侍女の姿に封印された魔王に遭遇したのですが、原因は国王陛下でした〜帰ってきた伯爵令嬢セシリアは、またまた修羅場に遭遇する〜
婚約式を翌日に控え、私、伯爵令嬢であるセシリア・アースキンはその日の打ち合わせをようやく終えたばかりだった。
式次第の確認、立ち位置、招待客、衣装、入退場の順番。
覚えることは多かったけれど、一度説明された内容なら問題はない。
「疲れてないか?」
「少しだけ」
「僕もだ。少し歩こうか?」
「ええ」
部屋に戻るにはまだ早かったので、婚約者である王太子アドリアン・レオポルド・ヴァルディエールと王宮の庭へ出ることにした。
明日、私たちは正式に婚約する。
そう考えると、少し不思議だった。
最初に出会った時は、私は婚約者の情事を目撃した直後。
そして、殿下は元婚約者の妊娠を前に、『僕は童貞なのに!?』と叫んでいたのに。
「……何だ?」
「いえ。初めてお会いした時のことを思い出していただけです」
「忘れてくれ」
「無理です」
「明日婚約する相手との出会いとして、最悪じゃないか」
「印象には残りました」
「それを喜んでいいのか分からないな……」
そんな話をしながら回廊を抜けたところで、聞き覚えのある声がした。
「ですから殿下。悪役令嬢というものがおりまして……」
「悪役令嬢?」
庭園の隅に置かれた長椅子に、アドリアン殿下の弟――以前、白い結婚の人形遊びをしていた第二王子が座っていた。
その前に、一人の侍女が立っている。
「はい。悪役令嬢は王子の婚約者なのですが、聖女や男爵令嬢へ嫌がらせをして、最後には断罪されるのです」
「断罪……」
「最近はそこから逆転するお話が主流です」
「逆転!」
「そして王子は破滅するパターンと、再び追いかけるパターンがあります」
「そうなんだ!」
「断罪された瞬間、別人格に成り変わることもあります」
「別人格!」
「もしくは、本物の悪女を目指すことも」
「待て」
殿下が割って入ると、侍女が振り返る。
「あら、王太子殿下」
「あら、じゃない。何を弟に吹き込んでるんだ」
「面白いお話だよ!今度弟と妹に会った時、話すんだ!」
その目は、相変わらず曇りなき瞳で輝いている。
「お前のせいか!人形で王太子の破滅を何回も繰り返すよう、仕込んだのは!」
「うん。この人に教えてもらった」
「やっぱり!」
長年の謎が一つ解けた。
それほど長年でもないけれど。
「殿下。子供に物語を聞かせることの何がいけないのでしょう」
「内容だ!なんで王太子が不幸になる話ばかりなんだ!」
「世の中には、色々な王太子がおりますので」
「偏りすぎだろう!」
確かに……
白い結婚。
婚約破棄。
断罪。
愛人。
ループ。
第二王子の人形遊びが妙に殺伐としていた理由が、よく分かった。
「他にはどんなお話を?」
「セシリア、聞くな。増えるぞ」
「少し気になりまして」
「病弱な幼馴染に婚約者を奪われるお話や、夫の愛人に家を追い出されるお話、結婚した途端に義家族から虐げられるお話なども」
「やはり偏っておりますわね」
「でしょう?」
侍女はにこりと笑った。
「ですから、結婚とは恐ろしいものなのです」
「……」
何かがおかしい。
「この子に、結婚してほしくないのですか?」
「もちろんです」
予想外の回答に、アドリアン殿下も眉を寄せる。
「なぜ?」
「結婚しなければ、子供は生まれませんから」
「……はい?」
「結婚する人間が減れば、子供も減る。子供が減れば、次の世代も減る」
侍女の笑顔が変わった。
「百年、二百年。ゆっくりと人間は減っていく」
「……」
「そして、なんやかんやでいつか滅びる」
なんやかんや……私はアドリアン殿下を見る。
殿下もこちらを見た。
「……お前、何者だ?」
侍女は答えない。
「そもそも本当に侍女か?身元確認はどうなってる!?」
「……この姿に封じられたのだ」
「封じられた?誰に?」
侍女の顔が歪む。
「国王に」
「父上!?」
殿下の声が庭に響いた。
「お前、父上と何があった!?」
「奴は……勇者だった」
「…………は?」
アドリアン殿下が固まった。
「父上が勇者?」
「そうだ!聖剣を持って魔王城へ乗り込み、我が配下を次々と倒し、最後には私まで封じた!」
「……」
私は侍女を見る。
「では、あなたが魔王?」
「そうだ!」
魔王とは、こんなに近くにいるものなのか……
「なぜ魔王が王宮で侍女を?」
「好きでやっていると思うか!?」
「でも、ずいぶん長く働いていらっしゃいますよね」
「封印されているから逃げられないのだ!」
真面目な方なのかもしれない。
「それで、人間を滅ぼすために結婚すると不幸になる話を広めていたのか?」
「そうだ」
「遠回りすぎないか?」
私もそう思う。
「もっと瘴気を撒き散らすとか、魔族を無限に湧かせるとか……いくらでもやりようはあるのではありませんか?」
「!?」
魔王が目を見開き、私を見た。
「なんと恐ろしいことを考えるんだ!?貴様、人の心はないのか!?」
「……魔王に言われたくありません」
「セシリアの案の方が魔王らしいぞ」
「そんなことをすれば、人間が団結するだろう!」
魔王が怒鳴った。
「効率のお話をしただけです」
「勇者が現れる!聖女も騎士も魔術師も、皆でこちらへ攻め込んでくる!どこが効率がいいんだ!?」
「なるほど」
一瞬納得しかけたけれど、以前会った聖女は目を光らせるだけだった。
目を光らすだけで、そう簡単に魔王を倒せるのだろうか。
「だから気づかれないよう、人間を少しずつ減らすのだ!」
「気の長い計画ですわね」
「魔族は長命だからな!」
そこは便利らしい。
「でも、せっかく女性になったのなら、陛下を誘惑したらよかったのでは?」
「セシリア!?」
殿下がこちらを見る。
「勇者を倒したいのでしょう?寝所まで入り込めれば、毒なり短剣なり――」
「だから発想が怖いんだ!」
「もしくは、籠絡して婚姻を結ぶという手も…」
「あいつは、ちゃっかり自分の好みとは正反対の女の姿に封じたんだ!」
魔王が悔しそうに言った。
「髪も!顔も!体型も!すべてだ!」
「ずいぶん細かく指定したのですね」
「そこに食いつくのか!?」
「呼んだか?」
「父上!」
背後から声がして、振り返ると国王陛下がいた。
どうやら庭を歩いていたらしい。
「何だ、バレてしまったか」
「バレてしまったか、じゃありません!父上、勇者だったんですか!?」
「昔ちょっとな」
「ちょっとで魔王を倒せるわけないでしょう!」
「転生したら聖剣が抜けたから、せっかくだし」
軽い。
ハンバーグに混ぜ込むパン粉よりも軽い。
「ハンバーグの語源を嬉しそうに説明していた方と同一人物とは思えませんわ」
「勇者だってハンバーグくらい好きだ」
それはそうなのだろうか。
「それで父上、なぜ魔王を侍女に?」
「倒しても何百年か経つと復活するみたいだからな。だったら封じて見えるところにおいた方が安心だろう?」
「そこまでは分かります」
「剣に封じる案もあったんだが、剣じゃ働けないからな」
「そこから分かりません!」
国王陛下が魔王を見る。
「今日も真面目によく働いてるな」
「貴様……!」
「好みと正反対にしたのも当然だろ。誘惑されたら困るし」
「父上、そこまで考えて……」
「あと好みの姿にしたら王妃に怒られる」
「台無しです!」
勇者としての評価が上がって、すぐ元に戻った。
「だが!残念だったな!お前の少子化計画は失敗する!」
アドリアン殿下が魔王を指差した。
「なにぃ!?なぜだ!!?」
「僕とセシリアは明日、婚約する!」
「それは知っている」
「そして、近い内に結婚する!」
「それも知っている」
「きっとベビーブームが来るはずだ!」
なぜか殿下が胸を張った。
「……」
魔王が私を見る。
国王陛下も私を見る。
第二王子までこちらを見ている。
「……私としては、白い結婚でもよろしいですよ」
「やめてくれ!?」
「お兄様、白い結婚するの?」
「しない!」
「でも明日の婚約式で――」
「お前も変な話を忘れろ!」
アドリアン殿下の声が庭に響いた。
魔王による人類滅亡計画がどうなるのかは分からない。
とりあえず、明日の婚約式は予定通り行われることになりそうだった。
お久しぶりのセシリアは、やっぱり次々に修羅場に遭遇します。
また、短編を公開できればと思っているので、お待ちいただけると嬉しいです。
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