さよなら、ひとりぼっち
教室が声で溢れる前に
私はひとり自分の席に座って
何度も読み返した本を開く
人のいる教室にはいるのは
少し勇気が必要だから
私はいつも一番に学校へ行く
友人同士で会話しているところに
ガラリと音を立てて扉を開けようものなら
クラスメイトの視線を浴びるだろう
友達が来たかな?
あぁ、違った
喋ったこともない人だ
空気のような人だ
そう思ってるのが見え見えの
気まずい視線だ
発された「おはよう」は
きっと清々しいものではない
気まずさを感じたくないから
朝早くの教室で本を読む
本を開いていれば
物語の一端に立っていれば
話しかけられることもない
ページの向こうでは
主人公が「おはよう。はじめまして」と笑っていた
クラスメイトはそれにこう返した
「おはよう。はじめまして」
私にはできなかったことを
主人公は平然とやってのけた
寂しかった
味方だったはずの物語が
私を置いていってしまう気がした
まるでブックカバーみたいで
守ってくれていたのは表面上だけだった
寂しさから目を背けて
ページを捲っていく
主人公は言った
「僕には上手な話なんてできないから
とりあえず今は挨拶だけするよ」
主人公は本当に
挨拶だけをしていた
おはようと、さよなら
ありがとうと、ごめんなさい
それだけで
それだけの細い糸で
誰かと繋がっていた
ああ、そうか
いきなり上手に話さなくたっていいんだ
無理に会話を繋げようだなんて
今の私にできやしないんだから
ゆっくりと本を閉じる
知らない間に教室は声であふれていた
「おはよう。」
「おはよう!」
クラスメイトが言葉を交わしている
前の席の子はまだ来ていない
じゃあ、こうしよう
今日は前の席の子に
「おはよう」を伝えてみよう
明日は隣の席の子に
「おはよう」を
そうやって広げていけば
みんなと「おはよう」で繋がれるんだから
閉じた本のタイトルをなぞる
『さよなら、ひとりぼっち』
きっと私は
もうひとりじゃない
ご覧いただきありがとうございました。
ひとりぼっちに、さよなら。
誰かに届きますように。




