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14.村人一号と遭遇

ええと。

予定から大きく離れていったお話です。


最終改訂9/18



 しゃがみこんでいじける勇者を必死になだめていたとき、背後の方で誰かが立ち止まる気配を感じた。

「あら。もしかして、そこにいるのはジェイスさんじゃないですか?」

 声のした方を振り返ると、そこには30代半ばといった感じの女性が立っていた。

「ああ、やっぱりそうだわ。お久しぶりですね。この間、村中を猪のごとく突進していたと聞きましたよ」

 その声にようやく顔を上げた勇者は、声を発した女性を見て一瞬だけ顔を引きつらせたが、次には何事も無かったかのように返事を返した。

「ああ。お久しぶりですね、アマルさん。それについては、ちょっとした問題が発生してしまいましてね。でもすぐに問題が解決しましたから良かったですよ」

「そうなんですか。それにしても、それ以後ここ数日姿を見かけなかったから、また遠くへ出かけているのかと思ったわ」

「いえ。そっちにも少々事情がありましてね。しばらく家に篭っていたんですよ」

 横でその会話を聞いていた魔王は思った。

 なんか腹の探り合いでもしているのか、と。


 一方アマルはちらちらと足元に立つ魔王に視線を向けていた。それを見ていた勇者は、仕方ないと内心ため息を一つ。

「あ、紹介します。俺の娘のアリーシアです」

「あら?あらあら、まあまあ。その子が噂の娘さんですか。なんて可愛らしいの」

「え?噂のってどういう事なんだ?」

 言われた言葉の意味が理解出来なかった魔王は、勇者に聞き返した。

「前にも言ったろ。以前のお前は生きたお人形さんだったんだ。それで病気療養のため、という理由つけて隔離してたから、この村でお前の事を知っているのはほんの一握りだけなんだよ」

 魔王の疑問の声に、すかさず勇者は小声で返答を返した。

「そうなんだ」

「それにしても可愛らしい娘さんですね。いくつでしたっけ?」

「3歳ですよ。いや、もうすぐ4歳になるかな」

「あら。3歳にしては本当にしっかりしたお嬢さんみたいで。家の子は6歳になるんですけど、あまりにも元気が良すぎて毎日大変なんですよ」

「いえ、そのお気持ちよく分かります。こっちは無駄に知恵ばかり付いていて、別の意味で困ったものです」

 勇者の言葉は、えらく実感が込められていた。

「…………勇者、それは私に対する嫌味か?」

 魔王がそう呟いた瞬間、二人の反応が二通りに別れた。

「勇者?」

 アマルの声がワントーン上がった。

 それを聞いていた勇者は逆に慌てて、

「アマルさん。ここに勇者なんて居ませんよ。娘が最近になって突然『魔王と勇者ごっこ』をしたいと言い出しましてね。俺が勇者で娘が魔王、という具合に呼びあっているんですよ」

「あら?普通、逆じゃないかしら。子供ってカッコいい役をやりたがるでしょ」

「少し変わった子なんです」

 しみじみと言われたこの言葉には、さすがに魔王も抗議の声を上げた。

「ちょっと待て。私はただ普通に……」

「だよな」

 同意を促すようにそう言って、魔王の頭に手を乗せ視線を合わせた勇者。


 目が一切笑っていなかった。


 さすがの魔王も、言葉を続ける事が出来なかった。

 何も言わない魔王に、さらに畳み掛けるように「だ よ な」と再び言う。

「そ、そうです」

 それだけを答えるのが、精一杯だった。


 勇者、コワイ。

 後ろに真っ黒いものが見えた。


 そんな二人の様子を少し首を傾げながら眺めるアマルだったが、何かを思い付いたのか「そうだ」と言って手を一打ち。

「娘さん、病気療養でここに来ていたんでしょ。ようやく外に出られるようになった、と言うことは病気も良くなったのよね」

「え、ええ。まあ」

「じゃあ家の娘と仲良くしてくれないかしら。ここで暮らし始めて娘が元気になったのはいいんだけれど、元気が良すぎて困っているのよね。あなたの娘と一緒にいればもう少しおとなしくなると思うのよ」

 突然の提案に、勇者も即答は控えた。

 ある意味、究極の二択である。

 一般的な普通の友達が出来る利点はあるのだが、逆に悪い影響を与えるかもしれないという弊害も懸念事項だ。

 言葉は間違えていない。魔王は影響を与えられるようなヤツではない。与える方なのだ。


 勇者は少し悩んだ。


 だが、と思った。

 そんないらぬ心配ばかりしていても、子供にそれらを押し付けたとしても、そんな事は理解出来ないだろう。子供は自分の世界で全てが成り立っているのだから。自分の得たい物を得ようと走り回っているのである。

 子供は親から生まれたといっても、意思ある個性を持った自分とは別の存在。つまりは他人なのである。

 親がどれほど悩んでもどれほど心配してもどれほど心を砕いても、結局はなるようにしかならないのだ。

 結局一言で言えば、悩むだけ無駄、である。


 数秒黙考した後。

「丁度よかった。部屋に篭りっぱなしだったので、友達と呼べるようなのが一人もいなかったんですよ。よかったな、魔王。早速友達が出来たぞ」

 そう言って、にこやかに笑いながら魔王の頭をなでる勇者。


 最終的に、勇者は問題を丸投げにすることにした。




 そして。

 丸投げした空気を察した魔王は、逆に微妙な顔を勇者に向けたがあえてコメントは控えた。



   ―――――― ※ ――――――



 そんなやり取りの後、アマルは娘をつれてくるからここで待っているように、と言って立ち去った。


 アマルの姿が見えなくなった頃、先に口を開いたのは魔王だった。

「ところで何で私の言葉を止めたんだ?私は正直に答えようとしただけなんだぞ」

 魔王の少し怒ったような言葉に、逆に勇者は疑問を覚える。

「何でそんなに怒るんだ?」

「私は今度の人生は正直者として生きてみようと思っていたのだぞ。なのに、早くもその目標を破ってしまったではないか」


 前職=魔王が正直者……。

 はっきり言って、これは笑うべき所なのか?


 微妙に頭痛を覚えたが、それを抑えつつ言った。

「正直者だろうが何だろうが、とにかく。彼女に祝福関連の話だけは決してするな。これはお願いなどではない。絶対に、言うな!!」

 何時に無い勇者の様子に、魔王は訝しく思った。

「何故そこまで強固に嫌がるんだ?何かあるのか?」

「あー、うん。そうだよな。説明しないと一切解らんわな」

 微妙な表情で遠くを眺める勇者の様子に、さらに疑問が募る。

「理由は大きく分けて二つあるんだが、あっちは実際見たほうが早いから今回はいいか」

 意味不明な言葉過ぎて理解が出来ない。あれは時間もかかるしな、とも呟いていたのがさらに意味不明だった。

「とりあえず根本的な事が分からんと話が始まらないな。ええと……彼女はな。こんな辺境で暮らしているのだが、それなりに有名なとある研究者というか歴史学者というか…………、一種の変人でな」

「……それはものすごく失礼なのでは」

 とがめるような魔王の視線はあえて無視し、勇者は話を続ける。

「ともかく彼女の研究の対象は、こちらにとっては非常に危険かつ迷惑この上ないもので……」

「えらく回りくどい言い方をするな。つまりどういう事なのだ?」

 魔王は言外にはっきり言え、と言っていた。勇者も諦めて、ため息を一つついて一言。

「つまり、彼女の研究内容は『神の祝福』全般だ」

「はい?」

 予想外な言葉に思わず聞き返す。

「神の恩恵、神の祝福、神具、神器……。言葉はどれでもいいが、とにかく神が地上に齎した恩恵を全て研究の対象としているんだ」

「…………とんだ物好きもいたんだな」

 聞かされた言葉を理解して、ようやく発した言葉がこれだった。



 神の祝福と言っても様々なものがあるのは有名な話である。

 最上の祝福の形は魔王達が持つ紫の瞳なのだが、それ以外にも様々な形で祝福は世界各地に存在する。とある地方では泉がそうであり、また別の場所では一見何の変哲も無いコケシがそうだったとか。神具と呼ばれる強大な力を秘めた武器もいくつか存在している。

 それらを調査するのは個人の自由であるのだが、問題があるとすれば唯一つ。それらの神の恩恵は世界中に散らばっているため、全てを把握するのははっきり言って骨がおれるだろう。



 つまり聞いた話を総括すると、ずばり私達はその研究対象の一つ、ということか。

「ええと……。祝福関連を研究すると言っても範囲は広いから、私達は……」

 希望も込めて、違うと言ってもらいたかった。

 だが勇者はそんな魔王に、心底残念そうな視線を向け言った。

「彼女の過去現在含めて最上最大の感心があるのは、紫の瞳持つ至高の祝福を受けたものだ」


 残念な事に、どストライクでした。



「あぅ」

 思わず呻く。

「あのな。お前はどう考えているか知らないがそれほどまでに稀有なんだぞ、瞳の祝福ってのは。俺もこれだけ生きていて、同じ祝福を持っているのを知っているのはお前以外だと一人と一匹ぐらいだからな。それに勇者が瞳の祝福を持っていた事は有名な話なんだ。うっかり俺が勇者だなんてばれた日には、どんな恐ろしい目に遭わされるか……」

 どこか遠い目をして肩を震わす勇者に、

「い、いや。でも仮に私達がそうだと知れたとしても、知り合いにそうそう変な事は……」

 そう言いかけた瞬間、勇者に哀れむような目で見られた。 

「お前は彼女の恐ろしいまでの執念を知らないからそんな事が言えるんだ」

「はい?」

 どこか恐怖をにじませた勇者の言葉に、首を傾げる。


「彼女は以前大きな研究施設に勤めていた。優秀さが買われて若くしてそこそこ上の方の地位についたんだが、それを妬んだ同僚や上司に嵌められ一ヶ月ほど休職に追い込まれたんだと。その後、最終的には本人が退職届を提出したらしいんだが、そのときの彼女の行動は常人のものとは一線を画していた」

 ここで勇者は一呼吸置いた。

 異常に真剣な表情の勇者の様子がその話の続きが普通では無い事を窺わせていたが、続けられた言葉はその期待を裏切らないものだった。

「というのも、彼女はその一ヶ月の間に裏でこの騒動に関わった人物達、総勢8名の後ろ暗いネタを綺麗に揃えて退職届と一緒に提出したんだ。その時の内容が、確かこんなだったな」



 ―――あなた達が私にいいタイミングでお休みをくれたから、これだけ情報が揃えられたわ。本当に面白い情報ばかりよ。

 ……デロイ、ロンディ、マージル。あなた達の情報を隣国の機関に持って行こうって計画、ちゃんとあっちの知り合いに教えておいてあげたから。

 ……ジエル。フィーロがあなたの財産奪おうって計画立ててたの知らなかったでしょ。ジエルもここから盗んだお金をたんまり溜め込んでるんですもの。本当に面白いったら。

 ……アルレリア。あなたも運が無かったわね。本当は私もあなたの優秀さは認めていたのよ。でも他人の論文を取り上げて発表するのだけはいただけなかったわ。死人に口無しとはよく言ったものよね。

 ……無能上司ロイルさま。このセクハラ陰険野郎。あんたのせいでどれ程優秀な人材が辞めて行ったと思っているのよ。本当にあなたがいなくなればって常々思っていたんだけれど、ここで漸く実行出来るのが本当に嬉しいわ。

 ……あと、リーリア。あなたももう少し考えのある人だと思っていたのに、そんな無能上司の言葉を真に受けるなんてね。あなた気付いてないみたいだけど、そこのバカ男、他に愛人3人いるわよ。



「そして出て行く前に言った一言がこんなだったそうだ」


『もうちょっと時間を掛ければもっと面白い物が見つかったんだろうけど、このぐらいで妥協してあげる。まあその面白そうな情報の片鱗はその書類に書いてあるから、興味があったら調査してくださいな。それにしても、そろそろあなた達も役立たずで邪魔だと思っていたから丁度良かったわ。これでここも少しは風通しが良くなるかしら』


 さすがにの魔王も、彼女のとった行動に何も言葉が出なかった。


「偶然なんだが、その当時を知る人物と知り合いになったんだ。そいつは言っていたよ。彼もその当時、彼女を追い出す計画に乗らないか、と話を持ち掛けられた事があったらしいんだが、それを一蹴したんだと。それで無能上司からの風当たり強かったんだが、その事件を見てしみじみ敵に回らなくて良かった、と言っていたよ」




最初のお友達は……?


アマルさんの熱意に乾杯!

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