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喪失



雨が降っていた。


当然だ。まるで空がこの日を他の日よりもさらにクソッタレにしようと決めたかのように。エリアスは安っぽい合板の棺桶に雨水が滴り落ちるのを見つめていた。棺桶が穴の中に降ろされていく。本物の金属製の取っ手すらない――古いスーツケースから取り外したようなプラスチック製の代物だった。


これがアリアの棺だった。クソッタレなスーツケースだ。


「塵は塵に、灰は灰に...」


神父がいつものセリフを垂れ流していた。エリアス同様、退屈そうに見えた。きっと貧乏な子供たちの葬式を執り行うのにうんざりしているのだろう。きっと家に帰ってテレビを見たがっているのだろう。


エリアスは穴の周りの人数を数えた。12人。アリアにお別れを言うために来た人が12人。彼女をほとんど知らない近所の人たち、隣のアパートのガルシア夫人は彼よりも大声で泣いていた、それから見覚えのない人たち。自分のクソッタレな人生を少しでもマシに感じるために無料の葬式に来る見知らぬ人たち。


12人。世界全体に値する少女のために。


神父が話すのをやめた。奇妙な沈黙が訪れた。みんなが彼を見ていた。ああ、そうか、今度は自分が何か言う番だった。


「僕は...えーと...」


言葉が出てこなかった。昨夜、頭の中でリハーサルしていたのに。アリアがどれほど素晴らしかったか、どれほど勇敢だったか、この糞みたいな墓地での糞みたいな最期よりもっと良いものに値したか、そう言うつもりだった。


でも、こうしてみんなの視線を浴びると、もう考えることができなかった。


「彼女は...バラの絵を描くのが好きでした。」


クソ、なんてつまらないことを。これが言える全てだったのか?バラの絵を描くのが好きだった?


「本物のバラを見たことは一度もありませんでした。ただ...写真でだけ。だから、いつもバラを描いていました。」彼の声は5歳の子供のように震えていた。「赤いバラ、白いバラ、黄色いバラ。アパート中に自分の絵を貼っていました。まるで...まるで窓のようだって言っていました...」


続けることができなかった。涙で視界がぼやけ、喉が完全に詰まってしまった。


「もっと美しい場所への窓だって」彼はささやくように言った。


誰かが「アーメン」と言った。他の人たちも繰り返した。そして一人ずつ立ち去り始めた。肩を軽く叩きながら「お悔やみ申し上げます」や「彼女は今、より良い世界にいます」といった決まり文句をつぶやいていった。何の意味もない定型句だった。


すぐに彼とガルシア夫人だけが残った。


「少し一緒にいましょうか、ミホ?」彼女が尋ねた。


エリアスは首を振った。アリアと二人きりでいたかった。最後の一度だけ。


ガルシア夫人は足を引きずりながら去っていった。エリアスは彼女が立ち去るときに墓地の門がきしむ音を聞いた。そして静寂。雨が葉に降る音と遠くの街の低いうなり声だけ。


彼はポケットからアリアが描いた最後の絵を取り出した。死ぬ3日前に描いたもの。花びらがあちこちに散らばった赤いバラ、まるで彼女にはクレヨンをしっかり握る力がなかったかのように。下に「エリアスへ」と傾いた文字で書いてあった。


それを手元に置いておきたかった。でも同時に、彼女と一緒に持って行ってもらいたかった。


彼は穴の上に身を乗り出した。棺桶はすでに土で覆われていた。墓掘り人たちは急いでやった。まるで仕事を終えて逃げ出したがっているかのように。


「はい、妹」


彼は絵を手放した。紙は湿った空気の中でしばらく舞い、それから濡れた土の上に舞い降りた。雨でインクがすでににじみ始めていた。


エリアスは墓の隣の地面に座った。ズボンが汚れることなんてどうでもよかった――どうせこれが彼の持っている唯一のスーツで、葬式のために中古で買ったものだった。もう二度と着ることはないだろう。


「クソ、アリア。クソッタレだ。」


狂人のように一人で話していたが、そんなことはどうでもよかった。


「これからどうすればいいんだ?え?君なしでどうやっていけばいいんだ?」


彼らが最後に話したときのことをまだ覚えていた。彼女はとても弱っていて、聞くために耳を彼女の口に近づけなければならなかった。


「エリアス...天国には本物のバラがあると思う?」


何と答えたんだっけ?ああ、そうだ。「たくさんあるよ、妹。君だけのための庭園全体が。」


そして彼女は微笑んだ。痛みでいっぱいでも彼を喜ばせようとするときの、あの疲れた小さな微笑み。


「私がいなくなったら、バカなことはしないって約束して?」


「約束する。」


また嘘だった。彼女が死んでからすでにたくさんのバカなことをしていたし、きっとこれからもするだろう。


彼は携帯電話を取り出した。彼女の写真を見た。あまり多くはなかった――カメラ付きの携帯電話は高かった。でもいくつかはあった。舌を出すアリア。誇らしげに絵を見せるアリア。リビングの古い肘掛け椅子で眠るアリア、色鉛筆をまだ手に握ったまま。


この最後の写真では、彼女がどれほど痩せていたかがよく分かった。頬はこけ、腕は細かった。壊れやすい小鳥のように。


ヘリックスの野郎どもが死なせた小鳥。


怒りが一気に込み上げてきた。熱く、馴染み深い。エリアスは拳を握りしめ、爪が手のひらに食い込んだ。


彼らは知っていた。その野郎どもは自分たちの薬がクソだということを知っていた。何の役にも立たない色のついた粉末だということを。それでも彼の家族のような絶望的な家族に売り続けた。子供たちが死んでいく間、笑顔で金を受け取った。


そして今、アリアが穴の中で腐っている間、彼らは美しい家で安らかに眠っている。


「ぶっ潰してやる」彼は歯を食いしばって呟いた。「全員ぶっ潰してやる、クソ野郎ども。」


でもそう言いながらも、それがただの言葉だということを知っていた。彼に何ができるというのか?金もコネも何もない16歳のガキに?彼らは手の届かない存在だった。弁護士や買収された政治家に守られて。


彼は誰でもなかった。何の価値もなかった。


アリアが何の価値もなかったのと全く同じように。


雨がやむまでそこに座っていた。それからさらにしばらく。太陽が雲の間から差し込み、墓石の間の水たまりを輝かせていた。別の状況なら美しかったかもしれない。アリアは濡れた草の上のこの金色の光を気に入っただろう。


お尻は完全に濡れて寒くなり始めていたが、動くことができなかった。まるで立ち上がって去ることが、彼女を永遠に見捨てることを意味するかのように。


そのとき、近づいてくる声が聞こえた。


「...本当にあそこにいるのか?」


「ああ、おばさんが墓地に残ってるって言ってた。」


エリアスは頭を上げた。墓石の間を3つの人影が近づいてきた。すぐに分かった:マーカス・ヴォルトと2人の仲間、トミーとビッグ・ジョー。ヘリックス工場の同僚たち。日々の拷問者たち。


ここで何をしているんだ?


マーカスは数メートル離れたところで立ち止まった。いつもの笑み、何か嫌なことが起こりそうな意味の込められた薄笑い。


「やあやあ。癇癪を起こしている小さな孤児だ。」


エリアスはゆっくりと立ち上がった。長時間地面に座っていたせいで脚が固まっていた。


「何が欲しいんだ?」


「君の様子を見に来ただけさ」マーカスは嘲笑った。「心配してたんだよ。3日間仕事に来てないからな。」


「妹が死んだんだ。」


「ああ、そうだった。病気の子だったね。」マーカスは考えるふりをした。「名前は何だったっけ?アリア?どうやって死んだんだ?癌?結核?」


エリアスは手が震えるのを感じた。「黙れ。」


「おお、図星か。悪かったな、デリケートな話題だったのを忘れてた。」マーカスはさらに近づいた。「教えてくれ、いつ仕事に戻るんだ?君のポストが永遠に空いたままじゃいられないからな。」


「分からない。」


「分からないって?」トミーが笑った。「分からないって言ってるぞ、みんな。」


「つまりさ」マーカスが続けた。「君の妹は薬代が高くついてただろ?今彼女がいなくなったから、出費が減った。仕事で生意気なことを言う余裕ができたかもしれないな。」


彼の声に何か奇妙なものがあった。まるで喧嘩を売っているかのように。エリアスがキレることを望んでいるかのように。


「それとも」ビッグ・ジョーが言った。「お父さんみたいになるのか?事態が厳しくなったら姿をくらますのか?」


それが決定打だった。


エリアスはビッグ・ジョーに向かって飛びかかった、拳を前に出して。しかし悲しみと疲労でまだ弱く鈍かった。ビッグ・ジョーは簡単にかわし、脇腹にフックを叩き込んだ。


エリアスは息が詰まって倒れた。


「さあ、立ち上がれ」マーカスが腹を蹴りながら言った。「本当の実力を見せてみろ。」


エリアスは立ち上がろうとしたが、トミーが踵で手を踏みつけた。彼は痛みで叫んだ。


「俺が思うにな」マーカスが彼の隣にしゃがみ込んだ。「君の妹は今いる場所の方がいいんじゃないか。少なくとももう苦しまない。君ももう彼女の世話をしなくて済む。」


「やめて...」エリアスは話すのが困難だった。「お願いだから...」


「お願いだから?」マーカスが爆笑した。「聞いたか、みんな?お願いだからって言ってるぞ。」


彼らは殴り続けた。あまり強くはなく――重傷を負わせたくはなかった。ただ屈辱を与えたかっただけ。彼が今一人ぼっちだということを、悲しみの中でさえ彼らの慈悲にすがっていることを理解させたかった。


しばらくして、彼らは飽きた。笑いながら立ち去り、アリアの墓の隣で丸くなった彼を残していった。


エリアスは長い間そこにいた。とても長い間。泣いていたが、もう悲しみからではなかった。怒りから。純粋な憎しみから。


彼らに苦しんでもらいたかった。マーカス、ビッグ・ジョー、トミー。ヘレナ・クロス博士。ヘリックスの野郎ども全員。恐ろしい苦痛の中で死んでもらいたかった。


でも何より、理解してもらいたかった。愛する人を失うことがどういうことか知ってもらいたかった。癌のように内側から食い尽くすこの痛みを感じてもらいたかった。


彼は痛みをこらえて立ち上がった。肋骨が犬のように痛み、右手が腫れ始めていた。でもそんなことはどうでもよかった。


アリアの墓に近づいた。新しく盛られた土は太陽の下ですでに硬くなり始めていた。


「約束するよ、妹」彼はささやいた。「どうやってかは分からないけど、必ず償わせるって約束する。全員を。」


誰も聞いていなかった。この誓いを証言する者はいなかった。


ただ彼と死者たち、そして胸の中で何か生きているもののように成長するこの怒りだけがあった。


* * *


帰りの道のりは永遠のように感じられた。地下鉄が故障していた――またしても――ので、エリアスは歩いて帰らなければならなかった。貧困地区まで街を横断するのに2時間近くかかった。


痛む肋骨と腫れた手を抱えてネオ・ヴァルドリスの街を2時間歩いた。2時間、普通の生活を送る普通の人々とすれ違った。数キロ先で12歳の少女が合板の棺桶に埋葬されたばかりだということを知らずに。


世界は回り続けていた。店は開いており、テラスは満席で、子供たちは公園で遊んでいた。まるで何も起こらなかったかのように。まるでアリアが存在したことがなかったかのように。


それが彼女の死をより一層耐え難いものにした。


ついに自分のアパートの前に着いたとき、エリアスは引き返したくなった。空っぽのアパートに戻りたくなかった。壁に貼られたアリアの絵。彼女の整頓されていないベッド。至る所に散らばった彼女の物。


でも他にどこに行けるというのか?


手すりにつかまりながら5階まで上がった。疲労で脚が震え、肋骨は呼吸するたびに刃物で貫かれているような感じがした。


ドアの前で、彼は再び躊躇した。鍵が手の中で重く感じられた。


このドアの向こうに、彼の新しい人生があった。アリアのいない人生。一人ぼっちの孤児のクソッタレな人生。


鍵を回して中に入った。


アパートはまだ彼女の香りがした。安い石鹸と色鉛筆の混じった、彼にとって馴染み深い匂い。彼女の絵はまだ壁に画鋲で留められており、彼女が残したまま。至る所にバラ。赤、ピンク、白、黄色のバラ。いくつかはかなり上手で、他のものは完全に失敗作だが愛らしかった。


エリアスはソファに崩れ落ちた。もう泣く力すらなかった。


周りを見回した。アパートは小さかった――リビング、寝室、キッチンを兼ねた一部屋と、クローゼットほどの大きさのバスルーム。でもアリアは絵や拾い集めた小さな装飾品でそこを居心地よくすることに成功していた。


今はただそれが本当に何だったかのように見えた:スラム。


彼は携帯電話を取った。ヘリックス工場の番号をダイヤルした。


「ヘリックス工場、ソフィーです。」


「エリアス・メルシエです。仕事に復帰することについて聞きたくて。」


「ああ、エリアス!妹さんのことお悔やみ申し上げます。いつ復帰されたいですか?」


「明日。」


「明日?本当ですか?もう数日休まれても、誰も文句は言いませんよ。」


「いえ。明日で大丈夫です。」


電話を切った。働く必要があった。お金のためではない――もう養う人はいなかった。でも何かをする必要があった。自分の思考と一人きりでいないために何でも。


それに、工場でマーカスと仲間たちに会うだろう。彼らの目を見ることができる。今日したことに対してどう償わせるか考えることができる。


キッチンに行こうと立ち上がった。朝から何も食べておらず、胃が鳴っていた。でも冷蔵庫を開けると、葬式の前に痛みそうなものは全て捨てたことを思い出した。開けかけの牛乳パックとカビの生え始めた古いチーズの塊だけが残っていた。


牛乳をパックから直接飲んだ。少し酸っぱかったがまだ飲めた。


振り返ると、リビングの角にあるアリアの小さな机が目に入った。色鉛筆がまだ散らばっており、未完成の絵の隣に。太陽のように歪んだ黄色いバラ。


近づいた。赤い鉛筆を拾った。指の間で転がした。


アリアはこの机でどれだけの時間を過ごしただろうか?本物を見る日を夢見ながら、どれだけのバラを描いただろうか?


彼女の椅子に座った。子供用の椅子で彼には小さすぎて、体重できしんだ。白い紙を取って描こうとした。


赤いバラ。アリアが好きだったやつのような。


でも手が震えすぎていた。それに彼は描くのが下手だった。何にも見えなかった。


紙を丸めて床に投げた。


「クソ、アリア。君がいなくて寂しいよ。」


机に頭を置いて目を閉じた。ちょっとだけ。力を取り戻すまで。


目を覚ましたとき、外は真っ暗だった。


アリアの机で眠っていた。頬が彼女の絵にくっついていた。首がひどく痛み、顔に鉛筆の跡がついていた。


痛みをこらえて立ち上がった。携帯電話で時間を確認した:午前3時47分。


数時間後には工場に行くために起きなければならない。この前のクソッタレな日常に戻る。ただし今度は、夕方に絵と笑顔で待っていてくれるアリアはいない。


ベッドに倒れ込んだ。服を脱ぐ必要もなかった――どうせ明日着る他の服もなかった。


眠る前に、壁のアリアのバラをもう一度見た。暗闇の中で、それらも彼を見ているようだった。まるで彼に何かを期待しているかのように。


「どうすればいいか分からない」彼はそれらに言った。「どうやって償わせればいいか分からない。でも方法を見つける。約束する。」


目を閉じた。そして何日かぶりに、泣かずに眠りについた。


でも夢は血を流すバラと暗闇の中で復讐を叫ぶ声で満ちていた。

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