5. 再会
サブタイトルは、思い付きでシンプルにつけてます。
最終改訂9/18。
勇者、長髪です。
かつて勇者と魔王として相対した二人。
時を経て、再び相対した。
長閑な村の中心で。
まかり間違っても勇者と魔王である。
ましてやこの二人に関して言えば、討ったものと討たれたもの。
本来なら恨み恨まれるものたちのはずなのだ。
そんな過去を持つ二人だったが、対面を果たした二人の間に何かをしようという空気は――――。
一切無かった。
―――――― ※ ――――――
「おお、勇者か。久しぶりだな。あと、年取ったな?」
記憶にある勇者の姿とあまり変わったように見えなかったがゆえに、最後の言葉は疑問系になったがとりあえず久しぶり(?)の再会に当たり障りの無い事を言っておく。
挨拶は基本だとかつて本で読んだからだ。
「あ、ああ」
その挨拶に対し、勇者はどこか困惑した表情。
あまり変わったように見えない勇者の、あえて変わった部分を挙げるならば、髪が伸びたことぐらいだろう。後ろで一括りにされた長い髪が風に靡いていた。
そんな彼を見上げながら、その見上げる角度が尋常ではない事はスルーした。
気付かないフリだ。突っ込んではいけない要素だ。最後のときは私が彼を見下ろしていたなんて忘れなければいけない事柄なんだ。
「私を討ち取った後、その後はどうしたんだ?かわいい彼女たちの誰かとくっついたのか?」
「ま、まあそんな感じだ」
勇者の顔色がますます青ざめた感じになっているが、瑣末な事だ。気にしない。
たびたび勇者の様子は報告で受けていたし覗き見もしていたから彼らの関係は一応知っている、なんてことは内緒にしておくべき事柄だ。
「それで、子供でも生まれたか?」
「いや、まあ生まれた事は生まれたんだが……」
眉を八の字に下げた勇者の顔がなんだかかわいいな、と思ってみたりしながら質問を続けた。
「で、どこにいる?」
そう言って辺りを見回してみる。こんなにも若いんだ。小さい子がいてもおかしくない。それに記憶にある限り、勇者は子供好きだった……と思う。
辺りを見回す私を、勇者はなんとも言えない表情でじっと見つめていた。
首をかしげて見つめ返す。すると何かを決意したように、こちらを真剣な表情で見つめ返し口を開いた。
「………………。今、目の前にいる」
勇者の長い長い沈黙の後に発した言葉に、逆にこちらが黙った。
「……………………は?」
―――――― ※ ――――――
「おお、勇者か。久しぶりだな。あと、年取ったな?」
こう言われた瞬間、驚き以上に嫌な予感を覚えた。
今現在、俺を勇者として知るものはこの世界にはもうほぼいない。知っていたとしてもごく身近な存在、身内か某友人たちだけだ。
それ以上に、娘にそんな話をした覚えも無い。
そして近づいて気付いた事がある。
この気配、というか存在感には覚えがある。
認めたくない事実だ。認め難い現実だ。
だがそれよりも気になることがあった。
何故こんなにも親しげなのだ!?
記憶が正しければたぶんおそらく、その通りの人物のはずだ。
だが想像どおり記憶に残る人物だとすると、この親しげな雰囲気だということに納得がいかない。何故ここまでにこやかに挨拶されるのかも、だ。
あと最後の一言が疑問系になっていた理由も分かるのだが、あまり突っ込んでもらいたくない。あまり変わってないと言いたいのだろうが、その言葉は今の俺は一番聞きたくない言葉だった。
「私を討ち取った後、その後はどうしたんだ?かわいい彼女たちの誰かとくっついたのか?」
何故そんなことを知っているんだ、と叫びだしたい気持ちを抑えつつ「ま、まあそんな感じだ」と当たり障りの無い返事を返した。
正直、頭を抱えたい気分だった。
「それで、子供でも生まれたか?」
訂正。この質問には正直泣きたくなった。何故自分の娘に子供が生まれたか、なんて質問されなくちゃならんのだ。
「いや、まあ生まれた事は生まれたんだが……」
当の娘に視線を向けて思った。
一体どう返事しろと?
「で、どこにいる?」
どこか期待したように問いかける娘の姿。その待ち望んでいたはずの生き生きとした姿だったが、はっきり言って笑うべきか、泣くべきか。
あたりをきょろきょろと何かを探す様子を見せる。
…………よし。正直に言わせてもらおう。
「今、目の前にいる」
この言葉にはさすがに相手も黙った。
はっはっは、一矢を報いたぞ。
……嗚呼、と心の中で深い深いため息を一つ。
いっそ、声高らかに叫びたい。
責任者、出て来い~~~~!!!
と。
誤字脱字を見つけたら報告よろしくお願いします。




