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ベルナル

第48世界「ベルナル」

その世界を一言で表すなら風と土の世界。

ベルナルは自然と調和した土地で、緩やかな丘陵に囲まれた草原地帯に小さな農村が点々と存在している。四季はあるが、空気は常に澄み、風は優しく吹き抜け、人々の暮らしを見守るように流れている。


この世界では、大都市や国家のような大規模な文明は存在せず、各村は長老を中心とした自治組織によって運営されている。人々は土地を耕し、風の流れや大地の呼吸に耳を傾けながら慎ましく暮らしている。


クロセリオが次元の割れ目から現れたのは、そんなベルナルの北部に広がる、静謐な森の中だった。

やわらかい風がクロセリオの肌をなで、世界がクロセリオの訪問を歓迎しているようだった。



「さぁ…どうしようか」

クロセリオはつぶやく。

まず考えるのは別の世界への転移の方法。それに向かってこの世界を旅しなければならない。

一般的に、別の世界に行くには次元の割れ目を通るのが一般的であるが、だいたいの場合次元の割れ目はその世界の権力者や上位存在に管理されているのが普通だ。レイベルのように自力でこじ開けるという頭のおかしい方法は普通出来ない。

もしくは「教会」を頼るのも一つの手だろう。第2世界「天界」、その実態は天界の主神、メルティアを神祖とする宗教「エン=アルマ教」を中心とした宗教世界だ。「理想」を教義とする、この宗教は多くの世界で信仰されており、信仰されている場所では教会が建てられている。その教会には定期的に天界から聖女が派遣されており、教会には天界とその世界とをつなぐ次元の割れ目が存在する。だが見ず知らずの自分に使わせてくれるとは考えずらい。


師匠との勉強でこの世界の知識は多少ある。だが、それはあくまで書物と師匠から得た概略でしかない。生きた情報、現地の事情は、実際に触れてこそ意味を持つ。まずは、人を探し、話を聞くこと——。



クロセリオは精神を集中し、五感を研ぎ澄ませ、半径5㎞以内の存在を知覚する。

(小動物の気配、飛び交う鳥の影、人間、ゴブリン…これは…まずいな、襲われている。ゴブリンは人を襲うような獣ではなかったはずだが…まぁ仕方ない助けに行くか)


地を蹴った瞬間、風が唸った。

次の瞬間、彼は現場にいた。二体のゴブリンが、若い男を取り囲んでいる。恐怖と焦燥に満ちたその場に、クロセリオは風のように現れた。

無言のまま、剣を抜く。閃きひとつ、空気が裂けた。ゴブリンの一体が、悲鳴すら上げずに絶命する。残る一体にも容赦はない。踏み込み、崩し、蹴り飛ばす。


「あなたは…?」

クロセリオが振り返るとそこには若い男性、見た感じは何か持っているようには見えない。

「大丈夫か?なぜゴブリンが人を襲う?」


「ああ、なんとか……。でも、俺にもわからない。森を歩いてたら、急に襲われて……」


会話の最中、森の奥からさらなる気配が現れる。ぞろぞろと現れる影。異様な数のゴブリンたち。

クロセリオは剣を構え、息を吸い——


(たち)


次の瞬間、風と剣が一体となって走った。斬撃は風のように、音すら残さず敵を斬り伏せる。すべてのゴブリンが、斬られ、崩れ落ちた。


男は、その光景に言葉を失った。


「あんた…すげぇな…超越者か?」


「いや、違う。そもそもこの世界の住人ではないんだ。今さっき、師匠にこの世界へこさせられたとこでな、どうしようか考えていたときにたまたま見つけたんだ」


「ほー。じゃあ、あんたは人ではないのか。世界を自由に跨がせる存在など信じられんが、あんたほどの実力をもつ存在の師匠というんだったら少しは納得だな」


「あぁ、俺の名はディーブ。ここの近くの村に住んでいる。」


「クロセリオだ。自分の原点を探す旅をしている」


「へぇ…よくわかんないが、助けてくれてありがとな。何かお礼をしたいんだが」


「じゃあ、この世界について詳しく教えてくれないか?来たばっかで情報が欲しいんだ、あとはこの世界から別の世界へ渡る方法を知っていたら教えてほしい」


「いいぜ、だがこんな場所ではなんだ。俺の村に来てはなそう。命の恩人にお礼もしたいしな」


「いいのか感謝するよ」


ディーブは頷き、クロセリオを村へと案内し始めた。


そして、二人が歩き出したその森の奥——朽ちかけた風見塔の頂に立つ一本の羽根が、逆風の中で静かに震えていた。

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