閑話4. 引きこもりの読書
短いです。
「おい、そこの引き篭もり魔王」
「ひき……ってそれはひどいじゃないか勇者。私は好き好んで引き篭もっていた訳では無いのだぞ」
「ああ悪かったな、覗き見魔王」
「……勇者、私がそんなに嫌いか?」
(グスッ、と涙目になる魔王に、今度は勇者が顔を青ざめさせる)
「いや待て。何で泣くんだ。違う、そうじゃなくてだな……えっと、お前が引き篭もってた間、何をしていたのか聞きたかったんだ」
「寝るか読書するかのほぼ二択だな」
「…………不健康極まり無い選択肢だな」
「ああ、もう一つあったな。お前の姿を眺めることもだ」
「それは永遠に忘れてろっっ!!!」
――閑話休題
「で、だ。どんな本を読んでたんだ?」
「何でそんな事を今更に?」
「いや、お前が以前挙げてくれた例があまりにも非常識な本だったから、どんな本を読んでいたのかが今更ながらに気になったんだよ」
「ああ、お前の知り合いのリヴィツの著本のことか。でも、アレはアレで結構面白かったんだがな。ええと、なんだったか……確か、『正しい男の落とし方』とか『青田買いのための下準備』とか」
――落とすって、最後は絞め落とす話に……青田買いってことは……
「(顔を青ざめつつ)ほ、他には何か無いのか?」
「持ってこられた本は大体読んだし、色々あったな。そういえば植物図鑑とか、育て方の本とか」
――意外な本も読んでいるようだ。
「ええと、印象深かったのは何と言ったかな。確か……ホウセンカの育て方とか」
――おや、普通だ。
「ジラエシーの育て方だな」
「ちょっと待ていっっ!!それは危険度第一級植物だろうが!!!」
「だが本には普通に育て方が書かれてあったぞ。ええっと、ホウセンカの方は確か水やりはこまめに愛情と一緒に注いでください、とか。ジラエシーには注意書きがあって、マスクは決して外さないように、と書かれていたな」
「(危険臭プンプンな感じがする)ちょっと待て。一つ聞くが、ホウセンカってどんな字を書いていたんだ?」
――紙を差し出し、書いてもらった字を見て勇者は思わず頭を抱えた。
『封千華』
――封千華。大輪の美しい花を咲かせる食人植物の一つ(笑)
――ジラエシー。かぐわしい香りを放つが、それは毒の花粉。大量に吸い込んだ場合、安らかに死ねます(笑)(笑)
「(封千華は水と一緒に肉も……いや、やめておこう)……魔王、その本の題名は?」
「ん?ええっと……『新境地の植物育成方法、Let's トライ♪』だったかな。なんだか表紙には可愛らしいイラストが描かれていて、そのギャップがまた面白かったが」
――勇者、撃沈。
「どうしたのだ?」
「他にまともな本はなかったのか!!!」
――勇者ご乱心(笑)
「他、ほか……ほかに……ええと、『面白童話集』とか『暫定数学勉強本』とか『改編歴史のあれやこれ』とか?」
――どれを取ってもまともじゃない。
「ん?これもダメなのか?それじゃあ、『これであなたもパーフェクト!素敵な口説き文句100選』とか『目指せ下克上』、『あんたが大将!』ならどうだ!!」
「最後のは一体なんの本なんだぁぁぁっっ!!!」
結局最後にわかったのは、魔王の読んでいた本はごく一部分を除いて、どれをとってもろくでもない本ばかりを読んでいたことだけは、この日の会話で理解した勇者だった。
そして、もう一つ。
これらの本の著者は全て人が書いていた事実に、世界には物好きが多いのだと深く心に刻み込んだ勇者だった。




