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三番目の王子

作者: 大川雅樹

 これはずっと昔、山や海がまだ本当に美しかった頃のお話です。

 ある所に、青々とした山と静かな海に挟まれた、小さな王国がありました。

 王国のちょうど真ん中に、とても立派なお城が建っています。

 そのお城には、王様と王妃様と三人の王子様、そしてその従者達が住んでいました。

 一番目と二番目の王子は、子供の頃から健康で頭も良く武術にも優れていたので、王様にとっても大変誇らしい二人でした。

 しかし、三番目の王子は身体が弱く、少し知恵遅れでした。

王様はこの三番目の王子を恥ずかしく思っていましたが、王妃様は上の二人の息子よりも気にかけていました。

 三番目の王子は、喋る事もあまり上手く出来ませんでしたが、子供の頃から絵を描くのが好きでした。

 三番目の王子は絵が完成すると、真っ先に王妃様に見せました。

「お母様、描けたよう!」

その絵はとても上手でした。

(この子には、絵の神様がついてるかもしれないわ。)王妃様にそう思わせる程でした。

「すごいわ、上手に描けたわね。」そう言って王妃様は三番目の王子の頭を撫でるのでした。

 三番目の王子にとっても、母親に誉められるのが何よりも嬉しい事でした。

 王様は絵しか描けない三番目の王子を軽んじましたが、王妃様は自由に絵を描かせました。

 三番目の色々なものを描きました。それは人であったり果物であったり、山や海も描きました。

 また、想像上の動物を描くのも得意でした。空を飛ぶドラゴンや、ユニコーンにケンタウロスなどを、それは生き生きと描くのでした。

 こんな事もありました。ある日、三番目の王子が一粒の種を机の上に置いて絵を描いていました。

 それを見た王妃様がキャンバスをのぞくと、そこには咲き誇る花が描かれていました。

 王妃様は、その種を育ててみました。すると数週間後に、キャンバスに描かれたのと同じ花が咲いたのでした。

 王妃様はあらためて、この子の絵の才能は普通ではないと思いました。

 そして三番目の王子は成長するにつれて、絵に命を吹き込むがごとく上達していったのでした。

 三人の王子達が大人になるにつれて、王様は王位に誰に継がせるかを悩みました。

 そこで、古くから仕えていた女占い師に相談しました。王様は神様に決めてもらう事にしたのでした。

 そして女占い師は神様からのお告げを王様に話しました。

「王位は三番目の王子に与えるが良し。それを望まぬなら、三人の王子に同等に国を分け与えよ。」

「何だと⁈」王様はびっくりしました。

 あの知恵遅れの子に王がつとまるわけがない。例え三分の一だとしても無理だと思いました。

 しかし一度神様にお伺いをたててしまっては、そのお告げに逆らうわけにはいきません。

 王様は、悩んだ末に王子達を一人一人呼びました。

 王様は一番目の王子に言いました。

「お前には国を半分に分けた山側の国を与えよう。」

一番目の王子は答えました。「はい、私は山の国の王となりましょう。」

王様は二番目の王子に言いました。

「お前には、国を半分に分けた海側の国を与えよう。」

 二番目の王子は答えました。

「はい、私は海の国の王となりましょう。」

王様は三番目の王子に言いました。

「お前には、絵の国の王となる事を命ずる。」

「はい、お父さま。嬉しいです。」

後でこの事を聞いた王妃様は呆れました。結局、三番目の王子には何も与えないという事だからです。

 しかし、王妃様から見てもとても三番目の王子に責任の重いくらいに思えます。だから、せめて好きな絵を描く人生を楽しんで欲しいと思い、何も言いませんでした。

 ただし、女占い師だけは王様に言いました。

「そんな事では、お告げをごまかした事になります。とても

神様が納得しませんぞ。」

「王様のわしが決めた事だ。これ以上口出しすると、お前のためにならんぞ。」

 そして、一番目と二番目の王子は、それぞれ山側と海側に新しい城を作り始めました。

 国の行く末を決めた王様は、ほっと安心してある事を思いつきました。

 王様は三番目の王子を呼んで言いました。

「お前は絵が上手い。そこでわしの肖像画を描かせてやる。」

「はい、お父様を描きます。」

そして、三番目の王子は自分の部屋にこもって王様の絵を描きました。

 1週間後に、三番目の王子は、完成した絵を持って王様の前に進み出ました。

 王様はその絵を見ました。

「なんじゃ、これは!?」

 絵を見た王様は、顔を真っ赤にして怒りました。

 その絵には、王様がベッドの上でもがき苦しんでる姿が描かれていたのです。

「不吉な!お前は何でこんな絵を描いたのだ?」

王様が怒るのを見て、三番目の王子は泣きそうになりました。

王様は、絵を切り裂いて叫びました。

「お前を牢屋に放り込んでやる!」

 そして、王様は三番目の王子を幽閉しました。

 この事を知った王妃様は、三番目の王子を許してくれるように頼みましたが、王様は聞く耳を持ちませんでした。

 せめてもと、王妃様は牢屋番に頼んで、三番目の王子に画材道具を差し入れしました。

 王様が病に倒れたのは、それから間もないうちでした。ベッドで王様は言いました。

「あいつは呪われた子かもしれぬ。決して牢屋から出してはいかん。」

 そして、王様が病気で苦しんでいる中、一番目と二番目の王子は、それぞれの新しい城へと移って行きました。王様の代わりにに新しい国をスタートさせるためです。

 まず、二人の王子は、真ん中の城を中心とした山の国と海の国の国境に高い壁を作りました。

 そして、お互いの領民が相手の国に行く事を禁じました。

 困ったのは領民達でした。親子や親戚が会えなくなる場合がおこりました。子供達も友達に会えなくなりました。

 山側の人には海のものが食べられなくなり、海側の人には

山のものが食べられなくなりました。

 王様の病気は段々と悪化していきました。ベッドの上で苦しむ姿は、まるで三番目の王子が描いた絵の様でした。

 王妃様は、毎日三番目の王子に会いに行きました。

 王妃様が声をかけても、三番目の王子は上の空です。

(少しやつれたみたい。)そう王妃様は思いました。

 それもそのはずです。食べる物も食べず、寝る間もおしんで絵を描き続けたのです。

 普通なら陽が落ちると、牢屋の中は真っ暗になります。それでも絵を描きたい三番目の王子はキャンバスに灯のともったランプの絵を描きました。

 すると

不思議なことに、絵の中のランプが牢屋の中を明るく照らしました。三番目の王子は、それが当たり前かのようにその光の中で描き続けたのでした。

 ある日、三番目の王子はおうひさかに、2枚の風景画を渡しました。

「これを兄さんたあにあげて。」

 王妃様は、うなづいてから言いました。

「ひどい顔をしてるわ。ちゃんと寝てるの。食べなきゃダメよ。しばらく描くのはやめて。」

「うん、後一枚だけ。」

 そして、三番目の王子は、また絵を描き出しました。

 王妃様は涙ぐみながら、その場を後にしました。

 王妃様は使いを出して、一番目と二番目の王子に一枚づつ絵を送りました。

 一番目の王子はその絵を見ました。自分の国の山を背景にして真ん中のお城が描かれていました。うみの国の側から見た風景です。国境を越えなければ見る事の出来ない風景です。

 そしてその絵には、壁が描かれていませんでした。

 二番目の王子に送られたのは、山側から見た海の国の風景でした。そこには、やはり壁が描かれていませんでした。

 それぞれの絵は、二人の王子の心に訴えられるものがありました。

 一番目の王子が絵を見て考え込んでいると、1人の従者が部屋に飛び込んで来ました。

「王子様!一大事です。空に大変なものが!」

一番目の王子はバルコニーに出て空を見上げ、そこにある物に我が目を疑いました。

 そこには、空を覆わんばかりに巨大なドラゴンが浮かんでいました。

 そのドラゴンは身体をのたわせながら、上空を横切って行きます。ドラゴンの次には巨大なユニコーンが歩くように飛び、その後にケンタウロスがつづかます。

 二番目の王子も、領民達も見ました。

 真ん中のお城では、王妃様もその空を見上げていました。王妃様はそれが三番目の王子の絵だと気づきました。

 女占い師が叫びました。

「おおっ!あれはまさしく王子の絵じゃ!神様はお告げの通り、山と海と空の3つに分けられたのじゃ!空には国境はない。」

 全ての人が空を見上げる騒ぎの中、ベッドでもがき苦しんでいた王様は、ほっと安心した表情を浮かべて、静かに息を引き取りました。

 やがて絵の行進が消えて行った後で、王妃様は王様が亡くなっている事に気づきました。

 王妃様は真っ先に牢屋へと向かいました。三番目の王子を外に出してやるためです。

 王妃様が牢屋の中に入ると、三番目の王子は堅いベッドに横たわっていました。

 王妃様は、震える手で三番目の王子のまるで眠っているかの様な顔の冷たくなった頬に触れました。そのまだ赤みの残った

頬に王妃様の涙が落ちました。

 そして王妃様は、涙が溢れる目で牢屋の中に残された一枚に絵を見ました。

 その絵には、王様と三番目の王子が手を取りながら、光あふれる空へと舞い上がって行く姿が描かれていました。


 それから間も無くして、山の国と海の国を隔てていた壁が取り壊されました。

 その後、美しい大空の下で山の国と海の国の民は、永く平和に暮らしました。

             (了)

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