尋問
この物語はフィクションです。
幸い、病院には被害が出ていなかったのですぐに適切な処置を受けることができた。俺の怪我は大したことはなかったが、クレイは大事だった。
「あらら…これはまた派手にやったな」
この前手術を担当した医者が言っていた。ランディが状況を説明していた。説明が終わったあと、医者がカールたちに声をかけた。
「カール君とランディ君、部屋貸すから服着替えてきな。血まみれだぞ」
オーロンはというと、降伏した少年兵に付き添っていた。もっとも、降伏した少年兵は居心地が悪かっただろうが。だんだんと朝日が登ってきた。そうか、昨日から寝てないのか。そう考えた瞬間、疲れがどっと押し寄せてくる。真冬のロビーはひんやりとしていて、寒がりには厳しい環境だ。
「クレイならここでもガタガタ震えるだろうな…」
少し寝るか…。
…よく寝た、というわけでもないな。目の前には俺の顔を覗き込む二つの顔があった。ランディとカールだ。
「あ、起きた」
「怪我のほうは大丈夫そうか?」
「全然痛い。鎮痛剤は打ったんだけど」
そういえばオーロンがいない。どうしたんだろ。
「オーロンは?」
カールが答えた。
「あの子のとこ。今は面会してるんじゃないかな」
ランディが口を挟む。
「ルタードについて何か知ってることがあるかも、ってことでね」
ランディは続ける。
「この話題は食堂でしよう。腹減ったんだ」
⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
目の前には急遽設置されたであろうアクリルの壁。その向こうには敵の少年兵が俯いていた。しかもこの部屋の前には大人の兵士が見張りとして引っ付いている。
「やあ」
少年は黙っている。
「俺はオーロン・アンドリュー。君は?」
「…ヴィタリー・クリコフ」
ヴィタリーは警戒しているようだ。当たり前だよな、自分を殺そうとした兵士に何か聞かれるなんて、これじゃ面会じゃなくて尋問だ。
「単刀直入に聞く。「ルタードの口」というものについて、知っていることを全て言ってくれ」
ヴィタリーは黙ってしまった。それもそうだ、敵軍に簡単に情報を渡すわけにはいかないのだから。俺はメモを取り出した。こう書いてある。
(これは軍として聞いているんじゃない。俺たちの部隊は、「ルタードの口」には何かの裏があると考えて情報収集をしている)
そして、アクリルの板の穴から紙とペンをねじ込んだ。ヴィタリーは一言書き、こちらに向けてきた。
(なぜ)
俺は言葉を選び、書いた。
(仲間によって理由が違う。俺は母を見つけるためだ)
ヴィタリーはこちらを見つめていた。信じるか、疑うか、決めかねている目だ。無言の時間が続いた。そして、ペンを走らせ、書き終わると、こちらに戻してきた。
(ゲオルギー・クロマノフ。年齢、出生不明。「ルタードの口」と名乗る組織から作戦のために、この部隊に来た。
エンデと名乗った人物。南部前線にいた時、ペルニヒ軍の男から聞いた遺言。"ルタードよ、なぜこのエンデが死ぬ…"このあと、いくつか質問をしたが、何も答えなかった)
素早く読み終え、ヴィタリーに目を向ける。俺は軽く頭を下げ、言った。
「また来る。じゃあな」
席を立ち、紙を隠す。見張りの兵士に軽く会釈をし、その足で食堂に向かった。
(ペルニヒ軍にルタードを知る人物がいるのか?)
そう考えながら、足早に階段を降りていった。
⚫︎ ⚫︎ ⚫︎
「面会か、オーロンは得意そうだよなそういうの」
カールは肉を噛みちぎり言った。
「俺がやったこと話したら、「アホなのか」って怒られたよ」
「何したの…」
「銃眉間に突き付けて「話せ!」ってやった」
「お前何してんだよ…」
思わずため息が出てしまった。そんな方法はただの恐喝だろ…。カールは弁解した。
「過去にやられたことをやり返しただけだ」
それは…ダメと言うのは違うな。そんな話をしているうちにオーロンが戻ってきた。ランディが声をかける。
「どう?結果は」
オーロンが深刻な表情で言った。
「結果は上々。事態は思ったよりもでかいかもな」




