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20. 勇者の剣の行方

最終改訂4/11



 ある日の食事中。

「そう言えば勇者。お前の剣はどうしたんだ?」

「うごふっっ」

 あまりにも唐突な魔王の質問に、勇者は思わず飲んでいたスープにむせた。

「がふっ、ごふっ……具が鼻に入った……」

 盛大にむせ返る勇者の姿に、スープがまずかったのか?とずれた感想を抱く魔王。

「大丈夫か?」

 心配そうにこちらを窺う魔王を、勇者はむせながら横目で見つつ思った。


 何故に毎度狙ったかのように、こっちが何かを口にした時に限ってとんでもない質問をして来るんだ、と。


「げふっ…………、ふう。まったく、毎度なんでそう狙ったかのように的確なタイミングできわどい質問をして来るんだ」

「何か問題でもあるのか?」

「問題だらけなんだよ。それに関しては」

「はて?意味不明な勝負から出来た剣を最初はただ強化して使っていたはずなのに、最終的には一振りで地面に亀裂を走らせ一薙ぎすれば周りの敵を吹き飛ばし、といった具合に色々補正の入った世界最強武器に進化するようなものに、これ以上何の問題があるのだ?」

「……確かにそれらは俺が色々といじった結果であって、それ以上は何があったとしても言って欲しくないんだが、えーと……つまり、剣だよな。俺がお前を倒した時に使っていた」

「そうそう。あれだけ物騒な品だから、うかつにお前以外が使うことも出来ないだろうけど、あれだけの武器をどうしたのかと思ってな。見たところ、この家には置いてないみたいだが」

 そういって魔王は辺りを見回す。

「あー、あれなぁ…………」

 と言って勇者はあさっての方角を向いた。


 正直、言いたくない。


「勇者?」

「…………」

「私は質問をしているのだぞ」

「………………」

「おいこら。何とか答えたらどうなのだ」

 一縷の望みを掛けて、なるべく真面目な顔して一言。

「答えたくない、じゃいかんか?」

「真面目に答えろ」

 半眼で反論された。

 仕方ない、とため息を一つ。

「あの剣は、な。今では俺でもおいそれと簡単に使えないほどの物になったから、とある場所に封印しているんだよ」

「は?」


 あれ以上にどうやってなるというのだろうか。


「ど、どういう事なのだ?」

「お前を倒した後、あの剣に変化が現れたんだ。見た事の無い石が引っ付いててな。それでもたいした事無いだろう、と思ってある日使ったら…………」

 そこまで言って、勇者は言葉を切った。

 どこか引きつった表情で。

「使ったら?」

 先を促すように聞くと、勇者はあっさり一言。

「死に掛けた」

「はい!?」

 予想をはるかに上回る返答が返ってきた。

「いやー、軽い気持ちで振ったらあんな事になるなんて思わないし、予想もできねぇよ。ついでに当時、既にあの野郎に呪われてた後だったから、これで死んだらヤツのもう一つの呪いの方が発動しちまう。もう体力云々以前に、決死の意思の力だけでほぼ持ち直したよなぁ、って仲間達にしみじみ言われた思い出が懐かしいなぁ」

 はっはっは、と勇者は笑って話しているが、その表情はどこか投げやりだった。

 それ以上に、どう考えても笑って済ませられるものではないだろう。

「いや、ちょっと待ってくれ。どうしてそんな事になるんだ!?」

 魔王も軽い気持ちで聞いただけなのに、とんでもない返事が返ってきたことに戸惑いが隠せなかった。

「俺にも理由はさっぱりなんだが、おそらくお前の血を吸った事が原因では、ってのが仲間談だったな。今にして思えば、確かにそうなのかもな」

「?」

 魔王は本気で解らないらしく、首を傾げた。

 そんな魔王の姿に、勇者も思わず呆れた視線を向けた。

「あのな。俺もお前も同じ神の祝福を受けているんだぞ。そんな同じ力持つもの同士、何らかの力が働かないとは言いきれないだろ」

 その言葉に一瞬の空白の後、魔王の方もそう言えば、と手を一打ち。

「ほんっと、お前その事を忘れていたのかよ」

「いや、あの、えと。基本忘れていても問題無いだろ」

 呆れを含んだ勇者の言葉に、魔王が焦ったように言い返す。返された返事に勇者もそうだな、と思いそれ以上何かをいう事はしなかった。勇者としては、どちらかというと忘れたい事実だ。

「そ、それで、あの……」

「ああ。剣がその後どうなったか、という事だろ」

 一つ頷くと、勇者も諦めたように再びため息を一つ吐いて言葉を続けた。

「出来れば口外無用にしてもらいたいんだが、あの剣は先にも言った通りあの戦いの後、しゃれにならん威力を持ったんだ。そんな危険物をその辺に放置するわけにもいかんだろ。だからそういうことに詳しそうな人に相談したら、方法は無くは無い、って教えてもらったんだ」

「詳しそうな人?」

「もしかしたらお前も知っているかもしれないな。タラニスっていう西の森の最奥に住む魔女だよ」

 その名前を聞いた瞬間、魔王が動きを止めた。

「どうした?」

「…………あの、勇者。一つ聞きたいのだが、本当にその人、自分を魔女って自己紹介したのか?」

「いや、本当の所は一切知らん。当人も『タラニス・メリーロードだ。魔女と呼ばれてるが好きに呼ぶといいよ。あ、ちなみに年は秘密だ♪』としか言わなかったからな」

 その一言に、魔王も思わず頭を抱えたくなった。

「どうしたんだ、一体?」

 名前だけが一致している別人かも知れないと思い、魔王も一縷の望みをかけてとりあえず聞いてみる。

「その人の特徴は?」

 おかしな事を聞くな、と思いつつも正直に答えた。

「まず、常に黒ずくめの衣装だったな。華美な装飾は無いのだが凝った作りで、彼女の雰囲気に合った衣装だったよ。それ以上に目を引いたのが、凝ったというか全てにおいて独創的な形の帽子だったな。頭の倍ぐらいありそうな帽子や、よく分からんデザインの帽子とか。とにかく毎日何らかの違う花が飾られてはいたんだが、重そうって感想を抱く前に、周囲には何も無いのにあの花ってどっから用意しているのか不思議だったのはよく覚えているよ。季節感完全無視の地域はどこでも何でも来い!と言わんばかりの花ばかりだったからな」

 それを聞いて思わず頭を抱える魔王に、今度は勇者が首を傾げた。

「どうした?」

「あの、な。一つ重要な事を訂正しておきたいんだが、そのタラニスって人、というか人では無いんだが……実は、な。その方は……あー……」

 しばらくあーとかうーとかうなっていた魔王だが、覚悟を決めたのか顔を上げ一言。

「実はその方、先々代魔王の母上なのだよ」

 さすがの勇者もその事実に固まった。

「いや、待て。ちょっと待て。そんな事一言も言われなかったし、訂正されなかったしニコニコ笑って何一つ…………言わなかったな。そういや」

 思い出してみれば、確かになに一つ言わなかった。

 彼女は話を詳しく聞いた時もなに一つ語ろうとはせず訂正もせずただ、まあ面白いわね、そうね、楽しそうね、あらそうなの、などと相槌を打つだけだった。

 人ではない事は予想されていたが、予想の斜め上の結果が今更ながら明かされた。



   ―――――― ※ ――――――



 思いもかけなかった事実が判明したが、それはまず横に置いておいて。

 勇者も自分の作った剣がどれ程強化されているのか、全てを把握するのは不可能だった。

 使用するだけで命を削られていくようなものである。そんなものの全力を試そうとすれば、確実に死ねる。死んだら問答無用で死ねなくなる。

 あるバカが異界の怪物を呼び出した事があったのだが、いい機会だとばかりにそのときに全力に近い力を試そうとした。

 相手がなかなかしぶとかったのも一因だ。中途半端では対応しきれなかったのだ。

 で、その結果はと言えば……。

 はっきり言って呆れるほどの威力だった。

 一撃で山を変形させ、その怪物も呼び出した愚か者も問答無用で叩き潰せたのは良かったのだが、ついでとばかりに自分も死に掛けた。

 このときに決意したのだ。

 こんな危険物は封印しよう、と。



「それで結局どうしたんだ?」

 そう問われた勇者は至極あっさり一言。

「地中奥深くに埋めた」



 簡単に言えば、普通の人間でもそれ以外でもそう簡単には手が出せないほど深い場所に埋めたのである。

 そのときに、件の女性に相談したのだ。

 そのまま埋めても大丈夫か、と。

 さすがにそのまま埋めた場合、何かと弊害が予想されたので一つの方法を示された。


 俺の力の一部を、剣の力を削ぐようにして封印する事。

 そうすれば、何とか地中深くに埋めても問題ないだろう。


 そう言われた瞬間、何ともいえない思いを抱いたのは仕方ない事に違いない。

 ともかく、そうすればほぼ問題は解決したと言えた。

 問題があるとすれば、剣が普通に戻るにはこの方法を使った場合約300年ぐらいかかるだろう、と言われた事ぐらいだろうか。

 だからおいそれと簡単には取り出せ無いほどの地中深くに封印した。

 その後、そこに住んでいるやつらの強力なお守り代わりとして役に立っているのだから、いろんな意味で結果オーライだ。

 ちなみに。

 俺の本名はその封印の鍵として使用しているから、他人が解こうとした場合、俺と同等もしくはそれ以上の力持つ者が名を言わないと解けないようになっている。

 瞳の色は封印するに伴って違う色になったのは、俺にとってはいい結果となった。

 ともかく、俺以上の力持つ存在なんてそうそういない。というかほぼいない。目の前の詐欺のような元魔王以外は。

 だから魔王には絶対に呼ばれるわけにはいかなかったのだ。俺の名前だけは。



   ―――――― ※ ――――――



「と言う訳だ」

 と説明を終えた後、魔王はなんとも言えない表情を浮かべた。

 話を聞いてわかったのは、件の剣はどうやらかなりの危険物に進化しているということ。

 さらに勇者でさえ全力で振るったら死に掛けた、という危険極まり無いものである。そこらの雑魚であれば、使った瞬間消滅するだろう。

 それ以前に、手にする事すら出来ない可能性だってある。

 おまけに封印に使われた勇者以上の力でないと封印が解けない、という事は、実質封印解除は不可。

 ましてや現在においても、8割近くの力を使っての封印をしているのに、一般人にまぎれることも出来ない実力者をどう抜くというのか。

 つまり、魔王が至った結論は。


「……いや、もう、何も言うまい」


 そしてその後、その話に関しては永遠に話題禁止になった。



いじり続けると、どうやら予想だにしない方向に発展しそうになることを発見。

……危険なのであまりいじらないことに。

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