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21.残 アマルさん騒ど……あれ?

突貫作業ですので穴だらけ(笑)


最終改訂4/11




「はっ、いけない。研究の事になるとつい我を忘れちゃうわ」


 ようやく一区切り付いた。

 長かった。

 約1時間半、延々と語り続けていた。それを二人してじっと座り込んで終わるのを耐え忍んだ。

 魔王は、話の途中で小話程度に入ってくる食べ物関連には食いつくが、それ以外に関しては興味なさそうに空を眺めたり村の平穏な風景を恨めしそうに眺めたりしていた。

 気持ちは分かるが、逃げるのだけは止めてくれ。

 面倒なら無視して逃げたり素通りすればいい、と思うだろう。

 だがこれに関してはそう簡単には行かないのだ。これを話の途中で捨てて行った場合、後々に響くのである。

 実際、以前一度話を濁して素通りしていった事がある。その時は、急いでいたのもあって話の途中で断ったのだ。

 その後が大変だった。というか、はっきり言えば災難だった。災厄が局地的にやってきた、とでも言えばいいのだろうか。

 捕まった後この倍の時間、話し続けられたのである。それも為になる話も為にならない話、知らない方がよかった話、知ってよかったと思える話、恐怖を覚えそうな話など色々である。

 彼女が研究の事になると我を忘れるのは、先の様子を見ていれば分かるだろう。

 とにかく言えるのは、無視された場合、後日改めて捕まり前回語った話の続きを語られるのである。

 初めてこの状態の彼女に捕まったときに孤島の話も入っていたのだが、まず驚いたより恐怖を覚えた懐かしい思い出だ。

 一度は話を無視して通り過ぎようとした、可哀相な犠牲者を見た事がある。

 そいつは強行突破を図り失敗して簀巻きにされ、さらにその状態で追い討ちをかけるように腰掛けられながら延々と語られていた。


 村人一同一度は遭遇する、そして二度と話題を振るまいと固く心に誓うイベントである。



   ―――――― ※ ――――――



「ところで、何故にそんなにも祝福について研究をしているんですか?」

 魔王としても一番気になったのはその事であった。

 誰しも何かに熱中するためには、何らかの原因があるものだ。

 これほどまでに熱意持って挑んでいるのである。よほどの出来事があったに違いない。

 そう思って聞くと、アマルは何かを懐かしむかのようにしゃべり始めた。

「よくぞ聞いてくれました。あれは忘れもしない私が幼少の頃。当時私はナリド公国に住んでいたのだけれど、そこで私は見たの!」

 そう言って語り始めた。




 ―――。

 そうね、あれは発端が何だったかしら。

 それほどまでにひどい話じゃなかっ……でもないか。

 そもそもあれは、どっかの貴族のおばかが稀少な魔獣の毛皮が欲しいとかで乱獲したのが原因だったわね。

 それを知ったその魔獣の一族が、逆襲の為に総出で領地を襲おうとしていたのよ。

 魔獣と騎士たちと、一触即発の状況の最中よ。

 そこへ通りすがりの旅人がやってきたの。

 私は直接見たわけじゃなく、人づてで聞いただけなんだけど、それは不思議な人だったんだって。

 ボロのマントを纏いフードを目深に被った怪しさ大爆発な人だった、って説明されたんだけど。ま、それはどうでもいいのよ。

 それよりもその人が持っていたものが一番の、そして最大の鍵だったわ。

 その怪しい人物は、確かとある物を本来の持ち主に返そうと思ってやってきた、とかって言っていたらしいの。

 で、その差し出されたものが、何と!


 『木杓子』だったの。


 その場で聞いていた人たちみんな、ナニソレ?って感じだったわね。

 返すにしてもそんなものを何のために借りてたのかって話だったんだけど、なんと!


 その木杓子、実は『神器』だったのよ!!


 あとで聞いた時、なぜそんなものが、皆して首をかしげた思いでが懐かしいわ。

 とにかく、その神器は何処かの洞窟にあったとかで本来の持ち主に返そうと持ってきてくれたらしいのだけど、その本来の主はとっくの昔にお亡くなり。

 ならばその子孫である人にと思ってやってきたらしいのだけど、実はその本来の持ち主はおバカ貴族の先々代様だったのよ。

 先々代様は街の繁栄に大いに貢献された実に立派な方だったんだけど、その子孫があれじゃあ浮かばれない……って話がずれた。

 ともかく状況は多数の魔獣がすぐ側まで迫った切羽詰った状態。

 魔獣の方も、突然現れたその怪しい人を取り囲んで唸って……あれ?確か最初は唸っていたけれど、途中から魔獣の方がどこか逃げ腰になっていた気がする……ま、どうでもいいか。

 そこら辺の事情はもうどうでもいいんだけど、それよりも一番重要なのがその後に起こった出来事だったわ。

 貴族様とその怪しい人物が何かを話していた、と思ったら貴族様が突然怒り始めて。

 後で聞いた話によると、会話の途中で馬鹿にされたのを感じ取ったのかその旅人を口汚く罵ったらしいのよ。果ては自分は貴族様なのだから崇め奉れ~とか何とか言い放ったらしいのよね。

 そのすぐ後よ。

 そりゃも~すごかったのなんのって。

 その人影が木杓子を一振りしただけで槍は降るわ雷落ちるわ。なんだか無関係そうな人達も一部巻き込まれてたけど。ともかく私達無害な一般市民は遠方に逃げて被害はなかったから何ら問題はなかったのよ。

 振り下ろすたびに色々な物が降ってきて、最後は何故か金タライが落ちて終わりだったわね。

 ともかく賑やかな場面だったんだけど、何より周りが一番喜んでいたのが一番記憶に残っているわ。

 まあ件の貴族が街の人たちに不人気だったのが最大の理由だったからなんだけど、それは自業自得と言うか因果応報だからいいのよ。

 最後はなんだかその怪しい人物が何かを言ったと思ったら、その手に持っていた木杓子を燃やして終了――。





 ―――。

「ホント小さな物な上にアレだったけど、それでも神器というだけで予想もつかないような力を秘めているのよ。もうビックリ感動だったわ。まあともかく、これがきっかけだったわね。私が『神の祝福』について興味がわいたのは」

 楽しそうに語るアマルの姿を、勇者も魔王もただ黙して聞いていた。

 そして語るだけ語り、満足そうにしてアマルが去った後。

 魔王と勇者の二人の間に流れる空気は、微妙さを漂わせていた。

「勇者」

「……なんだ」

 魔王の呼びかけに、だが決して視線を合わせようとしない勇者。

「私、その神器の持ち主を知っている気がするんだが……」

「っき、気のせいだろ」

 言葉に一瞬詰まったのを魔王は聞き逃さなかった。

「ティラミスでいいぞ」

 どこか期待するかのような科白に、勇者が視線をチラリと向けると満面の笑みがそこにはあった。

 以前お菓子を作ってやったときに、どうも気に入ったらしい。頻繁に作れとうるさく言ってくる面倒なお菓子だ。

 だが今回ばかりは口止め料として作るべきなのだろう。



 確かに過去、ナリド公国で色々とやらかしたのは勇者だった。

 半ば持っていることすら忘れかけていた代物であったのだが、元の持ち主がいた、という文献を偶然見つけたのが不幸の始まりだった。

 何故あんな洞窟の奥にあったのかも謎だったが、持ち主がいるのならば返さなければならないだろう。

 そう思ってナリド公国に向かったのだが、行った当日、そこは騒動の真っ最中だった。

 今にも襲い掛かろうとする魔獣と睨み合う騎士たちの姿。

 街の住人達は一応は避難していたが、その状況を恐ろしそうに遠巻きに見つめている。

 事情をそこいらの人を捕まえて聞けば、どう考えても貴族側が悪い。

 そう思って、だがしかし一応は神器を与えられるような人物の血脈だし、と思いつつ貴族側へと足をむけて大いに後悔した。

 相手があまりにも馬鹿貴族という見本を、そのままにしたような馬鹿だったからだ。

 会話の内容は大いに割愛させてもらうが、とりあえず魔獣にはこんなもの食ったら腹下すから食うな睨みつけたらひとまず引いてくれた。いや~、人と違って素直でよかったよ。

 で、言葉の通じるはずなのに通じない人間は……。

 まあ、とにかく少々怒りに任せてやりすぎた気はしたが、それでもその街に住む人間たちからは拍手喝采が上がるほど好評だったのが印象深かった思い出だ。

 そして魔獣の方も、じっくりと説得をしたので納得して帰ってもらった。ついでに身の安全を図れる場所も教えてやったし何ら問題は無かったはず……だったのだが。

 だがまさか自の過去の行いが現在、巡り巡ってこうして自分に関わって災いしているこれは、因果応報とでも言うべきなのだろうか。

 諦めのため息を一つつき、

「食べた後はちゃんと歯を磨けよ」

 その言葉に魔王は満面の笑みで、

「もちろん」

 それでこの話は終りに……なるはずだった。



「でも何でそんな事を知ってるんだ?」

 よくよく考えてみれば、この一件は魔王が亡くなった後の出来事である。

 そもそも、この神器を手に入れたのはほんの偶然だった。

 とある洞窟の最奥にあった宝箱の中に入っていた代物である。

 魔王城へ至る旅の途中で使う機会が一度も訪れなかったのは幸運と言うべきか。使い道が無かったとも言えるのだが。

 旅の途中はもうやけくそ半分で本来の使い方、杓子として大いに活用していたのだが、意外な事にあの杓子を使用して料理したりすると、味が格段に上がることを発見したのは旅の最中でのよかったと思える出来事だった。

 だが結局最後まで、あの訳の分からない落下物発生機能がつけられているのかは謎のままだったが。

「それはもともと魔王城うちの宝物庫にあったんだ」

「そうか……ん?」

 言いきられた言葉に納得しかけていたが、勇者はある事に気付いた。

「なんだ?」

「ちょっと待て。俺がそれを手に入れたのは某洞窟の最奥でだぞ。何で魔王城にあったんだ?」

 そう言うと同時に勇者の脳裏を過ぎったのは、洞窟の最奥での出来事――怒号と悲鳴と轟音と、そして最後には呪詛の言葉と地響きの音だった。

「あ!!……え、えーと……」

 この一言に、魔王も失言した事に気付いたらしい。表情が一気に引きつっていた。

「まさかあの嫌みったらしい罠の数々、お前の仕業か」

 地を這うような勇者の声に、今度は余計な事を言った事に気付いた魔王が視線を逸らし黙る番だった。


「…………」


「………………」





 沈黙で以て会話を終了したその翌日。


「これは非常に珍しい食材でな、モケモケ茸と言って栄養満点のキノコだぞ」

 そう言って笑顔で目の前に差し出された昼食は、キノコの丸焼きであった。

 モケモケ茸とは、リゼア山の山深くに生育すると言われる簡単に見つかる事の無い貴重な食材である。これ一つを王都で売り出せば、一財産築けるほどの高級で貴重な食材なのだ。

 一つ食べれば寿命が延びる、などという眉唾情報もあるのだが、どうでもいいだろう。

 皿の上に乗っかった原型そのままの物体を見た魔王は、かつて無いほど弱り果てていた。

「……あの、勇者」

「これを食べたら約束どおり、食後のデザートは約束どおりティラミスだ」

「あの、な」

「さあ食え」

 勇者は、聞く耳を持つ気はまったく無いようだった。

 目の前の食べ物を、魔王はどこか涙目で見つめていた。


 というのも、魔王はキノコは苦手だった。


 この身体になってから、味覚の変化もあったのだろう。

 何故かキノコだけはダメだった。勇者もその事は了解したもので、時折解らないほど小さく刻んで食材の中に混ぜて調理していたのだが、今回に限ってはキノコが原型丸焼きそのままの状態で出てきたのである。

 側から見れば、子供の為に高級食材を苦労して手に入れてきたように見えるが、実際は手の込んだ嫌がらせである。

 そして勇者の教育上、お残しは絶対不可。それをした場合、数時間にも及ぶ説教がもれなく付いてくるのである。

 つまりこの最強の敵をしょくさない限り、ご褒美デザートにはありつけないという事だ。

「いただきます」

 そう言って勇者は何事も無かったかのように食事を始める。

 それを涙目で恨めしそうに見つめる魔王。




「勇者の、いじめっ子ぉぉぉ……」



 空しい魔王の叫びが木霊した。








 おまけ。

 勇者は、半泣きになりながら食事の進まない魔王を見かねて、この後キノコは下げてちゃんとした料理を食べさせたそうだ。



 本日の為になる教訓。

 包丁を握るものを怒らせてはいけない。



 食事に困窮したくなければ、決してしないほうが賢明な行動である。





う~ん。元々半分くらいの長さが何故に倍増?


いじりはしたが……どうしよう(・・;)

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