断章
最終決戦の時の勇者の思い。
最後の決戦の時。
あの強大な力を持った魔王に勝てるのか。
皆がそんな不安を口にした時、俺は笑って否定した。
俺たちがそろって出来なかった事は何も無いだろ。絶対倒せる。
そう言うと彼女たちは表情を緩め、そうねと同意し決意を新たに城の中へと向かった。
城へ向かう仲間達の背を見つめ、そして視線を城の最上部へと向ける。
口では軽く言っていたが……。
本当は、それは自分に言い聞かせていた言葉だった。
―――――― ※ ――――――
剣を振り上げ立ち向かう。
目の前には魔物全ての頂点とも言える存在。
紅に染まる目と白銀の髪を持つ、漆黒の闇をまとった者。
魔王。
魔王城の最上階。
玉座の前に立つその姿は、全てを圧倒していた。
その圧倒的な存在感に恐れを抱いた。だが同時に、負けられないと勇気を奮い立たせた。
長いときの間、虐げられ続けた生き物たち。
時には人間同士の争いも裏切りもあった。
敵対していたはずの種族と分かりあえた。
それらさまざまな困難を乗り越え俺達は今、ここに立っている。
―――そして。
全ての戦いが終わった後、城を出た時、一度だけ城の方を振り返り思った。
何故魔王はあの最後の瞬間、笑っていたのだろうか。
その疑問は本人のいなくなった今では、誰にも分からないことだ。そしてそれは決して解けない謎として俺の中でくすぶる事になった。
生涯解けない謎。
魔王は最後にそんな苦しみを残していった。
……かに思われたが、その疑問は後に意外な形であっさり解けた。




