表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
実録!幽霊譚  作者: はまゆう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/1

第1話 息を吐きかける男 ~般若心経が拒まれた夜~

子供の頃から、ずっと霊感が強かった。

見えないものが視える。感じないはずの気配が、肌にまとわりつく。


母方の親族は全員同じだった。もともとは白蛇を祀る新潟の神社出身の一族。神仏習合のせいかお寺さんも親類には多い。親戚一同集まる時はいつも何処どこの伯母さんの亡くなった時の怪異現象とかの共通霊体験を思い出話にしているのを子供の頃から聴いていた。

幽霊、霊、怨念——呼び方はなんでもいい。でも、それらは確かにそこにいる。

そんな私が経験した怪異譚を書いていきたいと思う。


第1話は昨夜の体験。

このところ、夜中に眠っていると、誰かがベッドに近づいてくる気配がする。ゆっくり、確実に。枕元まで来て、顔をぐっと近づけてくる。そして、息を吐きかけるのだ。

若い男性の息だった。少し汗ばんだような、男の子の体臭と混じった、熱を帯びた吐息。皮膚の匂いや体温まで鮮明に感じる。目を開けると、そこには誰もいない。ただ、頰に残る湿った温もりと、鼻腔に残るその臭いだけ。

最初の二回は、私は慌ててスマホを手に取り、いつもの動画を探した。YouTubeで「永平寺の般若心経」。僧侶たちがひたすら唱える、約1時間の回向動画だ。静かな読経の声が部屋に満ちると、いつもは不思議とあの気配が遠ざかる。心が落ち着き、深い眠りにつける。過去二回、それで乗り切った。

昨夜もそうしようと思った。

布団の中でスマホを操作し、検索窓に「永平寺 般若心経」と打ち込む。出てきたサムネイルをタップ。動画が読み込まれ、再生ボタンを押す。

……しかし、流れてきたのは違う音だった。

低く、重い電子音楽。まるでホラー映画のBGMのような、不協和音の塊。慌てて停止し、もう一度同じ動画を選ぶ。再生。

また違う。今回は激しいロック調のギターが耳を刺す。

「なんで……?」

三回目、四回目。検索し直し、履歴から直接開き直し、再起動までした。スマホを完全にオフにしてから立ち上げ、Wi-Fiを切り替えてみる。どれも無駄だった。

五回目。画面に映ったのは、まったく見覚えのない音楽動画。派手なビジュアルと、意味不明の歌詞が流れ出す。CMではない。別の動画。試しに他の動画をクリックすると他の動画は普通に見れる。

般若心経の動画だけが、なぜか絶対に再生されない。

その瞬間、背筋に冷たいものが走った。

これは、ただのバグじゃない。誰かが——あの息を吐きかけてくる「何か」が——邪魔をしている。般若心経より強力な、何か。

私はスマホを握りしめたまま、布団の中で固まった。部屋の暗闇が、急に濃くなった気がした。枕元の空気が、重く淀んでいる。

また、近づいてくる気配。

若い男の、熱い息が……今度は、耳元で。

「…………」

私は目を閉じ、ただ祈るように心の中で般若心経を唱え続けた。でも、声は震えていた。

昨夜の私は、結局朝までほとんど眠れなかった。

この体験は、まだ終わっていない。

子供の頃から続く私の霊感が、警告を発している。

これ以上エスカレートしないでほしい。

(了)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ