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令嬢と婚約者、そして恋を知る  作者: 茅未つき
婚約者ルーカス
7/12

01.可愛い婚約者と私



 決して自分が望んだものでも、選んだものでもなかった。

 そもそも伯爵家の一人息子として生を受けた私は、物心ついた時には【こうあるべき】との枠の中にいて、自分の意思ひとつで決められることなどそうあるものではなかった。それでも、そう育てられ物分りのいい子供となった私にはさしたる不満もなく、だからそれについても、そんなものなのだろうと、受け入れていた。


 三歳下の、婚約者。


 幼くて、無邪気で、何の思惑もなく慕ってくれる。可愛い妹。

 お互いに想う存在が出来れば解消される、その程度の緩い関係ではあったけど、だからこそ素直に可愛がることが出来たのかもしれない。


 両家は親同士の仲が良かったために昔から家族ぐるみでの交流は頻繁で、子供を預け合うのも当たり前、彼女なんてある程度大きくなるまで実の兄が二人いると疑うこともなかったのではないかと思うくらいには、三人で一緒に過ごす時間は長かった。

 周囲の目は年齢を重ねるごとに私を私としてではなく、伯爵領を治めるランドール家の嫡男として値踏みするようになっていく。変わらないのは、幼なじみのセルジオとエヴェリンだけ……というのは、さすがに思い込みだったのだろうけど。少なからず彼らの存在に救われていたのは確か。


「ルーカスおにいさま」


 兄と呼んで駆け寄って、それが可愛くて愛しくて嬉しくて、抱き上げて微笑みあって。……そんな風に気軽に触れられなくなったのは、いつからだったろうか。

 学園に入り毎日のようには会えなくなってからか、会うたび成長していく彼女の姿に、これまでとはどことなく異なる感情が湧く。

 可愛いことは知っているつもりだった。それでも日に日に可愛く綺麗になる彼女に戸惑って、焦って、ああこの子と結婚するかもしれないのかと、むず痒いような、笑いだしたくなるような、不思議な気持ちに胸が高鳴った。


 二年遅れてセルジオが、さらに一年後には彼女が後輩として入学すると、授業の合間や放課後など以前のように顔を合わせることが出来るようになって、だけどそれは、以前と同じ楽しさや落ち着きをもたらすばかりではなかった。

 彼女に友達が出来ればともに喜び、授業が難しいと聞けばアドバイスをして、お茶会やダンスの必要があると言うなら練習相手に名乗りを上げた。そしてその一方で隠れて不安をこぼす私に、セルジオは肩を竦めて笑うのだ。


「三学年になれば交流も増えるからね」


 そう言って王女殿下の誕生祭に彼女を連れ出したのは、もちろんその名目通りの意味もある。フェルディナ学園では低学年である一学年二学年の間は、男女、貴族庶民、それぞれが別れて基礎的な授業を受けていたのが、三学年以降は交友関係を広げて築けるようにと、お茶会やパーティーなど、性別や身分の垣根を越えた交流が行われるようになるから。その前に、少しでも慣れるように。

 しかし私の主目的は、


「こちら婚約者のエヴェリン・オルレア嬢です」


 彼女が私の婚約者であることを、彼女には私という存在がいるのだということを、宣言するため。……まるっきり子供の主張のようだ。自分でも情けないと思いながらも、成長し世界を広げていく彼女を前にすると、どうにも冷静ではいられない。

 それでも翌年の同じ誕生祭に参加した際にも、それこそ女性の友達を紹介してはくれたが、男性はまだ近寄り難いのだと恥ずかしそうに告げられ、心底安堵したのだ。


 人見知りなところのある子。だから勝手に安心していた、このままいつまでも私だけを好いてくれるのかもしれないと。そこからさらに一年後、他の男とダンスを踊る姿を目の当たりにするとは想像もせずに。


「エヴィ! エヴェリン!」

「あら、ルーカス。お友達はもういいの?」


 学園で出来た友達と思しき男と手を取り合う彼女に、その微笑みに、腹の底にどろりとした熱が生まれるのを感じた。その状況の発端は自分が知人たちに囲まれたせいだというのに。

 周囲に断りを入れつつ駆けつけた時にはその男とは別れていたが、また別の男に絡まれているではないか。


「婚約者が世話になった」

「放ったらかしにされているお嬢さんと話していただけだよ」


 へらりと笑うのは他でもなく私の友達のエンリック・エメリスで、過去に互いを紹介していて二人はすでに顔見知り。


「久々に会ったっていうのにご挨拶だな。僕が何かするはずもないって知っているだろう」

「それでも愉快な気分でないことも、知っているだろう?」

「まあね」


 エンリックに下心などあるはずがない。まだ公にしていないものの、奴には婚約間近の想い人がいる。エヴェリンが、友達の婚約者が他の男といるのを見て取って、保護でもしたつもりだったんだろう。分かっている。それでもひとりでに騒ぐ心臓、どれだけ余裕がないのか、自分の狭量さに閉口するしかない。


 黄色いドレスの華やかさにも引けを取らない佇まい、花飾りで髪を彩るその姿はこれまでよりも大人びて見えて、息苦しささえ覚えた。もっとずっと、子供のままでいてくれたら――。


 日に日に綺麗になる彼女と、日に日に情けなくなる自分。彼女の前では格好をつけたいのに、彼女の前だからこそ格好悪いことばかり。

 これが恋なのか、兄妹愛ゆえの所有欲なのかも分からないまま、嫉妬心ばかりが育っていく。



ルーカス側を書いてみることにしました。

同じ場面も出てくるかとは思いますが、ゆっくりと投稿していきたいと思います。

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