るるの苦悩
ドアの前にユウキが立っている
近づこうと思うと、不便すぎる体に驚いた。
慣れない足の長さ、柔らかい膝。踏ん張ろうとしても力が入らない。
俺はそのままユウキの前でずっこけてしまった。
「るる、どうしたんだ? 転んだのか?」
ユウキが慌てて駆け寄ってくる。近い、近い、近すぎる。エロゲーでよくある“ヒロインのパンツが見える角度”でしゃがみ込むんじゃない…!
「だ、大丈夫…っす。」
声が上ずった。いや、俺が上ずらせたんじゃない。声帯が勝手に上ずるんだ。胡桃沢るるの声帯が。
ユウキは俺の顔を覗き込み、優しく微笑んだ後、少し真剣そうな顔になった。
「…るるは俺とキスの練習がしたいと思うんだが、今日は伝えたい大事な事があってな」
背景がキラキラと光り始めた。
「お、おい待て。待てユウキ、落ち着け! これは――」
(あっ、これイベント発生時のやつだ…)
画面の外から見ていた時は「おお〜神絵!」くらいのテンションだったのに、当事者側に立つとただの恐怖だ。
距離がゼロに近づく、息が触れそうな距離。
胸の奥がざわつく。
これは恋とかじゃない。
危機感。
「その…俺と付き合ってくれないか。」
「や、やめ……いや、違う……その……!」
(なんでこんな展開早いんだよ….)
言語能力が崩壊していく。
あまスクにこんなボイスあったな……デレ始めのやつ。
ちっ違う、俺はデレてない。中身は28歳のおっさんなんだって!!
すると――
ピコン。
頭の中に、文字が浮かんだ。
【選択肢】①「ユウキの事なんか別に好きじゃないから!!」②「ごっごめん!ちょっと考えさせて…//」③(黙って見つめ返す)
よりによってこのタイミングで!?なんだよ③の罠みたいなやつ!!やったら即恋愛ルート加速じゃねえか…
俺がパニック状態で選択肢の前でもがいていると――
ピコン。
【一定時間経過。自動選択されます】
「やめろやめろやめろやめろ!!!?」
画面が勝手に揺れる。
……ぽちっ。
選ばれたのは――
③(黙って見つめ返す)
「なんでよりによってそれなんだよおおお!!!!!?」
ユウキが顔を赤くし、目を細める。
「……るる、そんな目で見られたら……」
「やめろ、言うな! フラグ立てるな!!」
「……俺、ドキッとするだろ」
部屋の空気が一気に甘くなる。いや甘くすんな!俺の精神が死ぬ!!
ユウキがそっと手を伸ばしてくる。俺は反射的に後ずさり――壁に背中をつけた。
逃げ場なし。
(これ……完全に“えっちイベント”の流れじゃねぇか……!!)
終わった。
物理的にも精神的にも、完全に詰んだ。




