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23.招かれざる襲撃者

一年以上ぶりの更新です。

そして即興クオリティなので、後日改めてになるかと。


改訂7/13






「今日も天気がよさそうだな」

 窓の外を見た勇者は、晴れ渡った空を見てそう言葉をこぼした。

 朝食の準備をするため食材を取ろうと扉を開いた瞬間、あってはならないものが目の前にあった。

「はっはっは、久しいなジョエル。今度という今度こ」


 バタン


 即行で扉を閉めた。

 あれは夢だろう、と扉に鍵をかけ室内へと足を向けかけたとき、扉を激しくたたく音が聞こえてきた。

「ちょっと待て!口上を聞かずに扉を閉めるとは失礼だぞ!!」

 そんなことをいいながら扉を力任せに殴っているようだったが、その程度で壊れるほどこの家は柔ではない。

 強化に強化を重ねているので、そこらの巨大魔獣の襲撃でも跳ね返せるほどの頑丈さは持ち合わせていた。

 話が微妙にずれたが、扉を力任せにたたき続ける相手に怒鳴り返した。

「人の名前を間違えるような輩に責められたくも無いわ!!」

「ん?名前はジョエルではなかったか?」

「違うわ」

「ならば……ジェル、だっけか?」

「誰がゲル状物体だ!」

「むむむ、これも違ったか。えー……ジャン?」

「それも違うわ!」

「ジ、ジ、ジ……」


 という扉越しでのやり取りが、もはや定番となっていた。

 そのやり取りも次の段階に入るとシンプルになり、


「ジョン」

「犬か!」

「ジッポ」

「何だよそれは!」


 というものになり、最後の方では、


「ヘケヘケ」

「かすりもしてねぇ!!」

「アンモナイト」

「化石か!」


 などといった明後日の方向のやり取りへと進化した。



 天気のいいはずの早朝から気の滅入るような長時間のやり取りに、勇者も流石に苛立ちを堪え切れず怒鳴りつけた。

「何で毎度毎度人の名前を間違えなきゃ気がすまないんだ!!」

「そんな事はともかく、今度こそお前を叩きのめしてやるぞジョイス!」

「ジェイスだって言っているだろうが!!いい加減人の名前ぐらい覚えろ!!」

 そう怒鳴り返すと扉をたたく音が止み、しばし唸るような声がした後、勇者にとって苛立たしい返事が返ってきた。

「いまいちその名前が記憶に残らないのだよ。お前に合っていない気がするんだよな」

 それを聞いた勇者は内心、どいつもこいつも、と怒りを募らせた。

 ここにも似合わないと言い切るやつがいた。

 魔王にしても似合わないと言いきり、更には覚えにくいと言われ、今度は定期的な招かれざる客にまでいわれる始末。

「ともかく、何しに来たんだガシュガル」

 そんなことを聞かなくても何しに来たのかは勇者にも分かっていた。

 だが分かっていても問わずにはいられない。


 何故に、毎度朝食時を狙って来るのか、と。


 今では気持ちのいい朝の風景のはずなのに、相手の顔を見た瞬間、一日の終わりを告げられたように感じるまでになっていた。

 あの戦いの後も、ガシュガルは俺に敵愾心をむき出しにしたまま向かってくることがあった。

 そんなやり取りが次第に定期的な襲撃に変わり、今では朝食時を狙ってやってくるようになったのである。

 そして対面するたびに、名前の問答も幾度と無く繰り返されるやり取りだった。

 まあ、こんなやり取りに至るまでに色々あった。

 度々顔を合わせるのが嫌で、気配を感じた瞬間容赦なく魔法をぶっ放したり、剣で殴り飛ばして埋めたり、罠を仕掛けてどこかへと飛ばしたりと色々した覚えはあった。だがそれでも気概が折れるどころか更に明後日方向に執念を燃やしてやってくるようになったのだ。

 時間も真夜中から真昼間の昼食時やタイミングが悪ければトイレへ入っているときなど。

 こんな朝食前の襲撃になった原因は何だっただろうか。


 ん、朝食?

 朝飯、前…………あさめしまえ?

 ………………。


 原因が連想される言葉が分かったような気がするが、何の解決にも繋がっていない。

 本気でそろそろ対処方法を考えたほうがいいのだろうか、と頭を抱えていたとき、扉を開けて魔王がやってきた。

「おはよう、勇者。なんだかにぎやかだが、こんな早朝に来客か?」

「…………」

 のんきに問いかけられ勇者は何かを言ってやろうと口を開きかけ、ある考えが脳裏をよぎった。

 そしてもしかして、という思いのまま言葉を口にした。

「まさかとは思うが、お前のかつての部下にガシュガルもいたのか?」

 その言葉は思いのほか魔王にも有効だったようだ。

「ほぁ……、ぁ…………ぅえ!?」

 驚愕を顔に貼り付け、明らかに動揺して挙動不審にあたりを見回す姿にやっぱり、と勇者は頭を抱えた。

「あいつが定期的に俺を襲ってきた理由はそれか」

 嗚呼、と空を仰ぎ深い呻きと共につぶやいた。

 その間にも扉の外では激しく扉をたたく音と何かを怒鳴りつける声が聞こえてくる。

 その声を聞いた魔王が引きつった表情で聞いてきた。

「あの、勇者。外でに賑やかにしているのは、まさか……」

 珍しく逃げ腰な魔王の姿に内心首を傾げながら「その通りだよ」と端的に答えると、魔王は勇者に涙目で訴えた。

「追い返してくれ!!」

「かつての部下だったんだろ。なら相手を……」

「いや、その通りだが。その通りなんだけど……あぅ……」

 普通であれば何の気負いも無く行きそうなのに、魔王はどこかおびえたような表情を浮かべていた。

「何か問題があるのか?」

 勇者にそう問われ魔王は、かつて魔王として玉座に縛り付けられていた当時を思い出していた。


 逃げ出そうにも逃げられない状況でなぜか熱い視線を向けられ、内心の動揺を隠しつつ必死に応対した日々。

 何かを与えようものならその熱は言動に表れ、更に恐怖心をあおられた苦い思い出である。


「正直に言うと、苦手なのだ」

 ポツリとこぼされた言葉に、勇者も思わず「俺もだ」と返事を返していた。

 なぜか執拗に命を狙われたからなぁ、と遠い目をして旅を続けていた当時を思い出す。


『おのれ、勇者め。今度こそ……』


 そういって向かってこられたのは何度目か。

 一度は復活不可能か?とも思えるような崖下に落っことしたのに、数日後には多少怪我を引きずってはいたが普通に復活していた。

 それを見て仲間たちとあれは変態だという共通認識を抱いたのが懐かしい。

 そして魔王を討った後も、頻度は激減したが今回のように度々襲撃されていた。


 天気のいい早朝だというのに、早くも二人して黄昏てしまった。

「と、ともかくだ。お前の元部下だというのなら、お前が相手すれば万事解決だ」

「な!?」

「という訳で、頼んだぞ」

「勇者、それは無いぞ。本当に、本気で、あいつだけは苦手なのだ。そんな殺生なことを言わないでくれ!」

 魔王はそう言いながら必死に事態を改善するべく頭を働かせた。

 そんなとき、仲良くなった村の子供達に教えてもらったある方法を思い出した。

 だがこの方法は絶対にやりたくないしやらないだろう、と思っていたし、今まで必要なかったので半ば忘れかけていたが、今度ばかりは本気でこの方法を取らなければわが身が危うい。

 魔王は意を決し、口を開いた。

「お願いだ。私はあいつの相手だけはしたくないのだ。あ、あいつをやっつけてくれないか…………パパ」

 魔王は言った瞬間、恥ずかしさのあまりうつむいてしまった。

 顔が熱いので真っ赤になっているのは想像できる上に、自分の台詞の恥ずかしさに内心激しく身もだえし、顔を上げられなかった。

 だから魔王は見ていなかった。


 パパと言った瞬間、勇者の顔から表情が抜け落ちたことを。


 能面のような表情を貼り付けたまま石仏の如く固まっていたことに一切気づかず、魔王は言葉を続けた。

「以前から熱い視線を向けてこられたのだが、非常に居心地の悪い思いをしていたのだ」

「……」

「以前読んだことのある本にあった。熱い視線を向けられる理由の一つに、恋情もあるのだと。それを読んだときは何かの間違いだと思った。気のせいだと、かつては同性だったから間違いだとは思う。思うのだが……」

「…………」

「それに直接会ったら正体が見破られるに違いない。そうなったらあいつ、手段を問わない気がするから……」


 その言葉を聞いた瞬間、どこかで何かがプッツン切れた音がした。


「よし、即刻ヤツを切り刻んでこよう!!」

「へぁ?」

 魔王は勇者の発言に驚き顔を上げると、いそいそと武器を手に取りに部屋へ戻る勇者の姿があった。

「あ、あの……勇者?」

「魔王、心配しなくてもいいぞ。悪は必ず滅びるものだ」

 武器を手にとって現れた勇者の言葉に、魔王は何かを言おうとして口をつぐんだ。

 勇者の手に握られていたのは、現在この家にある中で最大の攻撃力を持つ凶悪なフォルムの剣。

 両手剣のはずなのに、勇者は軽々と片手で持ち具合を確認する。

 そしてかつて見たことも無いような晴れやかな笑みを浮かべ、いそいそと扉のほうへと向かって行った。


「さて、害虫駆除といくか」


 楽しそうな口調とはまったく裏腹の、物騒な気配を隠そうともしない勇者の姿を魔王はただただなんともいえない表情で見送るのだった。



 だから魔王はこの後の出来事はもう、見なかった、聞かなかった、ということにした。


 扉から出て行った瞬間、何かの派手な音と勇者の「くたばれや!!」というドスの利いた声と「本気を出したか」などという声の後に上がった叫び声。

 しばらく派手な音が続き、「ここじゃ狭すぎる!」という勇者の言葉が終わるとほぼ同時にどこかへと転移した気配。





 そしてどこかで、空気が震える気配を感じた。










 すべては無かったこと、あれは幻だ。


 今日という一日は、この一言に尽きた。




 気持ちのいい朝を迎えた時点で、今日はもう終わっていた。





ちなみに、勇者がガシュガルにこうも執拗に狙われていたのは元凶が魔王だったから。魔王が勇者を気にかけていると気付いた魔王ラブなこいつが嫉妬のあまり命を狙いだしたのが原因。




そして初期に書いていた勇者のある場面での内面。


 頬を赤らめて上目使いにこちらを縋るように見つめてくる瞳。いかん、これは実の娘だぞ。ここで手を出したらあの神の思惑に引っかかってしまう。



お粗末さまでした。

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