7. 勇者はキレた
……いまいち調子がでません。
そして未だ1日目が終わらない。
最終改訂9/18
黒い空気を背負い、未だ何か遠くを見つめて呪いの言葉をつぶやく勇者を見つめながら思った。
私を倒した後、色々あったんだな――――と。
私が存命だった当時はもう少し希望とか冒険心とか、こうワクワク感にあふれた人間だったようにも思う。
一番最初に旅に出たころを偶然見かけた事があったから昔の姿を知っているのだが、その当時と現在のギャップにちょっと涙を誘われた。
良くも悪くも『成長する』とはこういうことをいうのだろうか。
そんな事を考えながら、再び冷めたお茶をすすった。
―――――― ※ ――――――
「とりあえず落ち着いたか?」
「…………ああ」
魔王の問いかけに、勇者はうつむいたままだったがしっかりと返事を返した。
「それで、あの……話を続けていいか?」
お伺いをたててみる。あの黒い空気を背負ったままでは、おおよそまともな会話は望めそうにも無かったからだ。
深い深いため息を一つ。
するとそれまで勇者の背後で渦巻いていた黒い空気が、あらかた払拭された事に魔王は少しほっとした。
そして勇者はこちらを振り返り言った。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「えーと。とりあえず、私は現在お前の娘なのか?」
「……そうだ」
直球でこられるとは思ってもいなかったので、思わず言葉に詰まったが何とか返事を返す。
「現在いくつ?」
「3歳だ」
「ここどこ?」
「ワジワール国の端っこにあるカリスタの村だ」
「?聞いたこと無い村だな」
魔王は思わず首をかしげた。
「そりゃそうだろう。あの戦いの後に出来た村だからな」
「そう、か……」
そう言って突然黙り込んだ魔王に、今度は勇者が心配そうに声を掛けた。
「おい、大丈夫か?」
たとえ中身は魔王でも、突然黙り込んだ相手を心配するのは当然の事だ。
「あ、ああ」
大丈夫そうな表情ではなかったが、それ以上の追求を拒むような雰囲気だった。
勇者はあえて追求することなくそっと離れ、のどを潤そうと冷めたお茶をすすった。
「ええ、と。それで、その…………あ!私が倒されてから50年も経ったのだったらお前の子供も私一人ではないのだろ?」
「ぶふぅっっ!!」
勇者は魔王の言葉を聞いた瞬間、口に含んでいたお茶を盛大に噴出す。
そんなに面白い質問だっただろうか?
どこかずれた感想を抱きながらも、とりあえず私のせいなのだろうから噴出したお茶に咽る勇者の背中をさすろうとしたが、いかんせん身長差がありすぎた事に気付き諦めた。
テーブルの上に乗っかったら出来ただろうが、行儀的にそれはいけないことだろう。
「大丈夫か?」
「がはっ、けほっ……ぅ、あ、ああ。げふん。まったく、なんて質問をするんだ」
勇者が落ち着いたのを見て、魔王は改めて聞いた。
「私はそんなに面白い質問をしたか?」
真面目に問われた勇者は、胡乱な目で質問に質問を返す。
「……どうしてそうなるんだ?」
「だって人は面白い事があるとお茶を噴出すのだろ?」
ひどく真面目に答えられた。
一つ聞きたい。どこから仕入れた知識ですか、魔王さん。
俺は決して面白いから噴出したんじゃない。予想外の上に聞かれたくない質問をされて驚いたから噴出したんだ、と言ってやりたかったがその問いには答えず、先の質問に答える事にした。
「その事はどうでもいいからほっといて、とりあえず俺には子供が13人いるよ」
「私を含めて?」
「そうだ。お前を含めて13人。生まれた子供は男ばかり。そして娘はお前が今入っているその子ただ一人だ」
「ほー。私はお前の唯一の娘だったのか」
待望の娘が、今では中身が魔王。
悪い冗談にしか聞こえない。
渋面を浮かべたまま、再び冷めたお茶をすする。
今度はどんな質問が来ても動じないよう覚悟を決めて。
「他の子供達は何をしてるんだ?」
「あー……、一概には言えないが色々だ」
「例えば?」
突っ込んで欲しくないことを察してもらいたかった。
「……下は冒険者から、上は王宮の官職に就いてるよ」
「なかなか幅広いな。さすが、お前の息子たちだ」
よく分からない納得のされ方をされた。
こんな説明で何故に『さすが』と納得されたのか、微妙に納得いかないが……。
「で、お前は今は何をしているんだ?」
「色々だ」
裏で表で色々と手広くやっている。無駄に長い人生は歩んではいない。
「ふーん。じゃあ何でこの村で暮らしてるんだ?」
「それは……だな」
勇者はそう言ってうなった。
「何か問題でもあるのか?」
「うーん、何と言えば分かるのかな。今はお前が入っているせいか普通になっているんだが、以前の娘は少し違ったんだ」
「どういう意味だ?」
首を傾げられた。
簡単に理解出来ないのは当然といえば当然なのだが、勇者としては説明が果てしなく面倒に感じてきていた。
「あー、どう説明したものか…………。今まで娘はただ生きているだけだったんだ」
「生きてるのは別段おかしく無いだろ?」
確かにおかしくは無い……って違う!!
「いや、えーと。お前は……じゃなくて、以前の娘はこれまで感情というものを発露した事は無かったんだよ」
「?」
ますます首を傾げられた。
どう説明したものか頭を悩ませる事もそうだが、それ以上になかなか理解してもらえないことにいい加減イライラしていた。ついでに言えばこれまでの会話も少々ストレスになっていたのもあった。
結局、一言で言えば。
「えーいっ!いい加減素直に理解しろ!!」
キレた。
「ええ!?」
魔王にとっては理不尽なキレられ方だ。
「生まれてからこの3年、娘は感情が表に出る事は一切無かったんだ。俺にとっては待望の娘だっただけに、その事は非常に辛い現実だった。だからどうにかして普通の少女としての生活を送らせようと頑張った。この平穏な村に越してきたのもその一環だ。大きな街で暮らして心無い視線に晒されるより、この静かな村で暮らしていればいつかきっと笑ってくれるようになると思っていた。それなのに、それなのに……」
がっくりと肩を落とし嘆く勇者の姿に、魔王も思わず同情した。
今は私が入っているが、待望の娘がそんな事情になっているのであれば勇者の嘆きも当然の事だろう。
そんな事を考えたが、その後の発言に即座にその考えを改めた。
「娘に『パパ』と呼んでもらう夢が、壮大なロマンがぁぁぁ……!!」
こんな事を言う勇者なんてドン引きだ。
というか、こんなのに倒された私も可哀相だ。
「私に謝れ」
激情のままに勇者を指差して謝罪を求めた。
「意味が分からんぞ、おい!」
「それにそんなもの私に求めるな!というか、そんな夢は海に流して別の誰かに拾ってもらえ!!」
「別の誰かに拾われたら俺の夢が俺の夢で無くなるじゃないか!それに純粋にかわいらしい存在というものが俺の周りにはあまりいなかったんだ。こんなところで夢を見たって良いじゃないか!!」
逆切れされた。
勇者の発言に昔を思い出す。
そしてちょっと考えて、何故勇者がそんな切実な望みを持ったのか納得した。
とりあえず言える事は唯一つ。
彼を取り巻く仲間たちは、一癖も二癖もある面々だった。
ただそれだけである。
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