11.5 料理の裏話
後編です。前編は一つ前です。
最終改訂9/18
「あの包丁の持ち方は本で読んだんだ」
「どんな本なんだ」
誰だよ、そんな危ない本を書いたヤツ。
「確か題名は……『正しい男の仕留め方』だったっけ?あ、違う。『正しい男の射止め方108選』だ。間違えた。たしかあの包丁の持ち方は……何だっけ?何かの表現方法応用編、だった気がするんだが……」
『し』と『い』、一文字違うだけで大きく意味合いが違ってくる。単純な意味合い的には似たり寄ったりだが、他の意味も考えると大きく違う。
された行動を思うと、仕留める方でも間違いでは無い気はするが……。
「何でまたそんな本を読んでるんだよ。お前、前は男だっただろ」
題名を聞く限り、どう考えても男の読むような本では無い。
「いや、それがな。配下の一人に、『陛下は女性の心情をまったく理解されておりません。これでも読んで女性の機微に気付く努力をなさってください』って怒られてな」
どれだけひどかったんだ、と思わず突っ込みそうになった。
それ以上に何故そんな本を配下が持っていたのか、そちらの方が気になる。
「それにしても、本の内容はかなり恐ろしいものだったんだぞ」
恐怖に震えるかのように言った魔王の言葉に、勇者は首を傾げた。
題名を聞く限り、それほど恐ろしい話でも無いと思うんだが……。
「一番悲惨だったのが、男を捕まえるためにまず胃袋を掴めという項目だ。そんな血みどろの状態で男を捕まえて、その後は一体どうするんだろうとしばらく悩んだものだ」
……どうやら、理解するほうに問題があったようだ。
「あー、魔王。それは意味がちょっと違う」
「それにあの包丁の持ち方だろ。確か項目は……正しい喧嘩の仕方、だったっけ?ああ、そうだ。最初の持ち方は『真夜中の喧嘩の仕方・応用編』に載っていたんだ。そう言えばそうだったな。私たちは喧嘩をしているんじゃないからあの持ち方は正しく無かったな」
ちょっと待ってくれ。確か、今回俺は料理をするだけだったはずだ。包丁は料理に使うためにあるものであって、人間を捌くために使うものでは無い。それ以上に、普通に喧嘩をする場合にもあんな危険物は普通は使わない。使った場合、確実に殺人事件に発展する。
「二つ目の持ち方の方は……ええと、確か何かを退治するときに……えーと、そうだ。とっさの賊の対処法第5項だ」
その1~4項目が一体どういう内容になっているのかが非常に気になる。
さらに疑問が残るんだが、何故射止めるはずが仕留める話になっているのだろうか。
「正直、どこから訂正すれば良いのか分からんぞ」
思わず天を仰ぎ、うめくように言った。
しばらく後。
何とか気を取り直して、勇者には一番聞いておかなければいけないことがあった。
「その本の著者は誰なんだ?」
魔王が読んでいた、というのであれば50年以上経過している。それならばその本はもう出版終了しているだろうし、それ以上に作者もいないだろう。だがもし、という場合がある。そんな危険書物をは即刻処分してもらう必要があった。
「えっと、確か著者はリヴィツ・エイワークだったかな。男が書いているのに女の心情の機微に詳しいって」
その名前を聞いた瞬間、勇者の顔に笑みが広がった。黒い、笑みが……。
魔王はそんな勇者を見て、顔を青くして即座に部屋の隅に逃げ出した。
勇者の脳裏に描き出されるのは、魔王を倒すためのあの辛く厳しい旅の最中での出来事。
素敵な人ねと絡まれ、良いお尻ねとなで回され、私の愛を受け止めてと襲われかけ……。
もはや悪夢に等しい思い出だ。
そしてあの戦いの後は、名残惜しいわと再び襲われかけ、呪われた後に出会えば若さの秘訣は!?と激しく問い詰められ…………。
俺とは違い呪いなんて受けてないにもかかわらず、昔と変わらない姿に恐怖を覚えたのが懐かしい。
どの記憶をたどっても、あいつに関わる話しに碌なものは何一つ無かった。
そして―――
止めとばかりに、今回のこの出来事だ。
あの問題だらけの カ マ 野 郎 が っ ! !
…………よし。
責任持ってヤツを殺ろう。
そう考えて握りこぶしを握りながら凄惨な笑みを浮かべる勇者の姿を、魔王は椅子の陰からそっと見つめていた。
―――――― ※ ――――――
―――数日後。
夜中のとある街中。
突如として悲鳴と怒声が響き渡る。
その声は「お前のせいだぁぁ!!」とか「何をしたって言うのよ~」などという激しい言い合いと、物が壊れる音が響き渡っていたそうだ。
後日。
新聞の隅の方に、小さく記された事件が一つあった。
女性に人気の作家が自宅で暴漢に襲われた、という記事だ。
だが彼はそれを大事にすることなく、真相にも口をつぐんでいたそうだ。
ぼろぼろの姿だったが、それに反するかのようにその表情はどこか満足げだった、と近隣の者は語ったそうだ。
話しの進みが激しく遅いです。
これでまだ二日目……。
次話はもう少し日を進めたいと思います。




