残る傷跡
この物語はフィクションです。
「カール、入るぞ」
クレイのお見舞いを済ませた後、俺たちはカールの部屋の前に立っていた。扉を開け、カールの部屋に入る。カールはベッドの上から窓の方を向いていた。
「カール、クレイが起きたそうだ」
オーロンの報告に、カールは全く反応しなかった。
「おい、カール?」
「…聞こえてるって」
カールがややだるそうに反応した。相変わらず窓の方を向いたままだ。クレイが起きたってことに一切の感情を抱いていない?そんなことあるか?
「…カール、その反応は…」
というオーロンの発言を遮ってカールが吐き捨てた。
「黙れよ、お前らにこの感情がわかってたまるかよ…」
ランディが割って入る。
「おい、せっかく来たのにその対応はないだろ」
これが間違いだった。次の瞬間、カールが窓辺に置かれていた花瓶を引っ掴み、こちらに投げつけた。花瓶はヒュンッと風を切る音とともにオーロンに直撃した。当たった衝撃で後ろに倒れるオーロン。
「痛って…」
カールがこっちを向いていた。げっそりと痩せ、くっきりとクマができ、元のイケメンが台無しだった。それよりも、表情の方が気になった。何かに怯えるような表情。今自分がしでかしたことの重大さに対する恐怖かもな。
「…」
オーロンが立ち上がり、濡れた服を少し手で払った。そしてちらっとカールを見た後、扉に向かって大股で歩いていった。
「…あぁ…待って…ごめん、悪かった…」
カールが消え入りそうな声で言った。オーロンは振り向きもせず言った。
「もういいよ」
そして、そのまま部屋を出ていってしまった。ランディも続いた。俺とカールだけがその場に残った。気まずい空気が流れた。
「…カール。お前が抱えてる思いなんでも言ってみてくれ。聞くだけしかできないけど、気持ちは吐き出すだけ楽になるぞ」
「…お前には言いたくねぇよ」
カールの発言はいちいち攻撃的だった。
「なんでさ」
「…理由も言えねぇわ」
お互い多少発言がピリピリとしてきていた。
「なんだっていい。俺は友達が苦しんでる姿が嫌だってだけだ」
「…だから、俺はどうしても言えないって」
「そんな時、お前が俺に言った言葉そのまま返してやろうか?」
「…何?」
「お前本当に弱ぇな」
「…!」
カールの表情が変わる。純粋な怒りじゃなさそうだ…と、俺が思った時、クレイは凄まじい速度で俺のポケットに手を伸ばし、銃を奪っていた。そして、俺が反応する前に、
バンッ
と、俺に向けて発砲した。弾は俺には当たらなかったが、後ろにあった額縁に命中した。甲高い音とともにガラス片が崩れる音がする。銃声に医者たちと警備員が入ってきた。カールは構わず二発目を撃った。今度は俺の耳を擦り、また額縁に命中した。警備員が俺とカールの間に入り、カールが抑えられる。続いて俺も抑えられ、人波の間を通り抜け、部屋の外に出された。抑えられた後、カールが叫んでいた。
「お前に俺の何がわかんだよ!!!」
それからまもなく、鎮静剤か何か打たれたのか、物音はなくなった。




