06
「あ、起きた」
「……悪い、じっとしすぎて寝てしまった」
「いやそれはいいけどさ、この騒がしいところでよく寝られるね」
苦手ではなかったのかと聞かれたから苦手だったと答えておく。
何故か今日は気にならなかった結果がこれだからいいのかどうかはわからない。
ゲームセンターのくせにと言ったらおかしいが入口のところに座れる場所があるのがよくなかった。
「慎といなくていいのか」
「けいちゃんと楽しそうにしているから空気を読んで離れている感じかな」
「それなら行こう、喜古だけが遠慮をする必要はない」
「いや別に遠慮とかじゃないよ? 年上として余裕があるところを見せたいんですよ」
「一緒に過ごそうとすることで余裕がないと判断をされることはない、行こう」
行ってみると確かに楽しそうに遊んでいたが離れる必要なんかはない。
慎に色々と話をしてからコインゲームなんかを見に行くことにした。
こういうのもセンスが必要でセンスがない人間がやったらあっという間にコインがなくなってしまうことを知っている、が、たまにはということでやってみることにした。
「やっぱり長く遊ぶならコインゲームだよねー」
「喜古」
「そ、そんな顔をしないでよ、岩二君だって参加メンバーなんだから一緒にいたっておかしくはないでしょ?」
嫌というわけではないがもったいない。
だが、ずっと見ていても戻ろうとしなかったからそれならと一緒にやってもらうことにした。
「後で払うね」
「気にしなくていい」
経験がないから隣でやってお手本を見せてほしいという狙いがある。
あとはいつも一人でいる人間的にはおかしいがここでは一人でいたくないというのもあった。
「岩二君っていつもそれだね」
「俺が一人でやっても数秒ぐらいプレイできる時間が増えるだけだ」
「ははは、それは悪く考えすぎだよ」
わかったのは昔の俺は大きい音が苦手なだけだった、ということだった。
でも、小学生時代にゲームセンターに何回も通い続けるような人間ではなくてよかった。
「失礼します」
「わ、無理にここに座ろうとしなくても横とか余裕があるのに」
いきなり人間が生えてきたら誰だって驚くものだ。
心臓に悪い、冬だったらもっと影響を受けていた。
「なんとなくここでやった方が長くできる気がしたんです」
「そ、そうなんだ」
「あ、そういえば木村先輩から喜古先輩を呼んできてほしいと頼まれたんです」
「わ、わかった」
喜古が去り、隣に座ったけいに意識を向けると「嘘じゃないからね?」と言われて頷く。
「一緒にやっていたらいつの間にか喜古先輩が消えていたから気になっていたんだよ」
「喜古は遠慮をしてしまうところがある」
「私に問題があるのかな? 昔もそんなことがあったんだよね」
「わからない」
ただ、昔も似たようなことがあったということならなにかがあるのかもしれない。
もっとも、悪い方に考えて、嫉妬をして、それで攻撃をする、などというのは駄目だが。
正当化してはいけない、大きな壁になったとしても好きな存在に振り向いてもらえるように努力をするしかないのだ。
ただ一緒にいるだけの存在を攻撃するようなら余程の物好きでもない限りは好かれることはないだろう。
「気を付けないとなとは考えつつも、仲良くできた方がいいから抑えられていないんだよね。普通にしているだけなんだけど……敵視されることも数回はあったというか……」
「魅力的で勝てないと考えてしまうからかもしれない、余裕がなくなってしまう」
「余裕がなくなってしまう、か」
って、なんでこんな話をしているのか。
結局、コインの方はなくなる前にけいに渡して見ていることにした。
恋をした状態がどんな感じなのかもわかっていないのにアホすぎる、そして気にしすぎているから直さなければならない。
「ふぁぁ……」
「眠たいのか」
「うん……ちょっと昨日、寝られなくてね」
「それなら慎の家に移動した際に寝させてもらえばいい」
これも慎に感謝するしかないな。
いやでも、聞かれた際にすぐに慎の家だと言えた俺も悪くはない。
自分で言うなよという話ではあるが、一ミリぐらいはけいや喜古のためになっているからだ。
「そうしたらてつさん、一人で行っちゃうでしょ?」
「元々、けいが歩く必要なんかは全くないからおかしくはない」
「あるよ、部活がなくなったから軽くでも運動をしておかないと太っちゃうよ」
「そういう理由からならもっと受け入れられない」
何回か受け入れてから言うのは矛盾しているものの、慣れないというのもある。
一人で好きなところまで歩いて、好きなところで折り返して帰るという繰り返しでいい。
参加したメンバーによって距離が短くなることなんかはどうでもいいが、どうしたって参加した側はこちらのことを考えて無理をしようとするから駄目なのだ。
そこではっきり言ってくれるなら俺だって断らない、しかしけいはそうではないからきっかけを作らないようにしたかった。
「……なんで今回はこんなに頑ななの……」
「迷惑をかけたくないからだ」
おまけ感がすごいがこれもある。
というか、音がすごい場所にいるのにちゃんと全部聞き取れていることに意識が向いた。
苦手だったのはいまよりも耳がよかったからこそなのかもしれなかった。
「今日は私も付いていくからね、絶対にいくからね」
「けい、いま風呂に入っているんだが」
まさかここまで付いてくるとは思わなかった。
それに今日は月曜日だ、目的地は学校だから付いてくればいい。
「うん、それは見ればわかるよ」
「風呂に入っているんだからわかるだろう」
「いや、だってそれは寝汗をかいたからでしょ?」
いや、そういうことが言いたいのではなくて開けてほしくないということなのだが。
喜古だって慎に対して同じようにはしない。
「とにかく、もう出るからリビングに行ってほしい」
「放課後は絶対に逃がさないから、逃げたらわかるよね……?」
それならけいが来るよりも前に学校から出よう、なんてな。
普通にしているだけで興味をなくす、逃げようとするからいまみたいなことをされてしまうのだ。
「おはよー」
「おはよう」
「うーん……けいちゃんに睨まれているように見えるのは気のせい?」
「大丈夫だ、喜古は問題ない」
本当は俺の方も問題はないはずなのだがけいがそれで終わらせてくれない。
少し頑固なところもあるということがわかった。
「ということは岩二君がやらかしちゃったんだね、なにをしたのかなー?」
「喜古からすればどうでもいい情報だが俺は歩くことが好きだ、その歩くときに参加させないことが気に入らないらしい」
「え、暑いんだから大人しくしておきなよ、けいちゃんは特にね。自分の体力が笑えないぐらいないってことがこの前、走ったときにわかったでしょ?」
味方になってもらいたくて吐いたわけではないが喜古の存在は本当にありがたかった。
「うっ、あ、歩くぐらいなら大丈夫ですよ」
「ほんとうにぃ……?」
「す、少なくともてつさんに迷惑はかけませんから」
「じゃ、岩二君は明日になったらどうだったかを教えてねー」
教室に移動して鞄を机に置こうとするその手を掴まれてしまった。
「喜古先輩に味方になってもらおうとするなんてずるい」
「それ以外に関してわがままになればいい」
「嫌だ、絶対に付いていくから」
「わかった、とはならない」
だが、今度は何故か笑顔になった。
やはり唐突に引っ越すことになったことで精神に影響を受けているのかもしれない。
ただ、俺にできることはこうして相手をさせてもらうことだけだからどうしようもない。
とはいえ、だったら受け入れてやれよと言われてもそれとこれとは別だ。
「はは、ははは」
「こら、岩二君にうざ絡みをしないの」
っと、朝はもう来ないと思っていたのに喜古も不思議な存在だった。
自分的にありがたいけどありがたくないという難しい状態になってしまっている。
けい及び慎に対してだって解決していない状態でこれ以上増えるのは不味い。
「……どうせ喜古先輩には私の気持ちなんてわからないんですよ、なんでかてつさんに優先してもらえる喜古先輩にはね」
「んー確かに岩二君は私に優しくしてくれるから間違いでもないか、ごめん」
「その余裕のある態度も私がこうなっている原因でもあるんですけどね」
本当にそう思っているのだとしてもそのままぶつけられることがすごかった。
まあ、表情一つで相手をなんとかしてしまえるような力があるから寧ろ隠す方が違和感のあることなのかもしれないが。
「ん? つまり嫉妬しちゃっているということ?」
「そうですよ、私だっててつさんに優先してもらいたいです」
「え、岩二君はけいちゃんを優先していると思うけど、ねえ?」
「そのつもりだ」
慎は部活動、喜古は慎に興味があるということでなにかを頼まれることはけいからしかない。
最近の歩くこと以外に関しては受け入れていたから言わせてもらった。
「ほら」
「だって参加させてくれないんですよっ?」
この短い期間でまたこのけいを見ることになってしまったのは間違いなく悪いことだ。
「あら、珍しく大きな声」
「そんなことはどうでもいいんですっ、もうてつさんっ」
「静かにした方がいい、ほら、みんなが見ている」
「もうもうもう……」
あ、だがこれもわがままになった方がいいと言った結果なら無関係ということはないか。
「わかった、放課後になったら歩こう」
「いいの……?」
「ああ、だが距離は短くする」
「うん、一緒に歩けるならそれでいいよ」
「んー岩二君はそっちを選ぶのねー」
ちなみに喜古ならどうするのかと聞いてみると「私は貫くよ」と真顔で答えてくれた。
が、すぐに元通りに戻して「けいちゃんを優先している慎を見てあっという間に弱音を吐いた人間が言っても説得力がないのかもしれないけど」と重ねてきたから首を振る。
それも今回の件とは別だから気にしなくていい。
安心できないかもしれないが俺よりも遥かにマシだと考えればよかった。
「はぁ……また嫌なところを見せちゃった」
「俺がすぐに受け入れていたらああなってはいなかったんだから気にしなくていい」
「でも、やってしまったというそれは消えないからね……」
「明るくいこう」
「うん……」
なにか甘い飲み物を飲んだり食べ物を食べたりすることで落ち着くことを期待して近くにあったコンビニに寄って買ってきた。
「飲んでほしい、食べ物もある」
「え、なんで受け入れてくれたら今度はそうなの……?」
「いらないなら母さんに渡すからいい」
「そ、そうじゃなくて、なんかこう……一気に優しくなるというか……」
「落ち着くからだ、俺でもこういう力に頼るときがあるからだ」
実際にやってみて効果があったことだから相手の反応が怖くないということが大きい。
差し出しつつ待っていると「ありがとう」と受け取ってくれた。
どれぐらいのところで帰ればいいのかを考えていると「てつさんが先に飲んで」と言われて意識を向ける。
「学校を出る前に水を飲んできたから大丈夫だ」
「駄目、飲んで」
「それはけいに買ったものだ、少なくとも先に飲むことはできない」
「じゃあ……んっ、はい!」
最近はこんなことばかりで困ってしまう。
だが、拒めばどうなるのかはそのおかげでわかっているから頑張って口をつけずに飲んだ。
地味に初めてする行為だったから上手くやれてよかった。
間違えて口がついて陰で捨てられたりなんかしたら自由とはわかっていてもやられてしまうからな。
「行こう」
「うん」
まだ案内できていない場所は沢山あるがいい場所はほとんど遠いところにあるから放課後のいま連れていくわけにもいかない。
それこそ慎がまた付き合ってくれれば俺よりも知っているということでいいものの、喜古を不安にさせたくなくというそれがあって難しい。
そもそもその日に動くことになるのはけいと慎だから俺が決めただけではなにも変わらないというのもある。
「そういえばここ……」
「なにもない場所だ」
昔はよくわからない建物があったが小さい内になくなった。
ここを通ってもいちいち意識を向けるようなことはない場所だがなにか気になるらしい。
でも、けいからすればこの場所を知ったばかりなのだからなにもおかしなことではない。
「うん、そうなんだけどあっちに似たようなところがあってね? そこですぐに家に帰らないで友達と長く話したりしたんだ」
「似ているところがあるなら悪くないかもしれない」
元々の県に戻れるのは離婚をしたときか一人暮らしをしたときだけだ。
だからこそ少しでも似たようなところがあれば違うと思う、そこに友達はいなかったとしてもそうだ。
「でも、長く付き合ってくれるような友達がいないんだよね」
「俺でいいなら付き合う」
「え、てつさんが付き合ってくれるかな……なんてね、それなら本当に嬉しいよ」
というか、今日はすぐに笑うけいも無表情な時間が多かった。
お前ではないのだから真面目な顔だと言われてしまうかもしれないものの、俺はけいの笑った顔が好きだから――って、笑っていてほしいと願うのは違うか。
だが、言わなければ伝わらないことではあるし、こういうときに隠そうとするのも自分らしくないから言わせてもらった。
「……ま、前も魅力的とか言ってくれたよね」
「ああ」
「実際はただ面倒くさい人間なのに……まだそう思ってくれているの?」
「面倒くさいところなんてない、それにこの短期間で変わったりしない」
少し心配になるから前を歩いてもらおうとしたら足を止めてしまったのでこちらもそうするしかなくなった。
「体調が悪いのか」
「ううん、だけどなんかいっぱいいっぱいで……余裕がなくて……」
「それなら帰ろう、歩くということはできたから続けるよりもけいのことを優先したい」
「さ、先に帰っているね」
あれだけ走ることができれば大丈夫か。
とはいえ、適当に口にしているとは思われたくなかったから家に向かって歩き始めた。
なんとなく先程の場所に意識を向けてみたがやはりなにもないな以上の感想が出てくることはなかった。
残念ながら今日は部屋にこもってしまったみたいだったため、圧をかけないためにもリビングで両親が帰宅するのを待つ――前にご飯を作ってしまうことにした。
これは意地になっているところもあるし、いつも作ってくれている母やけいに礼がしたいというのもあった。
「ただいま……って、てつが作ってくれていたんだ? いい匂いだね」
「ああ、俺もたまには動きたかった」
「そっか、ありがとう」
母のこういうところが好きだとは考えつつも、なら何故この前は断られてしまったのかが気になり始める。
「ところで、けいちゃんは?」
「一緒に歩いていたんだが先に帰ってしまってからは会えていない」
「またなにかがあったんだね、言えることなら教えてほしいな」
これは出していないだけ、母が話を逸らそうとしているわけではない、だから勘違いをしてはならないと片付けて先程、あったことを説明する。
「暑いから心配だね」
「ああ、油断をしていたら本当に倒れてしまう」
経験があるのと、すぐ疲れてしまうことから心配になるのだ。
倒れられてしまうぐらいならそうなる前にうるさく言って自分を守ってもらうのが一番だ。
「ちょっと行ってくるね――あ、注いだりするのは私がやるからてつは休んでいればいいよ」
「いや、ここまでやったなら――」
「大丈夫だから、じゃあ、行ってきます」
何故だ……。
だが、意地になってもいいことはなにもないとわかったからなにもせずにソファに座っておくことにした。
そうしたら割とすぐのタイミングでけいが家から出ていって――って、何故だ……。
「ちょっとやらかしちゃったかも、てつ、代わりにいってきてくれない?」
「わかった」
母のことだからからかったりなどしてやらかしてしまったわけではないだろう。
いまはとにかく不安定ということでいっていいのかはわからないが家にいるという選択肢はなかった。
「けい」
「あ、てつさん……」
近い場所にいてくれてよかった。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい」
「お母さんは怒っていなかった……?」
「ああ、それどころか心配していた」
母が怒ったところなんて本当に小さいときに無理をしたときぐらいしかない。
そのため、余程のことをやらかさない限りは見ないままで済むから安心してほしい。
「お母さんはただ話しかけてきてくれただけなのに余裕がなくて飛び出ちゃった」
「けいはああいうときに静かに出ていくのか」
「え? あ、うん、だって扉に八つ当たりとかしちゃったら可哀想だし……」
「余裕がないときでもちゃんと考えられるのはいいことだ」
なんて、そんな話ではないか。
ただ、すぐには帰りたくないということだったのでもう少しだけ家の近くまで戻って落ち着くのを待つことにした。
家に帰ることを決めて家に着いてからはすぐに謝って洗面所に消えてしまったのだった。




