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さよなら、  作者: 菜の花
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さよなら、あの日の愛情

 一目惚れしたふわふわが

 どうしてもほしいと

 ねだったのはあの日が初めてだった


 しょうがないなぁ。

 そう呆れるように言った

 嬉しそうな母の笑顔を

 今も鮮明に覚えている


 いつも無表情なぼくは

 踊る胸をうまく隠しきれずに

 満面の笑みを浮かべて

 買ってもらったばかりのふわふわを

 ぎゅっと抱きしめたまま

 家に帰っていったらしい


 その日からぼくは

 ふわふわと生活を共にした

 朝起きて挨拶をする

 一緒にお出かけをする

 いってきますもただいまも

 寝る前のおやすみも欠かさない


 ふわふわ。ふわふわ。

 呼んだ名前は愛しくて

 適当につけたあだ名だけれど

 我ながらいい名前だなぁ、なんて


 一年、二年、三年。

 四年、五年、六年。

 いつしか呼ばなくなってゆく

 一緒にお出かけしなくなってゆく


 ふわふわはいつしか

 物置きの中に閉じ込められた

 顔を見ない日が一日、二日。

 一年、二年、増えてゆく


 存在すらも忘れてしまった

 あの日一目惚れをして

 どうしてもとねだったふわふわは

 知らぬ間に僕の脳内から消えていた


 数年後

 一人暮らしを始めることにした

 部屋の中を掃除して

 物置きの中も片付けて


 見つけた

 埃を被って

 真っ黒になったふわふわ


 汚い。

 僕は思わず口にした

 あれほど共に過ごしたふわふわに

 僕は。


 すぐに後悔をした

 口にしてしまったなら

 それはふわふわに届いてしまっただろう


 許されるとは思わないけれど

 僕はふわふわを洗ってやることにした

 久しぶりだね、こんなふうに

 一緒にお風呂に入るのは

 もうあの頃のように

 純粋に愛してやれないかもしれないけれど


 ふわふわ。ふわふわ。

 もう一度一緒に過ごそうか

 毎日一緒に出掛けるなんて

 そんな子供みたいなこと

 もうできないかもしれないけれど


 綺麗に洗い流された汚れと

 あの頃の愛情にさよならをして

 僕はふわふわをスーツケースのに詰め込んだ

 中ではふわふわが微笑んでいるような気がした

ご覧いただきありがとうございました。


大切だったものとさよなら。

誰かに届きますように。

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