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ダークブレイカー・ゼロ  作者: 増岡時麿
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四話 尋問

 ここはシャレオツな喫茶店。じゃなくてカフェの専門店な。

 今となってはただのレストランと化してるけど、改装もできず、団体が昔の風体のまま流用している。



「さっき教団の関係者と言ったね」



「あ、はい」



「あれは嘘だ」



 そうですか。まあ、教団のバッジもしてないしな。

 白衣を着ているが、金髪で柄が悪い。じゃあ、何者なんだって、そんなことはどうでもいいから、はやく話を終わらせてくれ。

 運ばれてきた日替わりメニューが二つ、向かい合ったボクらの前に出される。別にこんなガッツリ食いたくないんだけど。食欲ないし。



「……なんだ、これは?」



 ボクの定食をタバコで指して訊く。なにって日替わりメニューですけど。

 ああ、なんかコゲ入ってたり、虫が味噌汁に浮いてたりしてるな。いつものことだ。

 創幻はタバコを咥え、ボクのトレーを奪うと、カウンターにいる店員の前に、まったく手を付けていない品と小銭を差し出して言った。



「日替わり定食、一つ」



 戻ってきてイスに腰を下ろした。唖然としたバイトの女の子が冷や汗で顔を滲ませている。

 タチ悪すぎだろ……。嫌な客だな。ボクが働いてる店にもこういう奴はよく来るけど。

 


「キミは、見た目が大人しそうだから舐められるんだね」



 こけおどしって大事だよ。と、創幻さん。余計なお世話だ。



「関係者じゃないっていうのは、適切じゃないな。正確に言えば教団をも統べるずっと大きな組織、僕はそこの科学者だね」



 急に話を戻す創幻さん。



「玉ねぎヨシミチくんだっけ? あの子、偵氏くんとはどういう関係なんだい?」



 なんでそんなこと言わなくちゃならないんだ。でも、ここで渋るとあらゆる手段に講じそうだな。一連の流れでコイツがどんな奴なのかは解ったし。

 適当に嘘を織り交ぜながら話そう。



「ただの友達ですけど」



「彼はどういう性格だ?」



「困っている人がいれば見境なく助けるくらいにはお人好しですね」



「なにか変わったところはないかい?」



「そのお人好しってところがすでに変わってると思いますよ。溺れてる人を助けるために躊躇いなく川に飛び込むし、不良に絡まれてる女の子とか、ほぼ毎日。人じゃなくてもネコだろうが犬だろうが危険を冒してでも助けますね。捕まえた強盗に説教したり、火事の中にも突っ込んだことあったし……」



「火事?」



 しまった、喋りすぎた。



「その話、詳しく教えてくれないかな? 火事のこともそうだけど、随分と危ない場面に出くわすんだね。彼の過去とか知ってたら洗いざらいさ」



「い、いや、その……」



 創幻が白衣の内側に手を伸ばした。おいおい、ここ店の中だぞ。



「言えよ」



「……」



 言わねーよ、バーカ。人が下手に出てたら、調子に乗りやがって。

 お前みたいに威圧的な野郎は嫌いだね。撃ち殺したいならそうしろよ。偵氏を裏切るくらいなら死んだ方がマシだ。

 着たままのコートを引き締め、席を立つ。



「悪いけど、帰らせてもらいます。ごっそさん」



「彼、──あの学園に呼ばれているんだって?」



 思わず立ち止まる。振り向くと優しそうに微笑んだ創幻が、向かいの席を指さした。

 席に戻る。どうせ、さっきボクと偵氏が話してたことを立ち聞きしてたんだろ。それをはっきりさせてから帰るだけだ。



「あの学園は、組織の知り合いが経営している学園だ。連絡して訊いてみたところ、確かにリストに名前が載っていた。ここの地域からも一人選ばれたみたいだね」



 今度はハッタリか。コイツ、ただの詐欺師じゃないのか。



「あそこはね、『英雄の力』っていう能力を秘めた子供を匿い、教団に対抗する組織を作るためという仮の名目で最近創設された学園なんだ。実際は、僕らの組織がその能力者たちを集めて研究するための装置に過ぎない」



 何を言い出すかと思えば、英雄の力? 能力者?

 バカバカしくて聞く気も失せる。人を馬鹿にしたいのならもうちょっと頭使えよ。



「疑っているのかい? キミだって目の前で見たはずだよ」



 偵氏が、サコンとかいう不気味な女を助けようとした時、迫ってきた瓦礫の波に触れて消滅させた。



「どうだ、もっと詳しく聞きたいだろ?」



 笑わせるな。それで優勢になったつもりかよ。大体、あれは偶然かもしれないし、お前の話が本当なんていう確証もない。



「もう一度訊こうか。彼、偵氏くんに何か変わったところはないか?」



「……つだよ」



「なんだって? もっと大きな声で喋れよ」



「あいつは不幸体質なんだよ! ああ、そうだ。偵氏は不幸で、それでも誰かを助けるために一生懸命なヤツだ。不幸なことに言い訳して、自分の殻に籠もって世の中を悲観的に見たり、誰かを恨んだり妬んだりもしない。自分が散々な人生のくせに、他人のために頑張れる優しい奴なんだ! それだけだ。英雄の力なんて荒唐無稽なモノは関係ない!」



「不幸体質ねぇ……キミはどうなんだ?」



「……だったら、なんだよ」



 顔を下に向けて創幻が震える。何がおかしい。遂に堪えきれなかったのか、吹き出して爆笑し出した。

 ヒーヒーと苦しそうになりながら、腹を抱えている。



「今日は大収穫だな。まさかこんなところに居たとは」



「もういいだろ。これ以上、あいつに関わろうとするな。……学園のことも断らせるからな」



「そうだね。偵氏くんの話は止めだ。それよりキミの話をしよう、玉ねぎくん。僕は俄然そっちに興味があるね」



 偵氏の次は、ボクかよ。今度こそ帰るか。……でもこの不幸体質のことも何か知ってるなら聞き出さないと。



「さっきのゾンビたち、あれはサコンが操っていた。死体を操作する能力だ。英雄の力とは総反する『悪の力』、悪意を糧に発動するからこっちの方が解りやすくていいんだろうけど、僕たちは『新能力』と呼んでいる。その力を持つ新能力者たちを総称して『ナンバーズ』と名付けた」



 また突拍子もないこと言い出したな。完全にこっちが話を信じたと思っているらしい。



「最初に新能力者が誕生したのは今から二十年ほど前、ある者が能力の元になるダークマターを作り出した。それを起点に周辺を黒いオーラが包み、そこの住人たちは強制的に新能力を開花させられたんだ。しかし、オーラを制御できた人間はごく少数で、生き残ったのは当時、神童と云われた少年と、元傭兵の男。これが第一世代だ。少年は一番目、男は時間を掛けて能力を身に付けたから遅れて五番目のナンバーズ」



 作り直した日替わりメニューが運ばれてきた。ちょうどいい、なんか腹減ってきたんだよ。貪るようにして魚のフライに齧り付く。



「ダークマターの事件から、僕らはこの力をもっと調べてみようと考えてね。人体実験を行うことにした。対象は身寄りのない人間。人身売買のルートで利用されていた子供たちだ。そこで二番目として出来上がったのが、あのサコン。もう一人、オーラを制御できたのはなんと赤子でね。能力を開花させるには年齢が低ければ低いほどいいと知った。成長したその赤子が今の六番目。これが第二世代。彼女たちのおかげで新能力について色々と判明した。身体能力の向上、オーラを身体から飛ばして使えることが解ったんだ」



 タルタルとかソースより、醤油を付けて食べる方が好みなんだけどな。あいにく、空っぽ。脂だらけの口内をたくあんで潤す。



「さらに能力の応用を試した。次に対象となったのは富裕層の子供たち。大手の資産家や投資家にこの新能力のことをプレゼンして、被験者を募集した。見事、厳密な審査を通って新能力者となったのが三番目と四番目の少年少女。研究の結果、オーラを別のエネルギーや物質に変えられることが解った。これが第三世代にあたる。サコンを襲った内の一人がそれだね」



 長い長い。ごめんな、ぶっちゃけ半分も聞いてなかったわ。漫画の設定か何かかな?

 能力バトル物ならもっと解りやすく簡略化した方がいいと思うぞ。



「そして、最後が第四世代」



 創幻は一旦そこで話を止め、タバコを灰皿に押し付けた。ようやくか。珍能力がどうとか、そんなんはどうでもいいんだよ。



「偵氏くんは、困っている人を率先して助ける情に厚い男だったね」



 なんの脈絡もなく、また偵氏の話か。いい加減にしろよ。



「バカみたいだね。メサイヤコンプレックスってヤツかな? 自分の気分がよくなるために、独り善がりで他人を利用しているんだ」



「……は?」



「聞こえなかったかい? 偵氏って不幸体質の残念な屑は、なにを勘違いしたのか、自分だけのためにやっていることを他人のためと言い聞かせながら、周囲にチヤホヤされたくてしょうがない奴なんだって。僕を見捨てないでください、もっと褒めてくださいと、心の中で泣き喚いているだよ、きっと。自己満足の権化とは、あれのことだね。直向きな性格というより、相当ねじ曲がってるんじゃ──」



 勢いよくテーブルに両腕を叩き付けて立ち上がり、奴の胸ぐらを掴み上げる。コップが割れて店にいる人たちから注目された。知ったことか。



「お前があいつの何を知っている。屑はお前だ。もう一度、偵氏を侮辱してみろ。殺すぞ。この、ゴミがッ」



 理解が足りないようだから、身をもって教えてやろうか。創幻は笑みを崩さずに言った。



「……それがキミの本性か。ボツコイが彼を馬鹿にした時もすごい剣幕だったよ。だから、からかわれたんだ。教えてやるよ、キミの正体。キミは新能力者たち、ナンバーズを作る過程で生まれた失敗作だ」



 黙れ。どうでもいいと言っているだろ。それよりさっきの言葉を撤回しろ、今すぐに。



「第四世代は、一番目のナンバーズが勝手に生み出した。コイツがまた狂った野郎でね。天才で、新能力をすぐに使いこなし、まだ五才の時にその実験を行ったんだ。人間じゃないオーラによって作られた完全な人工生命体の生成。成功して生まれたのが七番目。因果律に干渉する能力。キミはそれとほぼ同時に誕生した欠陥品。ただの失敗作(ゼロ)だ」



 襟を掴んでいる手が緩みそうになって、再び力を込める。



「僕らはずっとその一番目を追っている。神の領域に触れようとして、今となっては組織から排除するべき異端者だからね。七番目も隔離している。普通、ゼロは暴走しかねないから、どの世代でも即破棄されるんだ。一番目がどこかへ逃がしたと聞いていたが、まさかこんなところにね。……まだ解らないのかい? それじゃあ、ハッキリ言ってやろうか」



 呼吸が荒くなって肩が上下する。



「偵氏くんが不幸なのは、キミのせいだよ」



 手を離す。創幻がボクを床に倒し、銃を頭に押し付けた。悲鳴が上がる。

 電話をかけようとした店員に銃口を向けた。



「ここじゃダメだな。やっぱり地下街へ戻って話そうか。聞かせてくれよ、キミの過去を。もしかしたら一番目のナンバーズと接触しているかもしれない。いいか、これは偵氏くんを救うためでもあるんだよ」




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