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19. 結局何しに来たんだ?

長らくサボっていましたが、何とか投稿。

初・息子登場。


最終改訂4/11



「よお、親父。元気にしてたか」

 そう言って挨拶してきたのは20代前半といった感じの青年が一人、手を上げながらこちらに向かって歩いてきていた。

 彼は勇者の息子の一人で、時折この場所に訪れている一人だった。

「もっと早く来ようと思っていたんだが、予想外な事に仕事に手間取ってこんなに遅くなってしまったよ」

 一方勇者は予想外の訪問客に一瞬固まるも、めまぐるしく考えを巡らせる。


 こいつが来た理由は何だ?というか今回は何の連絡も貰っていないから依頼があるわけでは無いだろうし……はっ、まさか例の一件がばれたとか?いや、それは無いな。


 あれやこれやと色々と思い当たりそうな原因を考えるが、まったく思いつかない。

 表情を変えることなくうろたえる勇者だったが、彼はそんな事にも気づかずあっさり来た理由を話してくれた。

「本当ならアリーシアの4歳の誕生日には間に合うつもりだったんだが、色々あって足止めを食らったんだよ」

「そ、そうか」

 よかった。

 そう考えホッと胸を撫で下ろしかかったが、聞いた言葉を反芻して動きが止まった。

 今、何と言った?

「で、我らが麗しき『沈黙の姫』はどこにいるんだい?」

 そういって辺りを見回す息子に、勇者は冷や汗を一つ。

 この状況は、どう考えても非常にまずい事に気付く。

 ここ最近そこら辺の事情も何も連絡していなかった事に今更ながらに気づいたが、連絡するにしてもこの事態をどう連絡しろという話になる。

「あー、その事なんだが、事情がちょっと変わってな」

 そう言いながらも、一体どう説明したものか頭を悩ませる。

「まさか何かあったのか!?」

 ものすごい形相で詰め寄られた勇者は、ひとまず落ち着け、と息子をたしなめた。

「いや、そんなたいした事は無い。…………無いはずだ、たぶん」

 後半は小声になり、その声は彼には届かなかった。

「で、親父がここにいるという事はあの子もいるんだろ。どこにいるんだよ」



 ひとまずここで説明しておかなければいけないのは『沈黙の姫』という言葉だろう。

 これは勇者の家族の間でのみ通じる言葉で、勇者の最後で初めての娘の通称である。

 というのも彼女が生まれてからこれまで、感情という感情が表に出る事は無かった故の名称だ。

 勇者をはじめとしその息子たちも彼女の誕生を喜んだだけにその欠けたものは大きく、その事実に皆が悲嘆した。

 だがいつか普通の女の子としての人生が開ける、と信じて日々を過ごしてきたのである。

 そして勇者は娘と共に暮らし、息子達は時折村を訪れ彼女の様子を見るようにしていたのだった。



「……れはおしまい。次は何をする?」

 背後で聞こえてきた楽しそうな子供の声に、勇者は顔を引きつらせた。

 同じくその声に気付いた息子は「楽しそうだな」と顔をほころばせたが、次に聞こえてきた言葉にその顔が微妙に固まった。

「じゃあ森でまた魔物狩りでもするか?」

 二人が振り向くと、そこには数人の子供たちが楽しそうに会話しあう姿があった。

 子供の会話にしてはあまりにも物騒すぎる台詞だ。

 その中に二人にとって一番見慣れた存在がいた。

「でもそれはこの間やったじゃないか。フィエラとグランが付いて来てくれたからまったく問題は無かったんだが、私はその後、盛大に怒られたんだ。だから今日は別の事をしよう。森の奥へでもまた探検にでも行こう……あ、それもまずいな。う~~ん、どうしようか。無難に木登りでもするか?落ちかけても何とかなるから……」



 などとのんびりとした雰囲気で、内容的にはまったくのんびり出来ない会話をしている子供達をしばし見つめた後、後ろに立つ父親に問いかけた。

「おい親父。あの中心に立って子供としてはありえない発言をしているのって、もしかして……」

 そう言って勇者に視線を向けると、彼はあさっての方角を見ながら「いい天気だな」などと言って誤魔化そうとしていた。

「……おい、そこの年齢詐称ジジイ。ちょっとこっち向け」

「父親に向かっていい度胸じゃねえか、この万年洟垂れ小僧」

 そう言ってお互いの胸倉を掴み合う。

「この万年若作り、誰が洟垂れだ。この間、勝手に人の仕事増やしやがって」

「いい勉強になっただろうが。それにそんだけ大きく育ててやった上に、色々と教えてやったのに恩を仇で返す気か」

「そのあんたの教育方針のおかげで、こっちがどれ程苦労したと思っているんだ」

 そう言って脳裏に描き出されるのは、今まで常識だと思ってそのまま学校でやった事が、実は非常識だったと知った思い出だ。その一件で、周りの視線が一変した苦い思い出である。

 だが後にその非常識教育のおかげで、現在も一番の親友と呼べる相手を得られた事には一応感謝はしても、それ以上に恨みは大きいのである。

「俺とさほど変わらない姿しといて3倍の年齢差なんてありえねぇだろうが。ぴったりじゃねえか、この外見年齢詐欺野郎が」

「いつまで経っても半人前から抜け出せないヘタレのくせに、何言ってやがる」

 そうして、くだらない親子喧嘩という戦いの火蓋は切って落とされた。




 こんな不毛なやり取りが次第にヒートアップしていき、大声でやり取りをしている事に子供達もやがて気付いた。

 当然のごとく、事の元凶とも言える人物も気付く。

 二人のやり取りが気になった彼女は友達に一言断りをいれ、二人の下へと向かって行った。


 その事に最初に気付いたのは勇者だった。

 突然口汚い罵りあいを即座に断ち切り、息子の頭を抱えるようにして小さくささやいた。

「おい。今あいつがこっちに来ているが、一つ忠告しておくぞ」

「は?」

 突然の事に息子は何がなんだかさっぱり理解できずにいたが、そんな事はお構いなしに勇者は言葉を続ける。

「これだけは絶対に守れ。どんなに驚こうとも叫ぼうとも何をしても良いが、絶対に、絶っっっっっ対にあいつにだけは剣を向けようとはするな。分かったな!!」

「はあ?」

 あまりにも真剣な表情だった。軽口をたたこうとしたのも躊躇うほどの。

 視線を動かすと、そこには末の妹がこっちへ向かってくる姿が。

 あいつとはあの子の事なのだろうか。

 さらに訳が分からないのは、自分たちがかわいがっている最後にして唯一の妹に向かって剣を向けるなとは一体どういう事なのだ。

 どう考えてもありえない話だ。

 だが当の父親の真剣な眼差しを向けたまま冗談を言っているような様子を一切窺わせない姿に、思わず「分かった」とうなずいていた。



「勇者、一体どうしたんだ?何か喧嘩でもしていたみたいだが」

「いや、ただの親子の語らいさ」


 しれっと父親の言い放った言葉に疑問を覚えた。

 親子の会話にしては何か違和感が……。

 というか、それ以前に呼び名がおかしくないか?


「親子?じゃあお前の息子か」

 彼女はそのまま勇者の傍らに立つ男に振り返り、にっこり笑って挨拶をした。

「初めまして、かな。たぶん私が私になる前に会っているんだろうけれど、私は知らないから初めまして、だな」

「…………」

 こんな感情豊かな彼女の姿に喜ぶべきのはずだろうが、喜ぶより先に違和感を覚えた。

 さらに言えば、4歳でここまで礼儀正しいのもおかしい気がする。というかこれほどまでに流暢に話す4歳児って?子供で4歳と言うものは、もう少しこうやんちゃで無鉄砲でわが道を行っているものじゃなかったっけ?

「あー、なんか固まっちゃったみたいだけど大丈夫か?」

 その言葉に勇者が「気にしなくていい」と言い、彼女はその言葉どおり気にせず話を続けた。

「えーと……ああ、自己紹介か。改めて、初めまして。私は先代魔王にして何故か現在は勇者の娘となったアリーシアだ。よろしく」

 そう言って彼女はにっこり笑った。


 その言葉に何かを言おうとして、結局何も言葉が出なかった。







 正直、口を開けたまま気絶しなかった俺を褒めて欲しい。



   ―――――― ※ ――――――



 あの後、父親である勇者の胸倉を掴み説明を求めようと暴れてしまったのだが、逆にあっさり返り討ちにされた。

 昔の格言に『老いては子に従え』という言葉があるが、これはこの親には決して適用されるものでは無いだろう。外見でいえば数年後は確実に逆転するだろうし、未だにあっさり子を倒すほどの力を持ってるのだから。




「で、一体どういう事でこんな事になってるんだよ」

「それにしても本当にそっくりだな、お前たち親子は」

「こんなのに似てもらいたくは無かったがな」

 上から息子、魔王、勇者の順にむっつりと、感心して、不満そうにそれぞれが言った。

「ちょっと待て、そこの若作りジジイ。なにふざけた事抜かしてやがるんだ」

「何だと、このバカ息子。せっかくここまで実力をつけさせてやったのにその恩を仇で返そうというのか?」

「ふざけるな。もう数年したら外見逆転するような若作りの教育に恨みこそあれ、世話になった覚えは無いぞ」

「ほほう。お前も言うようになったな。俺にはそれだけ言えるのに、未だ彼女に結婚のけの字も告げられない臆病者が!!」

「な!何で親父がその事を知っているんだ!!」

 そう言って何故か殴りあいに発展しそうな雰囲気に、魔王はあきれながらも一番気になる事を聞いてみた。

「ところでお前の息子はここに何しに来たのだ?」

「…………」

 振り返ると、そこにはあきれた表情の父親には似ても似つかないかわいらしい少女。だが中身はその父親と戦ったと言われる魔王その人である。

 色々と言いたい事も聞きたい事もあるのだが。それ以上に気になることが一つ。

「なんでそんなにあんた達は普通にしてるんだよ」

 仮にもかつて討ったものと討たれたもの。本来なら敵対しててもおかしくないはずなのに、二人の雰囲気にはそんなものは欠片ほども無かった。それ以上に馴染んでいるのが納得いかない。

 そんな複雑な思いのまま問いかけると、意外な返事が返ってきた。

「ああ、そのことか。それに関しては簡単な話しだ。私は勇者を欠片ほども恨んでいないからな。むしろ感謝していたぐらいだ」

 おまけとばかりに満面の笑み付きで。

 その返事に思わず胡乱な表情で父親を振り返ると、こっちはこっちで「一応そういう事らしい」と複雑な内心を抱えたかのような微妙な表情で返事が返ってきた。

「まあ今の状況は予想外なところからの手が伸びたせいでこんな事になってしまったが、新しい第二の人生は勇者に色々と教えてもらいながら満喫する事にしたんだ。という事でこれからよろしく」

 さっぱり意味が分からないが、当人達はそれで良いと言うことになったようだ。



 一言、声を大にして言わせてくれ。

 ……人生そんなで良いのか?




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