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下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

卵が先か、帰宅が先か

作者: 夏月七葉

「はあっ!?」

 先ほど受け取ったばかりの手紙に目を通したトーマは、思わず大声を上げた。同じ部屋にいたパーティの仲間達が一斉に彼を見るが、気にする余裕もなかった。

 短い文章を何度目でなぞってみても、当然内容が変わるわけもない。

 トーマは勢い良く立ち上がると、急いで身支度を整えた。部屋を出ていこうとしたその時、唖然と彼を見ていた仲間の一人が声をかける。

「おいおいおい。もう暗いのに、何処に行くんだよ」

「帰るんだよ!」

 ピシャリと言い放ったトーマは、ぽかんとする仲間を置いて宿を飛び出した。

 彼等には悪いが、今は一刻を争う。仕事は終わっているから、自分一人がいなくなっても問題はないだろう。トーマは一人、帰宅の途を急いだ。


 魔法使いの多くは、獣魔と契約を交わし、使い魔としていた。その獣魔は卵から孵化するのだが、契約できるのは生まれて初めて目にした人間だけだという。

 魔法使いであるトーマは、先日、やっとの思いで獣魔の卵を手に入れた。が、その直後に所属しているパーティに急を要する仕事が入ってしまった。それがまた地元から遠く離れた場所で、流石に持っていけないと思い、卵を知り合いに預けて出てきたのである。

 そうしたら、泊まった宿で卵が孵りそうだと一報を受けた。

 苦労して手に入れた卵なのだ。無駄にしてなるものか。


   *


 肩で息をしながら、自宅の玄関の前に立つ。

 三日三晩、ほとんど休むことなく、どうにか帰り着いた。道中色々とあったが……思い出したくもない。今現在、身形が酷くボロボロだということだけ伝えておこう。

「た、ただいま……」

 玄関を入ると、留守を任せた知り合いが笑顔で出迎える。

「グッドタイミング! 丁度今、卵が孵りそうだぞ!」

 ベッドの上に置かれた卵に目を向けると、表面に深い罅が入って今にも中から幼獣が出てきそうだ。トーマが慌てて近寄ると、卵の上部が蓋のように外れて、長細い身体がニョロリと飛び出した。

 トーマは愕然として、孵ったばかりの獣魔と見つめ合う。固まってしまったトーマを心配した知り合いが、そっと彼の肩を叩いた。

「おい、トーマ。どうした?」

「オ、オレは――」

 泣きそうになりながら、頭を抱えて天井を仰ぐ。

「オレは、蛇が大の苦手なんだよお!!」

 人間の言葉を知らない蛇の獣魔は、嬉しそうに主人の腕に巻き付いた。

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