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13. 一応でも年上……?

大変遅くなりました。


最終改訂5/13



「ほら、行くぞ」

「うむ」

 そう言って二人して歩き始めたのだが、勇者の脳裏には一つの問題があった。


 何とか外に連れ出したのはいいが、一体何処へ連れて行ったものかな?


 最終的にはあそこに連れて行けば良いかな、など色々と考えながら歩いていたせいか、勇者はいつもの歩調で歩いていたことに気付いていなかった。

 大人と子供の足のコンパスは過分に差がある。当然のごとく、次第に魔王との距離が開きはじめていた。

 一方、魔王も勇者の歩調に必死に付いて行こうとしていたのだが、距離は開くばかり。最終的に、ムッとした表情で一言。

「遅い」

 後ろの方で聞こえたその声で、ようやく自分が考えにふけりすぎて魔王を置いてきた事に気付き、慌てて声のした方に視線を向けた勇者は驚いた。

 無造作に魔法を使って、魔王は自分の身体を浮かせ移動を開始していたからだ。

「お前は……」

 そう言って疲れたようなため息を吐く勇者。一方魔王は満足そうに笑みを浮かべ言った。

「これでもう遅れる事は無いぞ」

 満足そうに笑って横に浮いている魔王を見て、勇者は自分の行動を反省すると同時に魔王にもはっきりと言っておかなければいけないと思った。

「勇者。さあ、行こう」

 そう言って進もうとする魔王を呼びとめた。

「魔王、とりあえずその魔法を解け」

 どこか怒った表情の勇者に魔王は驚き、なぜ怒っているのか疑問に思いながらも言われた通り魔法を解く。

 すると勇者は膝を折って魔王と視線を合わせると、おもむろに頭を下げた。

「悪かった。お前を置いて先に行ってしまって」

 唐突に謝る勇者に、魔王は驚きに目を見張る。

「それと言って置きたい事がある。今後よっぽどの事が無い限り移動などに魔法は使うな。自分の足で歩いて出来る事をしろ」

「何を突然?」

 勇者の真剣な表情に、それ以上の言葉を噤んだ。

「お前は色々と知識を持っているかもしれない。だがその幼い身体はまだ未熟で未完成。成長している途中なんだ。子供っていう事もそうなんだが、人間誰しも自らの足で色々と見て回ってこそ得るものがある。学ぶものがたくさんある。お前には健常な足も手もある。人間誰しも動いて、そして使ってこそ成長は促されるんだ。だがそんな成長途中で楽を覚えてしまっては、成長を促すことは出来ない」

 そう言って言葉を切り、魔王の頭を乱暴になでた。

「俺も父親にそう言って諭された。自分の手足を使って出来る事からはじめろ、と。確かに小さい頃から俺も一通りの精霊が見えたりしていたし、それに精霊も望めば俺の望みを容易く叶えてくれた。けれどそうやって色々と楽して助けられる状況に甘んじていては、俺自身が何も進歩しない。最後にはそう言って怒られた事もある」

 勇者の真剣な表情をみて、魔王も彼が自分の事を思って言ってくれている事が理解出来た。乱暴に頭をなでられるのはちょっと止めて欲しいと思いつつも、それでも彼の言葉にいたわりに想いが込められていることは理解出来た。

「精霊がいればほとんど何でも出来る。けれどその状態に慣れきった場合、本当の自分自身に出来る事が分からないまま時を重ねて大人になってしまう」

 そう言って、勇者は苦笑を浮かべながら言葉を続ける。

「小さい頃の俺は父親の言葉をあまり理解出来なかったのもあったせいで、まあ、その……失敗はいくつかやってきた。というか旅をはじめた時もそうなんだが、はっきり言って失敗だらけなんだ。精霊がまったく呼び出せない状況に追い込まれた時に、本当にその事は痛感した。他にも魔法を覚えた時も色々と失敗はやらかしているんだ」

 魔王は語られる勇者の失敗談に、じっと耳を傾けた。

「中身は立派な大人かも知れないが、今の身体は立派な子供なんだ。子供の時は失敗も笑って許されるんだし、失敗してこそ得られるものも多い。だから今は魔法は使わず、子供の手足を使って出来る範囲でお前の出来る事を見つけ出せ」

 そこまで言って、勇者はどうやら照れくさくなったらしい。横を見ながら魔王の頭を軽く撫で言ったので、次に言った言葉に魔王が驚きに目を見張った姿を見損ねていた。

「あと、お前も歩き疲れたら俺に正直に言え。そうすれば俺が抱えて歩いてやるから」

 そう言った後、立ち上がり手を差し出した。

「ほら、手を出せ」

 差し出された手の真意が掴めず、その手をじっと見つめる。

「お、俺も悪かったとは自覚しているんだ。今度は置いていかないように、その、あー……手を、つないでやるから」

 次第にしどろもどろになって言う勇者の姿に、思わず笑みがこぼれる。最後の方は視線が微妙に泳いでいたのもおかしかったからだ。

「手をつないで歩けば、はぐれる心配は無くなるな」

 そう笑いながら言って、差し出された手を取った。




 手をつないで歩きながら、勇者は以前から疑問だった事を聞いた。

「ところで聞きたいんだが」

「なんだ?」

「何でお前は俺を勇者と呼ぶんだ?名前は立派にあるんだが……」

「それを言うならお前も私を魔王と呼ぶだろ。別に問題ないからいいじゃないか」

 言われて見れば確かに……じゃない。

「いや、それはそうなんだが……」

「それに『ジェイス』という名は偽名なのだろ」

「うぐっ。そ、それは確かにそうなんだが……」

 何故こいつはこんなに俺の名前を呼びたがるのだろうか。

「そんな似合わない名前でお前を呼ぼうとは思っていない。さらに言わせて貰えれば、本当はお前の本来の名前で呼びたいのだがそれは嫌なのだろ」

「……その名前で呼ばれた場合、どんな騒ぎが起こるか分かったものじゃないから出来れば止めてもらいたいデス」

 渋面を浮かべ、一本調子で返事を返す。


 似合わない名前とはっきり言われた。真正面から言い切られた。じっくり3秒考えて付けた偽名をあっさり似合わないの一言で切って捨てられた。


「私はお前を呼ぶならばお前の本来の名前で呼びたいのだが、お前はそれを由としない。だから呼ばないだけだ」

「何でお前はそんなに俺の元の名前に固執するんだ?」

 正直ここまで拘られる意味が理解出来なかった。

「?おかしな事を聞くな。名はその者の本質をあらわすものであろう。それに私はあの名前が好きだったからな」

 にっこり笑って元魔王(元男)に好きだと言われた。一応現在は娘だから別にそんな変な事でも無いだろうが……。


 なんだろうな。

 この胸をよぎる空しさ、というか複雑なモヤモヤ感は。 


「それに私もまだ『アリーシア』という存在になったからといって、すぐにその名前を受け入れるにはちょっとまだためらいがある。これでもまだ戸惑っているのだ」

 名前云々はともかく、新しい人生を十分色々と満喫していたようにも思うんだが……。

 人を、味見と称した実験台にしていたし。他も色々とあるが今は割愛させてもらおう。

「それに名前を呼び捨てにするにしても、娘が突然父親を呼び捨てにするのはおかしな事なのだろ」

 呼び捨てにする事、前提なんだな。

「一応俺年上……」

 とりあえず言ってみる。

「内面で言えば私の方がもっと年上だぞ」

 バッサリ一言で切り捨てられた。



 確かに相手は昔は魔王。1000年以上生きたと言われている存在である。方やこっちは呪われ最中とは言え50年そこそこ生きた程度。


 生きた年数の桁が違いすぎた。













   ―――――― ※ ――――――



 いいんだ。どうせ息子達に、何故か敵愾心むき出しに突っかかられてこられるような父親なんだ。ふーんだ。別に気にして無いさ、そんな些細な事。いつもの事なんだよ。息子達もある時期までは普通に接してくれてたのに、気付いたら何故か反応が真っ二つに別れたなんて些細な事なんだよ。気にすることじゃないんだ。敵愾心むき出しでは無いにしても、時折微妙な目で見られるような父親だよ。何故にそんな目で見られるか一番最初の方の息子達に聞いても、長男には「あはは」と笑って誤魔化されるし、次男は「仕方ないですよ」と言ってあさっての方角を向くし、三男は「そんな事はどうでもいいから仕事しろ」って取り合ってくれないし。……俺は俺なりに頑張って色々と教えていたんだぞ。小さな魔物から巨大魔物まで実地でしっかり護衛しつつ見せて回ったし、最終的にはベランドルウォズの倒し方までも懇切丁寧に教えたんだぞ。他にも湿地帯の歩き方や砂漠の横断方法裏技とか、果ては山岳地帯での美味しい食材の見つけ方とか色々教えたのに……。





 ぶつぶつ言いながら地面にしゃがみこんで、ガリガリと何かの落書きを書き続ける勇者。その背中には哀愁が漂っていた。

 魔王は、どうやら自分が何か余計な事を言い過ぎたのだと悟り、優しくその背中を叩いた。

「な、なんか色々悪かった。私が色々言い過ぎたみたいだな。素直に謝る。謝るからそろそろ行こう。な」



 しばらくの間、道の真ん中でいじける大人と、それをなだめる幼女の姿があったそうだ。





 ここで一つ豆知識。

 ベランドルウォズとは……。

 体長10メートルを超える超巨大生物である。初心者の冒険者であれば即死は確実の恐怖巨大生物なのだ。ベテランの冒険者でさえうかつに手を出そうとは思わない、危険度第一級の生き物である。

 その当時、最初の息子達にその事を話すと「父さん……」と言ったきり何かを堪えるかのように頭を抱えていたと、いう話もあったのだが今となっては昔の話である。




誤字脱字ありましたら報告お願いします。


今回の改訂でひとまず納得。

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