空回り
この物語はフィクションです。
エンツァイは容赦なく追撃。軽く下がったクレイに銃弾が飛ぶ。が、銃弾はクレイをギリギリでそれた。
「危ねぇ!当たったらどうする気だよ!」
「心配するな、一発で殺してやる」
クレイが放った冗談を冗談で返すエンツァイ。どうやら戦闘中は性格が変わるタイプのようだ。前戦った時は冗談が通じなさそうな感じだったのだが。…いや、待てよ。一発で殺すは冗談じゃない気がする。
「そうか、一発で殺すってのは…」
クレイがナイフを逆手に持ち替える。
「こうゆうことかぁ!?」
クレイが左下から斜めに切り上げる。逆手に持っているのでポイントが真っ直ぐにエンツァイの喉を狙う軌道だ。エンツァイは軽く後ろに下がりかわす、のをクレイは読んでいた。どこからか取り出した2本目のナイフを右手で逆手に握り、また喉を狙う。エンツァイは面食らったようだが、それでもギリギリで避ける。しかし、ナイフが頬を掠ったようで、赤い線が顔に残る。
「…また顔に傷が残っちまうな」
頬にできた傷を触り、指についた血を見ながらエンツァイが呟く。クレイは右手のナイフを地面に投げ捨てて言った。
「前回より動きが鈍いんじゃない?傷が治ってないとかか?なあ」
エンツァイは表情を変えずに言う。
「俺のこと散々追い討ちしておいて何言うか…」
オーロンがニヤリとしているのに俺は気づいた。クレイが笑い、また正面から突っ込む。速い。ナイフを振り上げ、エンツァイに刺さった、と思った。クレイの腹にエンツァイの前蹴りが綺麗に入る。
「ゲホッ…」
背中から後ろに倒れるクレイ。エンツァイは容赦なくクレイに銃を二発撃った。一瞬の出来事だった。
「油断はダメだな。戦闘狂は戦闘に入ると周りが見えなくなる」
エンツァイはそう呟き、こちらを見た。
「さあ、誰が来る?」
ここは、俺が行くしかないだろう。全員に小声で耳打ちする。
「俺がやる。お前らはオカリナを助けに行け」
ランディが肩を叩き、言葉少なく言った。
「歯車、死ぬなよ」
当たり前だ。…と言いたいが、俺じゃ多分こいつを殺せない。こいつは強い。真正面からやり合ったら数分も持たないだろう。もっとも、真正面からやり合ったら、だ。
「エンツァイ、俺だ」
「…鉄パイプの少年か」
エンツァイは苦々しくこちらを眺める。俺は銃を引き抜いた。俺の得意分野は射撃。これは、完全な熟練度の勝負で、運は味方しない。接近戦になったら俺はあいつに敵わない。ならば、距離をとって時間を稼ぎ、カールを待つ。それが俺の出した最適解だ。




