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19.裏 家族会議

最終改訂4/11



 和やかに三男と会話を交わしている長兄を見かけて、思わず声をかけた。

「あれ、兄さん珍しいね。って仕事大丈夫なの?」

 某王国の重要な職に就いている筈の長兄が、珍しく家族会議に参加している事に驚いて弟達が思わず聞くと、長兄はにこやかに返事を返した。

「大丈夫だよ。いざというときでもきちんと機能出来るよう、部下はビシバシ鍛えているからね」

「そ、それなら大丈夫だね」

 にっこり笑って言われた言葉に、一部の弟達は顔を青ざめさせた。

 兄のその言葉は冗談ではなく、本気でその通りだと知っていたからだ。下手をすれば恐ろしい拷問以上の地獄が待っている。

「それに1日程度空けたぐらいで仕事が滞るようなら、もうワンランク上の教育するからどちらにしろ別段問題ないんだけどね」

 どこか期待するかのような言葉を聞いて、弟一同は兄の部下達の今後の展開を思い合掌した。



 今回の参加者が揃った事を確認した兄弟の一人が立ち上がる。それが開始の合図だった。

 出来れば全員参加といういつにない珍しい指定での家族会議だったが、次男は『自称・旅する研究者』の言葉通り放浪中だったため今回は捕まらなかった。

 そして最後の二人の弟達は、残念なことに学校で何かのイベントがあるらしく不参加の意を返してきていた。

 急な呼びかけだったのもあるが、たいていは参加していた二人が不参加というのは何かをやらかしたに違いない。おそらく自業自得の末の結果、反省文+何らかの作業に従事させられているだけだろう。そうでなければ参加しないという理由をわざわざつけることは無いからだ。

 だが近々学校行事があるのも事実である。おおよそ意中の相手にいいとこ見せようとか何とか考えて自爆した、というのが本当のところだろうと当たりをつける。

「これより第1283回目の家族会議を始める」

 この言葉に「またかよ」とか「始めろ始めろ」と適当な返事が返ってきたが、発言した人間はそんな言葉を気にした風も無く続けた。

「え~。常であれば、あの父親を倒す手段の模索を企てているところだが、今回は事情が少々変わっている」

「どういうことだ?」

「今回呼び出しを行ったのは俺ではない。今回はこいつだ」

 そう言って指差されたのは、つい最近勇者の下を訪れていた息子の一人だった。

「おいおい、お前が俺たちを呼び出すなんて珍しい事もあったんだな」

 そんな揶揄も軽く聞き流し、彼は皆の前に立った。

「さて、ここにこうして兄弟一同が勢ぞろいする事は久しぶりと言えるだろう」

 そう言って見回すと、彼をいれて総勢9人が各々の感じでくつろいでいた。

「まあ足りないのは仕事が忙しいとかで来られなかったのだが、予想以上に集まってもらったようだな」

「そうだな。これだけの人数が揃ったのはいつ振りだ?」

「確か5番目が問題を抱えてきて以来か」

「とにかく、だ。今回こうして集まってもらったのには訳がある」

 そう言いおいて本題に入った。

「我らが『沈黙の姫』についてだ」

 その一言で皆がざわめいた。

「何かあったのか?」

「あの親父が何かへまでもしたのか?」

「あの溺愛ぶりで何かへまするとも思えんのだが」

「そりゃそうだ」

 と、各々言いたい放題である。

「ひとまず静かに聞いてもらいたい」

 その言葉に皆がとりあえず口をつぐんだ。そして彼に視線が集中する。

 その視線を受けて、躊躇いつつも口を開いた。

「あー。今回、喜ばしい報告と非常に報告しづらいものがセットになっている」

 その内容に皆が訝しげな表情を浮かべた。

「先に喜ばしい報告だ。我らが『沈黙の姫』が口を開いた」

 その言葉に、彼らは驚きつつも喜びの声を上げた。

「おー、そりゃめでてぇじゃねぇか」

「それは喜ばしい報告だね」

「よし。じゃあ何かお祝いでも持って行こうか」

 彼はその言葉に待ったをかけた。

「ちょっと待ってくれ。もう一つ、さらに重要な報告があるんだ。こっちが一番大切な事なんだが……」

 その何時に無く言葉を躊躇う姿に、彼らもどうやら尋常では無い事があると気付いた。

「一体何が問題なんだい?」

「……回りくどくいっても理解が出来ないだろうから、はっきりと言わせて貰おう。我らが『沈黙の姫』アリーシアは魔王になった」


 ………………。



「一体何の冗談だ?」

「いやいや、それはあまりにも笑えない冗談だぞ」

「お前な。寝言は寝て言え」

 等と散々な言われ方をしていたが、彼はその表情を動かさず真剣な表情のまま兄弟を見つめていた。

 その様子に兄弟もその言葉が冗談なのでは無いと悟り口をつぐんだ。

「マジかよ」

「冗談であればどれほど救われたか。正確に言えば、魔王と言っても今代の魔王は新しい王が立っているから違うんだ。先代魔王が、彼女になった」


 ……………………。


 先ほどより長い沈黙が場を支配した。

「先代……って」

「まさか、親父が討った先代魔王って事か!?」

「それこそ洒落じゃねぇのか!?」

「バカ言ってるんじゃねぇよ」

「言っていい事と悪い事があるだろうが」

 口々に色々と言い出した兄弟の中で、一人冷静に口を開いたのがいた。

「それで、父さんはどうしたんだい。まさか対立したとかいう話にでもなったのか?」

 そう冷静に口を開いたのは長男だった。その問いに、首を横に振る。

「親父は何もしていないし、何も起こっていない。変わらず一緒に暮らしているよ」

 その言葉に少し驚いた表情で、その後「そうか」と言って席から立ち上がった。それに連なるようにして三男も席を立つ。

「なんだか面白そうな事になっているみたいだけど、問題が無いようなら私はこれ以上何かをしようとも思わない。その話だけで十分だ。私はこれで失礼するよ」

「え!?」

「ちょっ、兄貴!?」

「父さんが何もしないという事は、なにも問題が無いって事だろ。まあ、何も出来なかった、と言った方がいいのかもしれないけれどね」

 どこか笑うのを堪えるかのような三男の言葉に、納得が出来るような出来ないような心持で皆はその言葉を聞いた。

「何か贈り物でもしてみようか、兄さん」

「贈り物ねえ。父さん嫌味か、って言ってきそうだけどね」

 などと和やかに会話しながら去っていく兄達の姿に、弟達はただ呆然と見送るのみだった。



 上の兄二人が去った後、なし崩しに質問タイムに突入していた。

「先代魔王って、どんなヤツだった?」

「いや、普通だった」

 当然の質問だろうが、その問いに苦虫を噛み潰したような顔で返事が返された。

「は?」

「いや、普通って言われても」

「なあ」

 そう言ってそうだよな、と頷きあう兄弟達を眺めながら彼は思った。

 知らないことってのは、幸せなんだな、と。

 そう考えながらとりあえずあの場に居て思ったことを正直に言ってみる。

「ともかく一言で感想を言うならば、あの家に俺の味方は居なかった」

「はぁ?」

 言っている意味がさっぱりだ。

「どんなやつだ、と聞いたな」

「あ、ああ」

「親父に似た常識を持った人物。そう言ったら分かるか」


 …………。


「親父の、常識って……あれだよな」

「子供の教育に魔物見物ツアーを組むような親父の常識、だよな」

「八つ当たりで山を吹っ飛ばすような人の常識だよな」

「非常識を常識と説いた人の常識だよな」

「それ以前に、非常識って事を自覚していない人の常識だろ」

 言いたい放題である。


 遠い目をして彼は答えた。

「とりあえずだ。親父も何とか納得して一緒に暮らしているらしいんだが、あの日ほど同じ常識を持つ相手が欲しいと思った日は無かったな」




   ―――――― ※ ――――――




 あの後、俺も一応誘われて一緒に食事をしたんだ。

 ひどい目に遭ったが。

 どんなって?

 あー、うん。お前なら一撃死出来る威力ある出来事だよ。

 おまけに、親父がアリーシアに料理も含めて色々と教えてる、って知ったときはビックリしたよ。

 必要ないだろ、って言ったら深々と溜息をつかれてな。


 ――これを見てもそう言えるか?


 そう言ってアリーシアに何かを言うと、それを聞いた彼女も微妙な顔して台所に行ったんだよ。

 アリーシアが出してくれたのは、なんだか禍々しい赤い色に染まった飲み物と思しき物だった。

 意味解らんだろ。そうだよな。俺も最初見た時、何だこれ?って思ったもんな。

 出されたからには飲まなくちゃいけない。というか親父、あれは飲めって視線で脅してきていたから、飲まなかったら無理矢理飲まされていただろうな。

 とにかく飲んだよ。


 飲んだら吹いたが。


 思わず脳裏に『痛恨の一撃!』って文句が浮かんだよ。

 実はそれ、唐辛子だけが入った飲み物だった。

 後で痛む口を押さえながら話を聞くと、そもそもアリーシアが最初に勘違いしていたのが発端だったんだと。

 紅茶って字で書くと紅のお茶だろ。

 それで紅に染まっていれば紅茶なんだと思いこんでいたらしいんだよ。

 親父も初めて出された時に、紅茶の茶葉を置いていなかったのに、と疑問に思いながらも一気飲みして撃沈したんだってさ。

 そりゃ当然さ。唐辛子だぞ。目潰しにも効果的な唐辛子だぞ。うっかりそれを触った手で目を触ったら自爆できる代物だぞ。

 そんなものを一気飲みできる親父にもビックリだが、それを出したアリーシアの行動にも驚きだったよ。

 まあ前職を考えて見れば、家事一切やったこと無いのは当然だろうから仕方の無い事なんだが、その一件もあって教えているんだと。それに親父も自分の今後を考えて教えている、という事らしい。


 ――将来、真っ先に俺が殺される。


 そう言われた時に、それは別にいいんじゃね、とも思ったが思っただけだ。

 実際言った場合、親父が殺される前に、こっちが親父に殺されかねないからな。



 そうそう。夕食のお相伴にあずかったんだが、そのときの会話も罠が潜んでいたんだよな。

 一つ聞くが、あっちの隣国、って言われてどこを思い浮かべる?

 うん、そうだよな。すぐ隣のキレストとかラギネルとかだと思うよな。

 それじゃあこっちの国って言われたら?

 当然思い浮かべるのはシェトナだよな。

 何でそんな事を聞くかって?

 あの晩の会話はこうだった。



 ――あっちの隣国に今度行ってくるが、おとなしくしていろよ。


 ――今度は何が?


 ――少々厄介な魔物が出たんだと。その討伐に声がかかったんだよ。


 ――それじゃあ前回買って来てくれた……


 ――却下だ!


 ――勇者、まだ何も言っていない。


 ――またミオウレーゼのお菓子が食べたいとかだろ。


 ――な、何故ばれた!?


 ――お前な。毎度毎度あっちに行くたびに要求されれば誰だって察しはつくさ。今回はダメだ。時間が無い。今度こっちでフェンレの紅茶を買ってきてやるからそれで我慢しろ。


 ――お菓子……。


 ――…………作ってやるから。



 とまあ、こんな感じの会話だったな。





   ―――――― ※ ――――――



「なあ」

「なんだ?」

「ミオウレーゼって確か……こっから海を渡った場所、だよな」

「……そうだな」

「フェンレって、この大陸の端っこの国だよな。真逆の」

「そうだな」

「どっちも普通なら一朝一夕に行けない場所のはずだな」

「「そうだよな!」」

 どう考えても『あっち』とか『こっち』という、簡単に行って帰ってこられる雰囲気の単語が付くような場所では無い。

 どこか複雑な表情を浮かべる兄弟たち。

 言いたい事は理解して貰えて何よりだったが、まだ言っておかなければならない事があった。

「それとな……」

「まだ何かあるのか?」

「ああ、うん。これほど言いづらい事は無いんだが……」

 その言葉に、皆ただ黙して続きを待った。

「お前たち、ライエンフォール……知ってるよな」

「当然知ってるさ。確か雷を操るとか何とかって魔獣だったか?」

「成長すれば金の毛並みが素晴らしいって有名な奴だろ。あと、凶暴さも有名な。その毛皮を狩ろうとしている奴らを時折見かけた事があったが、一筋縄ではいかないらしく、傷だらけになっている奴らを見かけた事があるぞ」

「次の日の朝の出来事だったんだが、そのライエンフォールの子供がアリーシアにじゃれていた」

 どこか泣きそうな表情で告げられた言葉に、兄弟一同信じられないことを聞いたと疑いの眼差しを向ける。

「いやいやいや、ちょっと待て。それ、間違いなく魔獣だぞ!?」

 通常であれば、一瞬にしてその爪や牙の餌食になるのが当然の結末だ。

「冗談抜きにしても、それはありえないだろ」

「ネコと見間違えたんじゃ無いのか?」

「だがネコに見間違えるには大きさの問題が……」


「「そんなもの、些細な事だよ!」」


「「「という事で、それは冗談だよな」」」



 兄弟たちの一般常識的な当たり前の反応に、そうだよな、と思った。

 実際彼も父親を問い詰めたから。


 ――おいおい、ちょっと待て親父。あれって冗談と言うか、まずいだろ!!


 ――ん?ああ、あれね。魔王の飼い猫のフィエラだ。間違って狩るなよ。


 何でも無い事のようにあっさりと返された答えに、根本的に色々間違っている、と叫びたかったのだが、その続きがまだあったからその言葉を叫ぶ機会を逃してしまった。



 兄弟の言葉に、返答する代わりに続きを話す。

「……それと親父んとこの裏の森に住んでる魔獣、知ってるよな」

 どこか涙目の兄弟は、あえて無視だ。

「あ、ああ。確かゲネシスの」

「そう言えば、黒くて巨大な生き物がいたな」

「で、それがどうかしたのか?」

 嫌な予感がしているのか、兄弟一同、微妙に引きつった表情に。

「……ライエンフォールと一緒に来てたらしく、何か会話してたんだ。微笑ましい光景だよな、って無理やり思って見ていたら、アリーシアがおもむろにその背中に乗って出かけたんだよ」

 どこか疲れたような声音で告げられた言葉が、兄弟たち一同、一瞬理解出来なかった。

「いや、待て。ちょっと待て。と言うか待ってくれ!それこそ冗談とか冗談とか冗談だろ。例え親父がかつて助けたとか前歴があったとしても、おいそれとそんな事できるような存在じゃ無いだろ」

 他の兄弟たちは、どう噛み砕いても理解の範疇を超えたのか、呆然とするばかり。

 そんな兄弟を見て、彼は止めの一言を呟くように言った。




「だから、言ったろ。あの家にいて、味方は誰一人としていなかった、と」



作者、ごぼうの金平を作るときに唐辛子を手で握りつぶして入れた後、その事をすっかり忘れてコンタクトを入れる時に自爆した、という辛い(外から見ると笑える)経験がある。

コンタクト入れるだけなのに、何故こんなにも目がつぶれるほどの痛みが起こるんだ!?と涙ながらにしばらく自問自答した。

あれ、ちょっと手を洗ったぐらいではどうこうなら無い程強烈な代物だったんだな、と実体験で体感した痛い思い出でした。

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