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閑話2. 昼下がりの恐怖

かなり遅くなりました。


最終改訂8/25



 なあ、フィエラ。

 勇者の料理の腕前は流石と言うか、本当に素晴らしいよな。

 何より一番感動したのが『お菓子』なるもの、あれは本当に奇跡の食べ物だよ。初めて食べた時はもう言葉も無かったからな。

 甘くてほわほわした食感のものや他にもサクサクした食感もの。お菓子と言うものは多種多様に別れているのも驚きなのだが、少し前に私の誕生祝に作ってくれたケーキなるもの。あの繊細な飾りつけと美味しさはもう驚きを通り越して感動したものだ。

 勇者のあのごつごつした手であんな繊細な芸術作品が作られる瞬間を見たら、あれこそ魔法のように思うぞ。

 今日もおやつに美味しいお菓子が待っているのだ。もう今から楽しみ……ジュルル、おっと、よだれが。



 ああ、今日も天気がいいな。


 本当にここは平和で平穏だ。私があの場所にいたときでは、絶対に出会えなかった場所だ。

 それにしても、こうして暮らせる自分が不思議に思える。過去の自分の行動を思うと、申し訳なく思えるほどに。

 そんな私を勇者は受け入れてくれた。

 過去がどうとか言うでなく、それらを全て受け入れてくれたんだ。本当に感謝しているよ。


 …………。


 ……フィエラ。私はね、時折勇者の動向は覗き見していたから、彼と彼の仲間たちの事に関して多少は知っている。

 というか、勇者たちの本当の姿を一番知っているのは私では無いだろうかな。

 そもそも、皆は『勇者』という幻想を見ているに過ぎなかった。


 清く正しい存在。英雄豪傑な人物。などなど。


 民の間で語られる勇者の姿は、大抵そんなものだった。

 だがそんな幻想を押し付けられる勇者も、本当の姿は普通の感情を持つ『ただの人間』の一人なのだ。どれほどの強大な力を持っていたとしても、ただの人間なのだよ。



 その事を忘れてしまっている人は気付かなかったんだ。


 勇者にも、心は確かにあるということに。



 そもそも勇者という男は、どこにでもいるような人間の一人だった。

 詳しい経歴は会話を盗み聞きした程度の知識しか無いため詳しくないのだが、彼は18歳まで学校に通い、その後旅に出たのだそうだ。

 その数年後、彼の人生を大きく変えるものを得た。


 それが『神の祝福』。


 祝福を得たゆえ一般的な枠から大きく逸脱した力を得、最終的に勇者という存在に祭り上げられ、そして私を倒すという旅に強制的に出された。

 もともと出鱈目な存在だった、と仲間達の会話で言われていたが、それでも私からすればごく普通の人間だったようにも思う。

 ……たぶん。

 なにぶん私基準での普通だから、他の者達からすれば少々感想は違うのかも知れないが。


 そして、ある意味可哀相な男だった。


 清廉潔白な人間、という存在は数少ない。

 勇者という名で以て利用され裏切られ、果ては殺されそうになっていた事は数え切れないほどだ。

 そんな話を聞いていたらかわいそうに思うだろ。

 でもね、同情は必要ないんだ。


 旅に出た後、祝福のおかげか苦労はしてもそれほどひどい状況に陥っていたわけではない。というかある意味ではむしろ満喫していたとも言える。

 こんな下らんもの、いるかぁぁ~~っっ!!と叫んでいながらも旅の最中、立ち寄った場所で度々よろしくやっていたのは知っている。むしろ男たちに闇討ちに合わなかったのが不思議なくらいだ。

 まあ相手としても、闇討ちしようにも返り討ちにされるのが分かりきっていたから手を出すに出せなかった、というのが真相だろうと予測してるんだが。

 そう言えば一部空気の読めないのが、返り討ちの末にぼろぼろにされている場面を見かけた事があったな。





 あと…………。

 ひじょ~~に言い辛いのだが、男に襲われそうになっていた場面があったな。

 なんだったか囮の為に女装していた……ん?あれは女装ではなくて性別変化だったっけ?

 確か彼の仲間の一人が性別を一時変化させる怪しげな薬を開発してたとかで、勇者は当時童顔だったのが幸いではなく仇となって、皆に薬を無理矢理飲まされていたんだったな。

 その薬も一癖もあって、顔立ちはそのまま性別が真逆になるって代物だったんだ。だから勇者の仲間も道連れで飲まされていたんだが、それはそれは恐ろしい光景が広がっていたな。

 ドコのオカマ集団?っていった怪しい一味だったからな。

 それでもマシなのもいた気もするが……えーと。

 顔立ちはそのまま、体つきはムキムキおまけに胸があって……いや、あれじゃなくて。体つきはほっそり、顔が濃いまま……あれも違う。えーと……うん、どれも微妙な結果だったな。

 確かもう一人ぐらい違和感の無いのがいた気もするんだが、それでもやっぱり一番似合っていたのは勇者だな。

 そのときの姿は本当に可愛らしかったな。確かに相手が襲おうと思ったのは理解出来るほどの可愛らしさだった。本当に似合っていたのだよ、ピンクのフリルの付いた可愛らしいメイド服。

 まあその後、色々恨み鬱憤諸々を込めて盛大に逆襲していたからいいのだが、あの一件は彼の黒歴史としてしっかり刻み込まれた事だろうな。

 真っ最中を目撃してしまった私は、思わず合掌してしまった事は内緒だ。


 その後の彼の取り乱し方は、笑って良いのか同情して良いのかなかなか複雑な状況だったな。


 いっそ清清しく笑ってやったほうが良かったのか……な?





 ……………………。





 ん?あれ?

 これってあのときに止められた話……だな。あの後で改めて釘を刺された話……。

 ってもしかして、ここで喋ってる時点で色々と暴露した事に……なってる、のか?


 あにょ、にゃ、お……えぅ、じゃない。


 黙っていてりゃいぃっ!!!


 痛ぅ。舌噛んだ。


 いや、それ所じゃない。むしろ聞かなかった事に……は無理か。

 とにかく黙っていてくれ。

 勇者にばれたら怒られる。懇々と長時間正座で説教されるんだ!

 きっとたぶんおそらく絶対に!!


 前にも説教された事があるんだが、あの時も大変だった。

 正座だけは無理!足をようやく崩した後のあのシビシビは本当にダメなんだっっ!!勇者には面白がってツンツンと突っつかれたんだが、あれほどの拷問は無かった。あのいじめっ子めっ!!!


 説教といっても、言っている事が至極まともな事を言われているから反論の余地は一切無い。

 確かに怒られるような事は私も色々とやった。


 この村で出来た友達と一緒に空を飛んでみたりした時は、自分が落ちる場合はいいが他のものが堕ちた場合どうするんだと怒られた。

 私はいいのか、と反論したら、お前は精霊の加護があって問題ないだろうが、って言われたのにはそういえばと思ったものだ。


 冒険と称して迷った末に森の奥へと入ってみたりした時は、うっかり封印されていた遺跡に辿り着いたせいで勇者にガッツリ説教されたんだ。あそこは行くなと言っておいただろうが、って。

 友達と一緒に行っていたのが、怒られた一番の理由だろうな。


 魔物と出会ったときに撃退しようと魔力を放ったら、うっかり加減を間違えて木を3本ほど貫通したりしたんだよな。

 その前にも一部地域の木を切り倒した記憶もあったから、それはもう本気で怒られた。おまけに、お前なぁ、と呆れた表情で見られた。ついでに加減を覚えるまで使用禁止だって怒られたんだよな。


 グランと楽しく遊んでいてついでに友達も乗せたりしたのだが、それはまずいだろと止められたのだが、それに関しては友達の方から反論があったため何とか禁止は免れたな。

 何故かグランの尻尾がヘタレていたのが印象的だったが……。



   ―――――― ※ ――――――



「考えてみれば、こうなってから色々とあったんだな」

 色々と独り言(フィエラは相槌を打つだけ)を喋っていると、突然フィエラの様子がおかしくなった。

 尻尾がこれでもかと言うほど毛羽立ち、耳がへたり込んでいるのだ。

「ん?どうし……」

 フィエラの様子に首を傾げかけて、魔王も遅ればせながら漸く気付いた。


 背後に立ち昇る、尋常では無い気配に。


 ギギギと音がするかのように後ろを振り返ると、そこには笑顔の勇者が。

「ひきょっ!!」


 勇者は笑顔なのだが、笑顔でどす黒い。

 あれを笑顔と評するならば、笑顔の基準を改めなければいけないと思う。いや、確かに表情は笑顔と評していいのだが、背後に背負っているものがはっきり言って尋常ではない。

 動揺しているせいか、そんな斜め上の考えしか浮かばなかった。

 だが動揺していながらも、何時からそこに、という愚かな質問はしなかった。

 勇者は一目見ただけで明らかに全てを聞いていました、と言わんばかりの気配だったからだ。

「あ、あの……勇者?」


 恐る恐る言葉を掛けてきた魔王に、にーっこり、と笑顔を浮かべながら勇者は言った。

「一週間ぐらいおやつは無しでいいよな」

 と。


「みょっっ!!!」

 勇者の無情な言葉に奇妙な悲鳴を上げ固まった魔王。その顔は絶望に彩られていた。

 その姿を横目に、勇者は次に横でプルプル震えるフィエラに視線を向ける。

 ライエンフォールは小さい頃は会話は出来ないが、成長すれば心話を使う事が出来るのだ。それを知っていた勇者は容赦なく釘を刺した。


「お前も、この事を喋った場合、毛皮剥ぐからな」

 地の底を這うような声音に、フィエラも毛を逆立てたままコクコク頷く。


「じゃあ、魔王。今日から2週間おやつ無し、という事で」

 さりげなくもう一週間追加。さらに今日から、という追い討ち。

 その言葉に、漸く正気に戻った魔王だったが、視線を向けるともう既に勇者は立ち去ろうとしていた。

「ま、待ってくれ。それは酷い。おやつは私の一番の楽しみなんだぞ。最初一週間って言っただろ。お願いだからそれだけは……」

 スタスタと一切止まる気配も見せず立ち去った勇者を、魔王は必死に説得しようと声を上げて追いかけて行った。半ば泣きそうな声で。





 そして取り残されたフィエラは……。


 未だショックが取れず、その場でプルプル震え続けていた。



よくよく考えてみれば、これってフィエラは魔王のとばっちりを食らった被害者だな~(笑)

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