胸騒ぎ
この物語はフィクションです。
「なんかねぇ…変な胸騒ぎがするんだよな」
オーロンもそのようだ。
「今日は特になんもないな…強いていえば午後から雨降るくらいか」
カールがテレビに視線を戻して言った。
「それなら午前中にクレイのとこ行ったほうがいいな」
オーロンの言う通りだ。雨はごめんだからな。
「ダレクが食い終わったら行くからな。用意しとけよ」
「あー!今の特集見たかった!」
カールが切った電源を急いで付け直すランディ。この光景を見ていると平和ボケしそうだ。クレイの怪我が治り次第前線復帰なのに、これではたるみすぎな気がするな。
「ダレク、急がなくていいからな」
テレビに釘付けのランディが言ってきた。
「急ぎたくても急げねぇよ、誰かさんがブラック持ってくるせいで…うぅん、まだ苦い」
ランディの表情にはかなりの悪意が見えた。あの野郎…。俺がミルクと砂糖をマシマシにしていると、不意に破裂音がした。窓ガラスが割れたようだ。…ここは3階のはずなんだが。次の瞬間、ランディが叫んだ。
「伏せろ!」
考えるより早く体が動いた。直後に凄まじい爆発音がする。コーヒーが入ったマグカップは粉々になっていた。部屋中にコーヒーが散乱している。俺にも多少かかった。
「全員警戒、そして戦闘準備しろ!」
「了解!」
カールが素早く銃を取り、玄関に向かった。オーロンも続く。俺もすぐさま戦闘服を引っ掴み、着替える。
「歯車と貝殻で窓方面を、俺と包帯で玄関側を見る。お互いに何かあったらすぐに連絡しろ」
カールがきびきびと指示を飛ばす。オーロンが付け足した。
「あと、無理するなよ。怪我の心配はあいつだけで十分だ」
粉々になった窓ガラスを乗り越え、外を確認する。早朝とは対照的に人通りが多く、襲撃の犯人がいても全く気づかないだろう。不意にランディが脇腹を突いてきた。そして、無言で玄関を指した。俺は小さく頷き、素早く遮蔽物に身を隠した。
軽快な音が鳴る。玄関のチャイムは無情だ。こんな有事でも明るい音を鳴らす。
「宅配でーす。開けてくださーい」
やはり聞き覚えのある声。向こう側もわかっているのだろう。最低限の演技だ。
「返事がないってことは入っていいね?」
犯罪者的思考だな、鉛玉で迎えてやろうか?ドアノブが少し回った時だった。
バン!
と一発の銃声が響いた。銃を撃ったのは最前にいたカールだった。銃弾はドアを貫通したようだ。くっきりと銃痕が残ってる。外からはゲホゲホ言う声が聞こえてくる。そんなことは気にも留めずカールは扉を開けた。
「どうもいらっしゃい侵入者!」
腹を抑えたそいつにカールが蹴りを入れた。
「ゲホッ…ぁぁああ…はぁ…はぁ…ドアごと撃ち抜くとか頭イカれてるだろ…」
侵入者は立ってるだけできつそうだ。血がボタボタと地面にシミを作っていた。
「そりゃどうも、お互い様だ」
カールがさらに顔面に拳を叩き込む。が、侵入者はその手を払った。
「…次会う時は必ず殺す」
「あぁそう、次はないから残念だな!」
カールが至近距離で2発撃った。普通はかわせないが、そいつは超人的な動きでかわしてみせた。そのまま窓を破り、飛び降りていった。
「逃さねぇよ」
すかさずオーロンがスナイパーライフルを構える。毎度どこから取り出すのか、気づいたら時には構えている。
「…足…あ、着地失敗してる」
オーロンがスコープを覗きながら呟いた。カールが言った。
「…放っておいたら死ぬな」
ランディがすぐに階段に向けて走り出した。
下に着いた時、そいつは呻いていた。
「ぅぅ…痛…い」
3階から飛び降りたなら、両足が使い物にならないくらいにはなってるだろう。にしても、ルタード内では窓を破って飛び降りるのがブームなのかってくらいにはみんな飛び降りるな。
「一旦拘束して病院送りにしよう。尋問はまた後で。担架あるか?」
ランディが怪我の具合を見て言った。
「…なんで俺のことを殺さない?」
カールがそいつの顔に蹴りを入れた。
「死にたいか?」
「オカリナ、敵だけど一応怪我人。無闇に攻撃を加えるなよ」
ランディがカールを制する。カールはフンと鼻を鳴らして自分の銃に目をやった。
「おいクソ、よく聞け。わかってるだろうけど、なんかしたら容赦なく頭を撃ち抜く。いいな?」
侵入者はコクコクと頷くしかなかった。




