいからどうしたらいいか聞いてみただけで……」



 照れくさそうに笑っている。やっぱり余計なこと言ってるじゃねぇか。

 まあ、自室が手に入るのは色々と都合がいいな。口にはしないが、一応礼をするよ。



「それで、あなたのお名前はなんでしょうか?」



「……玉ねぎ」



「へっ、タマネギ? それが苗字か? 下の名前は?」



「ないよ」



 玉ねぎっていうのは、名無しのボクに予め付けられていた呼称だ。

 身寄りの無い子供は、適当な名前を与えられることが多い。きっとボクが捨てられていたところは、ガキを野菜で呼ぶことが流行っていたんだろう。



「うーん……じゃあさ、今から名前考えてみないか? 今度は玉ねぎが自分で付けるんだよ」



「フン。嫌だね、寝る」



 無視して、布団の横になった。いまさら新しい名前なんているかよ。人の気も知らないで勝手なこと言うな。

 翌日から、偵氏への弾圧が激化していった。鬼ごっこの件で、力では適わないと解ったのか、カツ丼たちはみみっちいやり方で嫌がらせをするようになったのだ。

 助けてもらった恩を忘れたのか、イカ夫は偵氏が話しかけた瞬間に、太い首を曲げて別の奴に話題を振り、シカトした。

 ナル川くんは意味不明なお笑いネタを仕込み、いじられた偵察が棒読みでそれをやると、わざとらしく手を叩いて嘲笑した。

 カツ丼は得意の盗人根性で偵氏の物を盗り、下着などをゴリラ部屋に放り込んだ。

 ゴリラはゴリラで、相変わらず、いやらしい目で見てくると馬鹿の一つ覚えで寮母に言い付けている。

 講堂にもボクと一緒に連れて行かれた。



「なんか凄かったな、あそこ。みんなも来たらいいのにな」



 理解が足りないようだな。教団の講堂で訳も分からないお経を読まされるってことは、疫病神扱いされてるってことだぞ?

 他の信者たちはどうか知らないけど、寮母の歪んだ信仰心にはほとほと呆れるよ。

 たまにボクが寝ているところを隙間から見てぶつぶつお経を唱えてやがる。頭がおかしくなりそうだ。

 大体、宗教ってモンは弱い立場の人たちが間違いを起こさないように集団としてまとめるための装置だ。

 正しいことが一体なんなのか、それをまともに判断できない奴らに、神様がちゃんと見ているから、悪いことをしてはいけませんよ、善行を積んで社会で仲良く暮らしましょうって提唱することが目的だろ。

 ブラック教団がどういう組織なのかはよく解らないが、やっていることは多分同じさ。

 宗教は神の奇跡じゃなくて、歴史の中で人間が積み上げてきた努力の結晶。

 本当の信者なら、その本質を見抜いて、神様を盲目的に崇める前に、そんなふうに昔からみんなをまとめるため頑張ってきた人たちへ敬意を払うべきだと思うね。

 なんで寮母は何十年も生きてて、その程度のことも考えられないんだろうな。ゾッとするよ。きっと死んでも治らない病気なんだろう。

 ま、どうでもいいけど。



「はい、偵氏くん。これいらないからやるよ」



「これかけたらウンマイぞ」



「ッッッヘックショイ!! ごめん、鼻水入った」



 食事の際に、また偵氏が嫌がらせをされていた。メニューはボクと同じ薬漬けの白米。

 三人のゴミ共が、ボクの茶碗にも同じように苦手なおかずを乗せ、ジュースをぶっかけ、くしゃみを吹きかけた。

 これなら自分の鼻クソか、蟻とかミミズ食ってた方がまだいいな。



「……おい、何やってんだよ!?」



 それまで温厚だった偵氏が急にキレ出した。びっくりしたな。いちいち驚かせるなよ。



「なにって、トッピングしてやったんだろ」



「俺がお前たちに気に入らないことをしたなら謝る……だけど、玉ねぎは関係ないじゃねぇか! 何もしてないだろ!」



 はあ?

 何言ってんだコイツ。自分が同じ事やられてもヘラヘラ笑ってるくせに、他人がされたら怒るのか。

 どういう神経してんだ。誰かのために熱くなれる俺カッケェってか。お優しいことで。泣けてくるね。



「へっ。お前は知らないだろうが、コイツは昔からのけ者にされるの慣れてんだ。ほら、文句一つ言わないぞ? 黙ってるだけの意気地無しは、馬鹿にされて当ぜ──だぁっ!!」



 カツ丼が椅子から転げ落ちて吹っ飛んだ。偵氏が顔面に一発ぶん殴りやがった。

 あーあ、知らないぞ。でもいい気味だな。いいんじゃないの、こうなったら後戻りできないから、もっとやれやれ。



「テメェ……! もういっぺん言ってみろ!」



「……う、うわあああああああん!!」



 カツ丼が泣いて逃げ出す。予想通りの流れで寮母たちを呼び出した。



「事情は聞いたわ。偵氏くん、あなた自分が何をやったか解っているんでしょうね?」



「あんたらは知ってたのかよ!? 玉ねぎがコイツらにこんな仕打ちをされてたって! なんで止めないんだ!?」



「それは、ええ。でも、仕方ないんじゃないの? 子供たちの関係にまで、大人がとやかく言うのは良くないわ」



「ふざけるなよ……! 友達だろうが……! 悪いことをしたならちゃんと謝れよ!」



 うわあ……暑苦しい。イタいイタいイタい。今時、熱血主人公にでもなったつもりかよ。流行らねぇぞ、そんなの。

 怒鳴られたカツ丼が涙を拭い、ボクの目の前に立って、怯えながら頭を下げた。



「……ごめんなさい」



 あー、はいはい。形式だけの謝罪ね。赦さないけど許すよ。



「それでいいさ。……悪かったな、殴っちまって」



「うん……」



 こうして三流ドラマのワンシーンが締めくくられたとさ。いやあ、陳腐だね。

 ボクは面白かったけど。カツ丼のベソかく姿なんて久々で、見物だった。直情的で後先考えない馬鹿だけど、気に入ったぜ、偵氏くん。

 この調子でコイツら全員の殴られる瞬間と泣き顔を拝ませてくれよ。

 昼飯の後は、偵氏に無理矢理手を引かれ、ボクも加わってみんなでまた鬼ごっこをした。

 差別のない極めて普通の鬼ごっこ。……いつまで付き合わせる気だ、この茶番。

 遊び終わり、イカ夫とナル川くん、ゴリラがボクに近づいてきた。なんだよ、文句あんのかコラ。



「あのさ、いままでゴメンな、玉ねぎ」



「偵氏にもさっき言われた。そうだよな、一緒に住んでるんだから仲良くしないとな」



「わたしもゴメンね。玉ねぎのこともう虐めたりしないよ」



 ……あ? 

 ああん? 今、なんて言ったコイツら?

 はぁぁぁぁああああ? なんだ、それは。それで謝ったつもりか。謝って済ませるつもりかよ?

 これまでボクにしてきたことの全ては、一言のゴメンでチャラか?

 ふっっっざけんなよ!! いいわけないだろうが、ゴミがッ。お前らはボクが苦しめて苦しめていたぶり尽くす予定なんだ。

 謝るのは、その後にしろ。言葉じゃなくて死んで詫びろ。こんなの何一つ割に合ってないじゃないかよ!

 何がゴメンだ、赦すわけないだろ!



「ふざけるな、ゴミがぁッ!!」



 内に秘めて抑えていた感情が破裂し、全身に血のごとく行き渡って外へ流れ出す。

 ほら、見ろ。コイツら何も反省してないじゃないか。拒絶したボクを、侮蔑の視線で見ている。

 謝ったのに赦してくれないとか、信じられない奴だってか?

 常識がないくせに、まともに物事を考えずに好き勝手生きてきたくせに、そんな目をする資格なんてないだろ。

 人を虐げてきたゴミが、これから先、謝っただけで全うに生きていけると思っているのかよ。

 お前らには夢を語る資格がない。親になる権利がない。偽善者にすら、なってはいけない。それくらい落ちぶれている。

 ボクの方がお前らを心の底から軽蔑しているんだ。



「ど、どうしたんだ、玉ねぎ……」



 ボクの声を耳にして、偵氏が駆け寄ってきた。奴の額にボクの額を当て、睨み付ける。



「やっぱり、ボクはお前が気に入らないよ」



 それを捨て台詞に、施設を出て、大通りに向かい、地下街へ籠もった。

 今日は帰りたくない。だって、もう抑えられなくてヤッちゃいそうだもんな。ブニニニニニ!

 落ち着け……ここで爆発させたら、いままでの苦労が台無しだ。思い出せ、泣き寝入りしながら過ごしてきた、あの日々を。

 ボクが我慢して耐えてきた環境を、たった数日で簡単にぶち壊しやがって。言っておくが、一度決めた計画を曲げるつもりはない。

 なにがなんでも叶えてみせる。あいつらに死よりも恐ろしい地獄を味あわせてやる。狂ったように喚き散らかしながら、再び燃える怒りに想いを込めて誓った。



 次の日の朝、霧がかった大通りをグルグル周回してる途中で偵氏を見かけた。こんな朝っぱらから何してんだ、あの野郎。

 昨日のことを思い出して、また胃が熱くなる。どうせ暇なので尾行することにした。

 不良に絡まれてる女の子がいた。偵氏がそれを助ける。倒れていた年寄りを労って病院まで送り届けた。突然、襲ってきた鷲と一方的な鬼ごっこをしていた。ウンコを踏んで叫んだ。

 ……やっぱり、あいつも不幸体質なのか。薄々勘付いてはいたが、あんなのと同類ってなんか嫌だな。

 何かにつけて人助けをしている姿勢が気にくわない。上辺だけのいいことをして、そんなに気分がいいのか?

 しばらくしてやっと辿り着いた。……墓地か。そういや、両親が死んだんだっけ。

 一つの墓の前で止まり、水をかけたり花を添えたりした後、手を合わせた。

 後ろ姿しか見えないから、どういう顔をしているのか判らない。服の袖で目を擦っている。ははっ、泣いてるなこりゃ。



 気が済んだので、その場から立ち去ることにした。

 予言してやるよ、あいつはいつか壊れるね。しかも近い内に。親御さんが死んでも解らないみたいだが、世の中にはもっとどん底があるって思い知ることになる。

 そしたら正義のヒーローごっこなんて、掌を返して辞めるぜ。断言してやる。




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