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22. 酒場の男たち、リターンズ

以前、間繋ぎに投稿していたものの改造版です。

なんだか文字数増量しました。

そして内容も微妙に変化……したか?


最終改訂4/11



 今日は村の月2回の定例イベント、狩り物競争。

 その打ち上げで、酒場は再び盛り上がっていた。



「かんぱ~~~い!!」

 男達が威勢良く声を上げながら盃をぶつけ合う。

 仕事の後の酒は一日の活動の基だろう。そして自分達の苦労をねぎらう意味も篭っている。

 そこへ一人の男が入ってきた。

「お、久しぶりだな。お前どこへ行ってたんだ?」

「久しぶり。そこにいるジレンの依頼でな」

 入ってきた男はジレンの姿を確認するや否や、眦を吊り上げて問い詰めた。

「お前、危険は無いって言っただろうが!何だ、これは。暴発したじゃねえかっっ!!」

 そう言って懐から壊れた道具を取り出した。

「ああ、やっぱり壊れたか。強度に問題が……」

「接続部分が衝撃に耐えられず壊れたよ。まったく、おれだったからよかったものの……」

 となおもブツブツ呟く男に、ジレンはすまなかったな、と素直に謝る。

「だが問題点は判った。後は調整して王都に持って行けば特許が取れるぞ」

「お前な……」

 嬉しそうに言うジレンの姿に、男はガックリと肩を落としたが、ふと思い出して顔を上げる。

「そういや、あれ、本気で言っていたのか?」

「何の事だ?」

「特許を取ったらその使用料をこっちにそっくりくれるって」

「ああ、そのことな。もちろんさ」

「本気でいいのか?」

「いいんだよ。だってこの道具の元の持ち主は私じゃないからな」

「へ?」

 あっさり言われた言葉に、思わず呆けた声が出た。

「実はこれ持ってきたの、ジェイスさんなんだよ」

 意外な人物の名前に周りの者達も反応した。

「は?」

「いや、面白そうな物があるんだがって言われてな。色々やって結局ジェイスさんに、使い勝手悪いし必要ないから好きに使えって渡されたんだよ」

 その言葉に、手に持っていたものの危険性を感じたのか、引きつった表情を浮かべた。

「まあ最初に渡されたときは確かに使い勝手どころか使い道すら危ぶむようなものだったんだが。それを今まで改良に改良を加えて、そして今回、お前に実験してもらったのがほぼ完成形なんだよ」

「そんなものだったのか」

「そして完成した暁には、ジェイスさんとの勝負を挑んでもいいと許可貰っているから、あともう少しなんだよな」

 そう言ってジレンは眉間に皺寄せて唸る。

「にしても、そんなものどこから持ってきたんだよ」

 初めて見る形状である。

 おそらく何処かの古代遺跡を漁ってきたのだろうと考えていた。

「確か……ガイドガン=ディーゼの最深部辺りから拾ってきたって」

「え!?冗談とかでなく?一体誰と!!??」

「いや、一人で行ってき……いや、二人ぐらい、仲間いたとかいったか?」

「いやいやいやいや、ちょっと待て。いくらなんでもジェイスさんでもそれは無理と言うか無謀と言うか無茶すぎるだろ」



 ガイドガン=ディーゼ。別名『嘆きの狂迷宮』。

 噂では100層にもなる迷宮だと言われている、古代遺跡の一つである。

 最下層に至れば巨万の富が得られるとも強大な力を得られるとも言われる曰く付きの、絶対攻略不可と有名な場所の一つである。

 迷宮の内部に蔓延る魔物の数の多さと強さがまず最初の難関。

 魔物の多さだけであれば狂迷宮と呼ばれる筈が無いのだが、その呼び名のついた最大の理由が、巡らされた罠のありえない多さと凶悪さであった。

 自動的に復活するという罠の数々。その上、罠の位置は時折移動しているという手の込み具合。さらには下に行くにつれ、即死確実な罠も増えていくのである。

 引き返す場合は罠は発動しない、とある意味親切設計なのだが、引き返すと見せかけて進もうとした瞬間、足元に落とし穴が現れた、というひどい話も残っているほどである。

 そうしたことから、一部の者達からは『マッパー泣かせの鬼迷宮』とも呼ばれていが、ここでは関係の無い話だ。

 幾人もの挑戦者達がいたが、未だ最深部まで行ったという者はいないと有名な場所である。

 さらには、例え数に物言わせて挑もうとも最後は哀れな結末を迎えた、とも語られるほどの有名な呪われた迷宮なのである。

 少数精鋭で向かったという者達ですら、半分に至る付近で諦めたという話でも有名な場所だった。



 そんな悪名で有名な場所に挑み、その上最深部辺りまで行って何かを取って帰ってきたという話に、ある一人は思わず呟いた。

「……ジェイスさん、本当に、何やってる人?」

「いや、それは突っ込まないほうが幸せなんだと思うぞ。もうそれがジェイスさんなんだから」

 そうか、と言って酒瓶を傾けた。

 その会話で、ふとある事に気付いた男が口を開いた。

「そういえば、ジェイスさんは参加していないんですね、このイベント」

「あ?ああ、そのこと……え?まさかお前知らないのか?」

「何をです?」

 首を傾げる男に、周りにいた男たは酒を片手に近づいてきた。

「そういやお前、あの事件の時はまだ居なかったよな。実はな、ジェイスさんにはシードがかかっているんだよ」

「え!?なんですか、それ。非常に羨ましいんですけど」

 実はこの狩り物競争、イベント開催時村にいる男衆一同強制参加イベントなのである。

 だがほとんど面白がって参加するものばかりなので、なんら問題は発生していない。

 村の男衆集めての一大イベントで強制参加が義務付けられているのだが、その中に一人だけ毎度参加していないのがジェイスなのだ。

「いや~、確かイベントの理念を根元から全てを覆されるって理由でシードを与えたんだよな」

「そうそう」

 そう言って頷き合う男たち。

 その話を知らなかった幾人かは、その男達の様子に首を傾げる。

「確か最初は一緒にやったんだったよな」

「そうだったか?」

「ああ、確か一回目は一応一緒にやったよな。ありえない結果があったけど」

「……あ、あれか!」

 何かを思い出した男たちは、引きつった笑いを浮かべた。

「あれってなんです?」

「ん?いや、ただ俺達と一緒に狩りに向かったはずなのに、気付いたらジェイスさん一人が剣一本で対処して即終了、だったんだよ」

「そのときの言葉をよく覚えているよ。あまりにもありえなさ過ぎて、忘れたくても忘れられねえ」


 ――こんな大物、大変だよな。


「笑顔さえ浮かべながらそんな事言いつつ一人で倒したんだぞ。普通無いって!」

「結構な大型を片手で捌いてるんだぞ。度肝抜かれるよりも、もう立ったまま夢でも見ているのかと思ったぐらいだからな」

 冗談だよな、と胡乱な視線を合わせる一部の男たち。

「次にあったのが確か……何だっけ?」

「あれだろ、体長5メートルの何だ?」

「ランドウルズだろ。確か凶暴で有名だったよな。ここら辺にはいないはずの」

「そうそう、そうだった。確かフラッと突然姿を消した、と思ったら次に見たときにはそれを抱えて来たんだよな。そのときに言った台詞が」


 ――久しぶりの事だから、体が鈍ってたよ。


「腕に結構大きな傷を作って帰って来たんだけど、一人で挑んで普通その程度で済むものじゃない、って皆で言い合ったのが懐かしいなぁ」

「それに、この辺でそんなものが獲れるとは聞いた事が無い。で、どこで獲ってきたんですか、って聞いたら」


 ――ん?山向こうの森。


「ジェイスさん、近場に美味しそうなものがいなかったから、それで狩ってくるために移動してきたって言ったんだよな」

「その後、半ば無かった事にしたんだよな。食べたら格別に美味かったって事で、誤魔化した一件だったな。確か」

「次の回の時にどうやって移動してるんですか、って聞いたらあっさり俺たち連れて移動。そのときに言われたのが」


 ――とりあえず旬の食材が獲れる所を選んでみた。


「そこで捕まえたのが確か……」

「ローグエスカだろ。あれもまた普通一人で捕まえるとか、土台無理なものの筈なんだけどな」

 当時の様子を思い出したのか、どこか顔を青ざめさせて頷いていたのが数人いた。

 挙げられた名前が何なのかを知っていたのか、事情を知ら無くとも同じように顔を青ざめさせた者達がいた。

「これじゃあこのイベントの当初のコンセプトが根元から覆される~って話になったんだよな」

「は?何だそりゃ。そんなものあったか」

「あったんだよ。今じゃあって無きが如しだがな」

「確か……『新しく入ってきた住人との速やかな交流を兼ねた壮大な食糧確保事業』、だったか」

「……え?あれってそんな名称だったんですか!?」

「誰が考えたんだか……って、考えたの長老だったか?」

「そうそう。たしか丁度食糧危機に陥りかけた時の話だよ」


 ――丁度いい人手も集まったことだから、ここいらでちょっくら食料を確保に行ってきて貰おうかのぉ


「ってのが最初の言葉だったよな」

「『情け』とか『容赦』という文字が一言も含まれない無情な宣言だったな。あれは」

 昔を思い出したのか、黄昏る男が幾人かいた。

「とにかくだ。ジェイスさんに話を戻そうや。昔は昔。今はその食糧確保も立派なイベントになったんだからいいじゃねえか」

「そ、そうだな。なれない当初、死にそうな目に遭ったりもしたが、それも今ではいい思い出だからな」

 ははは、と笑い合った。

「まあ、そんな和気藹々と魔物狩りをするイベントに、一人で出かけてあっさり巨大生物狩り取ってくるジェイスさんのぶっ飛び具合に、さすがにまずいって話になったんだよな」

「そうそう。それで満場一致でシード権を与えようって決まったんだったな」

「今は狩り物には参加はしていないが、時折獲物を捕らえたら分けてくれるんで、むしろ重点的にそっちをやってくれっていっている男達もいるぐらいだからな」

 その言葉には、一部の男達が顔を青ざめさせ叫んだ。

「そうなった場合、確実に別の案を生み出すぞ、あの長老は!」

「止めてくれ!長老の無茶振り知らないからそんな簡単に言うが、あのじーさんの注文はジェイスさん並に酷いんだぞ!!」

「そいや、あっちで問題が起こったからちょっくら行って来い!っていわれて行った先には当時凶悪なと噂されていた盗賊団が居たんだよな。一応叩き潰したけど、碌な説明無しで向かわされたから最初驚いたのが懐かしいな」

 覚えがある男たちは、遠い目をして頷き合っていた。

「まあともかくだ。じーさん以上にぶっ飛んだジェイスさんがこのイベントに参加するのは今後の為にもまずい、という事でジェイスさんは不参加決定したんだったな」

「ともかくジェイスさんはそう言った理由で不参加となったんだが、逆に腕試しをしたいって別方向で燃える男達が出て来たんだよ」

「そうそう。それで狩り物には参加しない代わりに、別のイベントを立ち上げようって話から出来たのが」

「『大狩り物大会』だろ。周期未定の。まあジェイスさんも忙しい人みたいだから、予定を聞いてやっているんだよな」

「早くて三ヶ月に一回ぐらいの周期だったな。そいや、次いつだ?」

「確かあとひと月も無かったんじゃね?」

「そういやそろそろだったか」

「それにしても、この大会の趣旨もどこかおかしいよな」

「ん?これにもあったのか?」

「至極単純明快なのが、な」

 どこか苦笑いを浮かべる男に皆が視線を向けると、いや~、と言いよどみながらも口にした言葉に誰もが納得して頷いた。


「『ともかくジェイスさんに勝利すべし!』っての」



「何はともあれこれも最終的に、この村のみでなく周りの知り合いも巻き込んでの一大イベントに早変わり」

「ジェイスさん一人VS勇士一同って図式が出来たんだよな」

 そう言って爆笑。

「とにかく、腕に覚えのある奴は一度は参加しているんだよ」

「移動するにはジェイスさんに頼りきりだから参加人数には上限が定められているけど、それでも毎回十数人参加しているからな」

「そもそも人数制限された理由も、こんな大人数はさすがに移動はできないぞ、って言われたのが始まりだものな。それでも十数人軽くまとめて移動するし」

「な!?そんな人数をまとめて移動できるなんて、そんな人今まで見たことねぇぞ!?」

「そうだよな。でも、もうその前に色々驚き疲れて、それが普通なんだと思うようになってたから、別段不思議にも思わなかったんだよな」

「これぞジェイスさんマジック」

「いやいや、もうそれは無視すべき論点なんだよ。ジェイスさんの常識破りはもういつものことなんだから。あの人の常識は、俺たちにすら非常識と呼べるようなものが常識だから」

「とにかくだ。これまでに幾度も勝負を挑んだが、どれもこれも俺たちは敗退した」

「あの人の連勝記録を止めるためにどれだけの男達が散ったことか」

 そう言って悔しそうにこぶしを握る男たち。

 一部の者達は思わずといった風に涙ぐむ。

「だが次は違うぞ!」

「なにっ!?」

 勢いよく立ち上がった男に誰もが視線を向ける。

「今度こそリベンジを果たすべく、今回は強力な助っ人が参加を表明してくれたんだ」

「をを!?一体誰が?」

「冒険者の有名所」

 その一言に、何かを察した男達が口々にまさか、とか本気か、といった言葉を口にしていた。

 そして彼が頻繁にその該当者と思しき人物と会話をしていたことを知っている男が、恐る恐る口を開く。

「……もしかして、ジェイスさんの弟子とかいう噂の?」

「そうそう」

「え?いいのか、それ」

 あまりにも有名で、あちこちで指名されているほど、というぐらいなのだ。

 だがこの言葉に、胸を張って言い切ったのだ。

「いいも何も、この話を聞いた当人はえらく乗り気でな。むしろぜひ参加させてくれ、って言ってきてくれたんだよ」

「それは頼もしい!!」

 やおら男たちの指揮が上がった。

 そして酒の入った器を手にし、皆して立ち上がる。



「今度こそ、勝つぞおおぉぉ~~!!!」


「「「「「オオオォォ~~~~~~!!!」」」」」


 男の意気込みに皆力強く唱和すると、酒の器を打ち合った。






 後に開催されたそのイベントの結果だが。


 男達は全長実に6メートル近くのアルガンダと呼ばれる生き物を二匹狩った。

 今度こそ勝てるぞ!

 そう男達が期待して待っていると、時間制限間際に帰って来たジェイスの抱えた物を見て、皆が目をむいた。

 対するジェイスは、体長4メートル弱のジャギシュと呼ばれる蛇のような魚を3尾狩ってきた。おまけと言って指差されたのが、全長15メートルのロンドギルと呼ばれる魚。そして、


 ――今日は大当たりだったよ


 という満面の笑み付きで。

 獲物の総体長からいっても、重量からいっても、今回の結果も予定通りジェイスの圧勝で幕を閉じた。

 ちなみに今回魚にした理由は、これらは今の時期、脂がのっていて美味いんだ、とのこと。

 本来ならばジャギシュだけで終わらそうと考えていたらしいのだが、最後の最後で引っかかったロンドギルと格闘していたために今回時間制限ギリギリになったのだそうだ。

 ジェイスにとっては本命がジャギシュだったために、ロンドギルはおまけ扱いされていたのだが、もうそんな事をツッコミ所ではなかった。

 ジェイスはそれらの魚、全て一本釣りで釣ったと言ったからだ。

 そこにいて言葉を聞いた男たちは、


 ありえねぇぇぇ~~~っ!!!


 と内心声高に叫んだのはジェイスの知らない話。

 そしてその夜。

 男達は狩った獲物を肴に舌鼓を打ちつつ自棄酒を飲み、次回への抱負を熱く語ったのも、ジェイスの知らない話。




 あと、蛇足となるが。

 この大狩り物大会に関しては内外問わず参加自由なのだが、村以外からの初めて参加する男たちに、村の男たちが毎度口を揃えてこう語っていた。


 ここには規格外や常識外れとして村や街や都市を追われた俺達をすんなり受け入れたと見せかけて、次にはそんな俺達の規格をも飛び越えにこやかに常識を地で壊して行く恐ろしい人がいる。


 ――と。




 これが当人知らないままに、いつの間にか周囲では密かに有名になっているのもまた、ジェイスのまったく知らない話である。




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