塵も積もれば
最近、ガルスガルスガルスがコツコツという音を立てない。
大好物のシルクもどきの殻を嘴でつついて音を立てる遊びが好きなガルスガルスガルスは一頃リビングやキッチンで実行し、たまたま居合わせたグルステルリィラに五月蝿がられていた。
カナンが防音(音を立てることに意味がある為 "消"音はガルスガルスガルスからダメ出しをされた) の結界を張れるようになってからはガルスガルスガルスとシルクもどきを一纏めに覆うことで限定的に解決していたが、つつくシルクもどきを毎回変えられるのでは都度都度掛けるしかなく、そうそう都合良くガルスガルスガルスがつつきたくなった時にカナンがそばにいるものではない(外でやらないのは収穫されたシルクもどきで、という条件付けがあるようだからだ。明言されたことはないが、木の根元に落ちているものをつついている姿をカナンは見たことがない。また、誰からも見たという話を聞いたことがない。だからといってしていないと断言出来るものではないが、そこは厳密にしたいほどのことでもないので曖昧なままだ)。
いない時に欲求を抑え切れず手を出し、そういう時に限ってグルステルリィラがリビングで午睡中、では不興を買わないわけがない。
グルステルリィラのつっかかりはじゃれ合いの意味もあったが、五月蝿いことは五月蝿いようで、結界で音をシャットアウトしたことに残念がったり寂しがったりする様子を見せたことはなく、音を立てずにシルクもどきをつつくガルスガルスガルスを始めて見た時、妙に上から目線な表情で頷いていた。
…………のだが。
その日、カナンはガルスガルスガルスにもシルクもどきにも防音の結界を施してはいなかった。
にもかかわらず、目の前のキッチンカウンターの上で、いつも通り収穫したばかりのシルクもどきを頻りにガルスガルスガルスがつついても一切音がしない。
「……」
食器洗いの手を止め、じっと見つめてくるカナンにはお構いなしにガルスガルスガルスはつつく行為を止めない。
一見、常と違う様子は窺えない。
しかし、暫くそうして見続けていると、何やらガルスガルスガルスとシルクもどきの双方に不可解な気配が覆い被さっていることに気付いた。
魔法? 魔力?
カナンのものではない。
ガルスガルスガルスには違和感はなく、当人のものと言われれば納得出来る馴染み方をしている。
対してシルクもどきを覆っている何かからはガルスガルスガルスの気配がする。
まさか、ガルスガルスガルスが何かしらの力を使っている?
カナンの使える防音の結界は共有出来ていないので使えない筈。
それ以外の力?
スキル?
ガルスガルスガルスの保有スキルにそのようなものがあったか?
「…………」
もはや当人に聞く以外に解決のしようがない、と諦めてカナンが口を開きかけた時、
「いっちょーかいとくてーーーーんっ」
と、能天気なお調子者口調で回答を提示してきたのは、ああ、そっち由来か、と溜息をつきたくなるゲーム運営関係者。
「"いっちょーかい" は "一兆回" ?」
漢字のイメージを共有域越しに頭上に顕現したジョシュアへ向ければ、「そーそー」とやはり無駄に軽い声音で肯定してきた。
「最初はクマゲラの一日のつつき回数が最多で12000回ていうからクマゲラの大体の寿命の10年を掛けて43800000回にしようと思ったんだけど、ガルスガルスガルスに寿命ないしゲームだし、んな回数直ぐにクリアされそうでつまんなかったから一兆回にしたんだったかなあ」
何を?
防音スキルの獲得条件を。
…………らしい。
「うるさいってクレームがそこそこあって、でもあっさり応えるのも癪に障るーって誰かさんがぶーたれたんだよなあ」
クレームはプレイヤー、ぶーたれたのはA氏か。
しかし、多いのか少ないのか、今一つ判断のつきかねる回数だ。
意図的に達成しようとするならジョシュアの言うように所詮ゲームだ、そう難易度の高い条件にも思えないが、リアルな命となり、ガルスガルスガルスの自主性に任せてしまうと、数百年もかけてということになるのだと実証された。
何がなんでも必要とするスキルではないのだ、そのくらいのいい加減さでも構わないだろうと言われてしまえば、頑迷に否定しようという気にもなれない。
「………………」
カナン不在でもガルスガルスガルスが好きにつつけるようになったのだから、ここは素直に良かったねとでも言っておくべきか。
「どーでもいーことだろーけどうるう日抜きの換算なー」
確かにどうでもいい(結局採用されなかったのだし)。
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26 生活音?




